感想:NHK番組「オックスフォード白熱教室【再放送】」第4回(最終回)「数学が教える“知の限界”」(2014年12月26日(金) 放送)

数字の国のミステリー

 NHK番組「オックスフォード白熱教室」(全4回)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

NHK オックスフォード白熱教室
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/oxford/index.html

 NHK Eテレでの視聴です(放送:毎週金曜 23:00〜23:54)(2014年12月5日〜12月26日)
 ※2013年10月4日〜25日の再放送


■概要

英語圏では最古の大学として、900年以上の歴史と伝統を持つイギリス・オックスフォード大学。
世界大学ランキングでは常にトップレベルの名門校である。
現職のキャメロン首相や、サッチャー元首相など、イギリス歴代26人の首相を輩出。
27人のノーベル賞受賞者をはじめ、文学や科学など様々なジャンルで卒業生は歴史に名を残してきた。


この大学で現在、最も有名な人物の一人が、マーカス・デュ・ソートイ教授。
トップクラスの現役数学者でありながら、「数学の本当の姿を知ってもらいたい」と、一般市民に向けて数学の魅力を広める活動に力を入れている。
数学は掛け算を解いたり、割合を計算するためのものではない。
デュ・ソートイ教授の講義は、自然や音楽など身近な切り口から、数学の本質を解き明かしていく。


今回は番組のために用意した全4回の特別講義で、数学の美しく神秘的な世界を紹介する。
世紀の難問「リーマン予想」や、現代数学において極めて重要な「群論」など毎回、難解なテーマも登場するが、デュ・ソートイ教授が軽快な語り口で理解へと導く。
私たちの日常生活と最先端の数学が無縁ではないことを実感できるはず。

第4回(最終回) 数学が教える“知の限界”(初回放送:2013年10月25日(金))


■内容

シリーズ最終回もミステリアスな数学の世界をデュ・ソートイ教授が案内する。
数学は未知の世界を解き明かす鍵となってきたが、同時に、「知ることが原理的に不可能な世界がある」という驚くべき“知の限界”まで明らかにした。
無理数、カオス理論、不完全性定理、無限・・・
古代ギリシャから現代にいたる天才数学者たちが挑んできた「知の限界」に関する数学を、愉快なゲームも交えながら解き明かす。

 1846年に海王星が発見されたが、それは数学者・天文学者ルヴェリエがある方程式を解き「そこに未発見の惑星が有るはず」という計算をして見つけた。しかし数学は解らないことを解明する一方で、人間の知の限界も教えてくれる。


(1)無理数

 古代ギリシャピタゴラスたちは、ピタゴラスの定理から「二乗すると2になる数」というものに気がついた。古代バビロニア人もこれを知っており、この数を「30547/21600」と表現し、これはかなり正確な数だが、それでも二乗しても2にはならない。彼らは二乗するとぴったり2になる分数があると考えた。

 仮に二乗すると2になる分数「n/m」があるとする。mとnのどちらかは奇数だ(両方偶数なら約分できるからだ)。これを推し進めると奇数=偶数という結果が出てしまう。つまり二乗して2になる分数は存在しない。これを無理数という。無理数は小数点以下無限に続く数で、数字で書き下すことは出来ない。これは大発見だった。ピタゴラスたちはこの存在に驚き秘密にしたという。うっかりこれを外に漏らした男は海に沈められたんだとか(笑い)

 古典的な問題に古代ギリシャのデロスという町発の「デロスの問題」というものがある。デロスで疫病が流行っていた時、神様に対策を尋ねたところ、祭壇を倍にしろといわれた。これはつまり、立方体の祭壇の二倍の体積を持つ祭壇を作れということだった。一辺=1の祭壇の体積は1の三乗で1。「Xの三乗=2」となるXを求める問題だ。定規とコンパスだけでXが求められるかということだ。

 また「円を正方形にする」という問題も有る。これもギリシャ人が挑んだ問題だ。ある円と同じ面積の正方形を作図するという問題だ。これは円周率πの性質が関わる問題だ。円周率は無理数である上に、超越数有理数の方程式の解で表せない数)だった。定規とコンパスだけではこれは解けない。

 19世紀になってこれらの問題は解けないことが明らかになった。今もこの問題を解こうとする人たちが居る。しかし「出来ない」ということが解っているのはいいことだ。無駄な時間を使わずに済む。



(2)カオス

 数学者は「運動の方程式」と「初期条件」さえわかれば、未来の動きが計算して予測できると考えた。ところが初期条件がほんの誤差程度違うだけで、結果が物凄く異なる事がある。これが「カオス」という現象だ。ささいなことが影響するのを「蝶の羽ばたき程度のことが結果に影響する」ということで、バタフライ効果と呼ぶ。天候の予測も一つの例。


 レミングという動物は四年毎に群れの数が大きく変動する。あるテレビ番組でレミング集団自殺が撮影されたが、あとからヤラセのウソ映像だとわかった。レミングの群れで個体が死ぬ数は次の式であらわされる。

死ぬ数=N(前年のレミングの数)×2N(今年のレミングの数)/10

例えば
去年2匹、今年4匹なら、0.8で約1匹死ぬ。群れは3匹になった。
去年3匹、今年6匹なら、1.8で約2匹死ぬ。群れは4匹になった。
去年4匹、今年8匹なら、3.2で約3匹死ぬ。群れは5匹になった。

この場合群れの数は5匹で安定する。

この増える数を前年比3.5倍にすると、四年ごとに群れの数が劇的に変動する。これが現実に起きていたことだった。さらに4倍にすると、突然パターンが無くなり、カオス的になる。数学では「どこまでがパターンがあって、どこからカオス的になるか」は未解決の問題だ。



(3)不完全性定理

 ゲーデルは「証明できない命題がある」ということを示した。例えば「この命題はウソである」という命題が有ったとする。

この命題が真実なら→「命題はウソ」が正しいことになる。矛盾する。
この命題がウソなら→「命題はウソ」は誤りということになる。矛盾する。


 同様に「この命題は証明不可能である」という命題は、
1)この命題が偽だと仮定する。それはつまり「命題は証明可能」ということ
2)命題を証明すれば「命題は真」
3)証明できた場合、命題と矛盾する
4)つまりこの命題は偽では無く真。

つまり「命題は正しいが、証明は不可能」ということになってしまう。正しいことと証明できるかは別ということを示した。


19世紀の数学者カントールは無限という概念について考えた。

私は無限の数のニワトリを所有しているとする。そのニワトリに1,2,3…と数字をつけている。そこに「偶数番号のニワトリを無限に持っている」人が来た。どちらのニワトリの数の方が多いのか? 私の方が無限が二倍多い? カントール

私のニワトリ  1、2、3…
相手のニワトリ 2、4、6…

と対応付けられるから同じ大きさの無限だとした。相手が分数でも対応付ける方法を導き、同じ大きさの無限だとした。しかし相手が「無理数」の場合は対応付けが出来ないので、相手の無限の方が大きいとした(自然数の無限<無理数の無限)。では自然数の無限より大きく、無理数の無限より小さい無限は存在するのか? 答えはイエスでもノーでもある。どちらもそういう数学体系を作ることができるから。数学のテストもこんな答えならいいのにね(笑い)。



■感想

 今回も数学面白話集でしたが、密度が濃かったし「無限に大小がある」とか「何それ?」みたいな概念もレクチャーしてくれて凄く面白かったですよ。
 
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