感想:ゲーム「加奈〜いもうと〜」

 過去のゲーム感想が見付かったのでサルベージしてみました。・・・、もう10年近く前になるのか・・・、年取ったよなぁ。

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■一言紹介

 発売直後からシナリオ内容で大反響を呼んだ感動系ノベル。シナリオライター山田一氏(のちの「田中ロミオ」氏)のデビュー作。


■データ

・ タイトル =加奈 〜いもうと〜
・ メーカー =D.O. (ディーオー)
・ ジャンル = ビジュアルノベル(公称は恋愛ノベルAVG)
・機種   =Windows95/98
・発売日 = 1999年6月25日(金)
・ 価格   = 8,800円
・ 必要容量= 約200MB
・ プレイ時間 初回=5時間15分。合計=17時間30分


■バックグラウンド

 1999年にひっそりと発売されたノベル。地味な絵、地味な設定、何より老舗でありながら存在感が希薄化していたディーオーから発売されたことで、最初は全くマークされていませんでしたが、プレイした人の感想が発表されるに連れて評価が上昇し、最終的には1999年を代表する作品の一つとなりました。


■プロローグ

 主人公「藤堂 隆道」には「加奈」という妹がいる。幼い頃は、病弱で幼い頃から入退院を繰返し、両親の愛情を独り占めにしていた加奈を憎んでいた隆道だったが、ある出来事を境に、一転、妹に惜しみない愛情を注ぐようになった。

 しかし妹に注ぐ愛情はやがて「兄妹愛」の範囲を越えて行くことになってゆく・・・


■登場キャラクター

 主要キャラだけピックアップします。ちなみにキャラの年齢・状況等は開始時点のものです。

◆藤堂 隆道(とうどう・たかみち)

 主人公。


◆藤堂 加奈(とうどう・かな)

 隆道の妹。病弱で入退院を繰り返している。


◆鹿島 夕美(かしま・ゆみ)

 隆道のクラスメート。子供の頃のある事件以来隆道の憎しみの対象。


◆近藤 美樹(こんどう・みき)

 加奈の入院先の病院に勤めるナース。新米ナース時代からの付き合いのため、藤堂兄妹にとって姉の様な存在。


■ゲームシステム

<概要>

 メーカーは「恋愛ノベルAVG」と謳っていますが、実質はゲーマーが言うところの「ビジュアルノベル」ですね。


<ゲームの流れ>

 隆道の視点で話が進むオーソドックスなノベル形式で、小学5年から大学1年までの約9年間をかけて、隆道と加奈の様々なエピソードを描いてゆきます。

 選択肢と選択肢の間が極めて長いため、「ゲームをしている」という感覚は希薄で、本当に「ノベル」として物語にのめりこませてくれました。


■原画/CG
 
 原画は漫画家の「米倉けんご」氏です。多分氏の最初のパソコンゲームの仕事だったと思います。


■総合感想

<絵>

 原画は漫画家の「米倉けんご」氏なのですが・・・、私は氏の漫画は3年くらい前(1996年頃)から知っていましたが、雑誌掲載CGを見て氏の名前は浮かばなかったし、氏の仕事と知ってもなお全然信じられませんでした。キャラの一人「伊藤 勇太」の猫目になんとなく雰囲気が有るかな、というくらいで、加奈・隆道・夕美・美樹さんなど、全然米倉キャラには見えませんね。

 あと、塗り方も滲んだ様な独特の色使いなので、絵で惹かれる、という要素は皆無でした。

 もっとも、この作品の絵はまさに「挿絵」程度の役割だと認識しているので、その辺りは特に気にはなりませんでした。


<音楽>

 作品のテーマ故に、落ち着いた、物悲しい雰囲気の曲が多いですね。個人的には「あなたへ」「Beleive」「ありがとう」「憂鬱な理由」などが印象深いです。


<物語>

 シナリオライター山田一氏。氏のデビュー作です。

 病弱な妹とひたすら彼女を想う兄の触れ合いが物語のほぼ全てであり、他の人達は殆ど出てきません。派手な展開は無く、結末も慟哭するような劇的さは有りません。扱うテーマは重いにも関わらず、驚くほどに静かに物語は進み、そして静かに幕を閉じます。

 「心を揺さぶる」という派手さは有りません。でもその代り心に静かにじわりと染みいってくるような、そんな何かがが有りました。

 私はマルチストーリー・マルチエンドという手法には、あまり好感を抱いていません。特にこの作品のような、人の心に訴えかけるタイプのテーマの場合、複数の結末を見るために繰返しプレイしていれば、その過程の中で、一回目に心に刻まれた物が拡散し希薄になってゆく様な危険を感じているからです。結末を一つに絞り、それに全力を傾けて我々の心に叩き付けて欲しいと常々願っています。

 しかし、「加奈」はマルチエンド形式であるにも関わらず、その様な不満を抱くどころか、マルチエンドで有ることに喜びさえ感じさせられました。
何故ならば、この作品のエンド群は、「満足感の少ない小ネタが何本か」でもなければ、「本命の結末とその他の外れエンド」でも無く、各々がそれぞれ一つの大作の結末として通用するだけのクオリティを備えていたからです。

 この作品を一回クリアした時、心が隅々までが澄み切った様な、そしてとても落ち着いた気持ちを味わいました。これこそが真の結末だと思い、だから、マルチエンドで有っても、残りの結末はせいぜいおまけ程度の物だと考えていました。

 大間違いでした。

 クライマックスの時点で分岐した各々の物語は、それぞれが最初の結末と同じくらいの重みを持って待ち受けていてくれました。特に最後に体験した結末は、最初にクリアした物に匹敵する衝撃を持って、私の心を打ちのめしました。これほどのクオリティの結末が用意されていた事で、「加奈」に対する私の評価は跳ね上がりました。ここまでハイレベルな結末が複数用意されていた作品は、私自身は初体験です。

 ただ、ただ一つ惜しむらくは、結末捜しの難易度の高さでしょうか。結末の数自体は適正な数に押えられていますが、要となる分岐点で選択を変えても、物語が表面上殆ど変わり無く進むので、ノーヒントで全てのエンドを見るのはかなり困難な作業になろうかと思います。この作品は「ノベル」ですから、難易度はさほど拘らなくても良かったのでは、と残念に思います。

 しかし、その点を考慮してもなお、この作品のシナリオの評価は高い水準に留まり続けています。本当にそれほど素晴らしい物語でした。


■まとめ

●評価=(10点評価で)9点。大満足。(ハイクオリティな結末の数々)

 「病弱な妹と兄の物語」という基本設定の時点で、既に簡単に泣かせられる下準備は出来ているのですが、にも関わらず、それに甘えた安易な方向に走らず、しっかり細かいエピソードを紡ぎ合わせて物語を作りあげて行っているのは好感が持てました。

 またどの結末も、号泣する様な派手さは無いのですが、本当に心にグッと来る物ばかりで、エンド捜しの辛さに十二分に報いてくれる内容でした。

 「D.O.」は90年代前半を頂点に、以後長期凋落過程に有ったと思いますが、この作品を持って一気に息を吹き返した感が有ります。このレベルの作品を今後も提供出来るのならば、以前の地位どころか、それを越えた遥かな高みにたどり着けるのではないか、との予感すらします。ただ一作でそれだけの夢を見せてくれる、本当に素晴らしい作品でした。

 未プレイの方は(ヒントチャートを用意して)是非プレイしていただきたいですね。プレイした事に絶対に報いてくれる好作品と、自信を持ってお勧め致します。


★蛇足

 こっちもよろしければ・・・

■ゲーム感想の小部屋
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