感想:小説「サイモン・アークの事件簿IV」(エドワード・D・ホック)(2012年12月21日発売)


 小説「サイモン・アークの事件簿IV」(エドワード・D・ホック)の感想です。

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■データ(公式)
http://www.amazon.co.jp/dp/4488201121
サイモン・アークの事件簿IV (創元推理文庫) [文庫]
エドワード・D・ホック (著), 木村 二郎 (翻訳)
文庫: 336ページ
出版社: 東京創元社 (2012/12/20)
言語 日本語
ISBN-10: 4488201121
ISBN-13: 978-4488201128
発売日: 2012/12/20

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488201128?mailmag
サイモン・アークの事件簿〈IV〉

>まだ見ぬ人知を超えた存在と巡り合うため、二千年の歳月を生きる謎の男サイモン・アークの旅は続く。鐘の音が鳴り響く修道院で起きた中国人修道士殺害事件、北米の湖に出現し四人もの人を殺めた大海蛇の怪異、かの切り裂きジャックが遺した秘宝のありかとその正体……この世のむこう側を垣間見させる、伝説と怪異に彩られた八つの妖しい事件から、鋭敏な推理力で真実を導き出すオカルト探偵の活躍、日本オリジナルの第四短編集。訳者あとがき=木村二郎

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■データ(個人的補足)

 「サム・ホーソーン医師」や「怪盗ニック・ヴェルヴェット」などの名探偵で知られるホックが創造した「《オカルト探偵》サイモン・アーク」の作品をまとめた日本独自の作品集。前作「サイモン・アークの事件簿III」(2011年12月発売)から1年ぶりの新刊。<収録作品>
1「悪魔の蹄跡(ひづめあと)」(The Hoofs of Satan)(1956年)
2「黄泉(よみ)の国の判事たち」(The Judges of Hades)(1957年)
3「悪魔がやって来る時間」(The Hour of None)(1957年)
4「ドラゴンに殺された女」(The Dragon Murders)(1958年)
5「切り裂きジャックの秘宝」(The Treasure of Jack the Ripper)(1979年)
6「一角獣の娘」(The Unicorn's Doughter)(1982年)
7「ロビン・フッドの幽霊」(Robin Hood's Race)(1996年)
8「死なないボクサー」(The Man Who Boxed Forever)(2001年)


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■あらすじ

 サイモン・アークは、外見は70歳前後の老人で、宗教や超自然現象について豊富な知識を持つ神秘的な人物。作中では数十年が経過しても全く老いることがなく、おそらく不老不死で、年齢は1500歳とも2000歳とも言われています。彼は悪魔を探して戦う事を人生の目的としており、そのために超自然的な事件を求め、世界中を旅しています。サイモンとサイモンの友人で物語の語り手「わたし」は毎回不可思議な状況で発生した事件に遭遇しますが、周囲がその状況に幻惑される中、サイモンは常に論理的に真相を導き出します。



1「悪魔の蹄跡(ひづめあと)」(The Hoofs of Satan)(1956年)

 1954年冬。イギリスの田舎の雪上に、奇妙な足跡が一直線につけられていた。それは19世紀半ばに起こった『悪魔の蹄跡』事件の再来なのか?

 実際に1855年にイギリスの片田舎で発生し、オカルト好きならみな知っているのでは?と思われる「悪魔の足跡」事件をベースにしたお話。オチはなんじゃそりぁ的なものですが、史実を利用することで上手く話を作っています。ちなみにこの作品は三人称で、語り手「わたし」は登場しません。なんと。



2「黄泉(よみ)の国の判事たち」(The Judges of Hades)(1957年)

 「わたし」の父と妹が自動車事故で死亡した。二人のそれぞれが運転する車が正面衝突したためだった。二人はある理由から仲違いしていた。状況は明らかにどちらかが故意に衝突させたものだった。殺人者は父なのか? それとも妹なのか?

 犯人の動機とかがイマイチ弱いというか、細部がもうひとつすっきしませんが、「自動車衝突事件」に対する回答は見事です。たぶんこのトリックが真っ先に有って、話はあとから盛り付けたということじゃないですかね。



3「悪魔がやって来る時間」(The Hour of None)(1957年)

 サイモンは旧知の修道士から救いを求める手紙を受け取る。彼の身近に悪魔が潜んでいるというのだ。早速サイモンと「わたし」は彼のいる修道院へと向かうが…

 話は読みやすいのですが、結局のところ「オチはそれだけかい」的な中身の無さが辛い。



4「ドラゴンに殺された女」(The Dragon Murders)(1958年)

 「わたし」はかつて愛した女性の死亡記事を読むが、なんと彼女は湖に住む「ドラゴン」に殺されたという。「わたし」は真偽を確かめるため湖に向かうが…

 これはマル。推理には特別な知識が必要なためあまりフェアとは言えませんが、「ドラゴンによる殺人?」という一見オカルト的な事件が、論理的に解き明かされる過程は実に良かった。



5「切り裂きジャックの秘宝」(The Treasure of Jack the Ripper)(1979年)

 サイモンとともにロンドンを訪問した「わたし」は、なんと19世紀の伝説の殺人鬼「切り裂きジャック」の残した日記があるという話を聞く。しかも「ジャック」の日記には秘宝のありかを示す地図も付いているという。果たしてその日記は本物なのか?

 悪くは無いのですが、あまり推理としての面白さは無かったですねぇ。ホック流の「ジャック事件の真相はこんなものだったのかも」的な提示みたいなものです。



6「一角獣の娘」(The Unicorn's Doughter)(1982年)

 「わたし」は作品を持ち込んできた作家志望者と対面するが、彼はいきなりビルの窓から飛び降りて自殺した。しかも彼が持ち込んだ小説「一角獣の娘」はオフィスから忽然と消えうせていた。「わたし」は「サイモン」と共に死んだ男について調べ始めるが…

 …、うーん、だからどうした的な。犯人は確かに意外ですが、背景設定というかがもうひとつどうでもいいというか。



7「ロビン・フッドの幽霊」(Robin Hood's Race)(1996年)

 イギリスを旅する「わたし」とサイモンは、奇妙な殺人事件に遭遇する。被害者はなんと20本の矢を撃ち込まれて殺されていたのだ。しかも以前にも弓矢による殺人が起きていたという…

 地味ですが、細かい証言の矛盾とかから犯人を突き止めるという正統派推理物。そこそこ。



8「死なないボクサー」(The Man Who Boxed Forever)(2001年)

 「わたし」はイギリスであるボクサーについて奇妙な話を耳にする。なんと彼は19世紀初頭から年を取らないまま戦い続けているというのだ。「わたし」はその話を追ううち、殺人事件に遭遇してしまい…

 この話も「不死」云々で読者を幻惑しつつ、きっちり隅々まで読むと犯人がちゃんと推理できる良作。サイモン・アークの世界に「インターネット」なんて言葉が混じっていると違和感バリバリですね。


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■感想

 1・2巻目までくらいで良質な作品は採用しつくしたみたいで、「サム・ホーソーン」や「怪盗ニック」と比較して、「推理の妙味」とか「推理パズル的要素」とかそういうのは希薄なのですが、「つまらないか」といわれるとそうでもなく、これはこれで面白いとは言えます。

 傑作推理集!とまではいいませんが、ホック作品好きなら手に取っても損はしない、くらいにはお勧めできるとは思います。


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■評価

(5段階評価の)4点。

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■おまけ:シリーズ既刊

03 サイモン・アークの事件簿III (2011年12月発売)
02 サイモン・アークの事件簿II (2010年12月発売)
01 サイモン・アークの事件簿I (2008年12月発売)
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