感想:NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」「“不死の細胞”狂想曲事件」(2015年3月5日(木) 放送)

ヒト細胞の老化と不死化 (実験医学バイオサイエンス)

 NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 - NHK
http://www4.nhk.or.jp/P3442/
「科学」の持つ魔力にとり憑かれ、人生を狂わされた科学者たちの闇の事件簿―。
輝かしい科学史の闇に埋もれた事件に光をあてる、新しい知的エンターテインメント番組です。


ニュートン万有引力ダーウィンの進化論、プランクの量子仮説など、科学史に輝く偉大な成果によって世界は姿を変えてきました。科学は夢をかなえるものだからこそ、時に人間を誘惑します。フランケンシュタインが怪物を生み出してしまったように…。
この番組は科学史上の「事件」にスポットを当てます。今回の事件は、20世紀初頭、世界を熱狂させた「“不死の細胞”狂想曲事件」。

フランス生まれのアレクシス・カレルは後にノーベル賞に輝く、天才的な手技を持つ外科医。当時、誰もなしえなかった血管吻合の技術を身につけ、臓器移植の動物実験を繰り返しました。1912年、彼が書いた医学論文が世界を驚かせます。永遠に生き続ける「不死の細胞」の培養に成功したというのです。これは人類の夢、「永遠の命」への第一歩ともてはやされますが…。果たして?

ナビゲーター: 吉川晃司
司会: 武内陶子アナウンサー
ゲスト: 仲野徹(大阪大学教授)、谷口英樹(横浜市立大学教授)、島崎和歌子篠原ともえ

 NHK BSプレミアムでの視聴です(放送日:2015年3月5日(木) 22:00〜23:00)。


※他の回の内容・感想はこちら→ 「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

“不死の細胞”狂想曲事件

■概要

20世紀初頭、天才外科医アレクシス・カレルが発表した「不死の細胞」にまつわる事件をひもとく(写真は再現映像)


私たちの世界を変え、暮らしを豊かにしてきた偉大な科学の歴史。光り輝く表舞台から消えた闇の事件にスポットを当てる。今回のテーマは世界が興奮した「不死の細胞」の誕生。1912年、一つの医学論文が世界を驚かせた。永遠に生き続ける「不死の細胞」の培養に成功したというのだ。論文を書いたのは「神の手」を持つと讃えられ、ノーベル賞を受賞した天才外科医。ところが…?ナビゲーターは吉川晃司。

■内容

 19世紀末のフランスの外科医アレクシス・カレルは「神の手を持つ」云々と呼ばれた超絶技巧の持ち主だった。彼は血管吻合(血管をつなぐ技術)を開発し、次なるステップとして臓器移植を目標にしていた。その一方であの「ルルドの泉」の奇跡を目にして、超自然現象を肯定したため、フランス医学会から追い出されアメリカにわたる事を余儀なくされた。カレルはアメリカでロックフェラー研究所に迎えられ、臓器移植を行なうためには臓器を生きたまま保存しておく技術が必要だと考え、まず臓器の細胞を生かし続けることを研究し始めた。そして苦心の末、今まで数日で死んでいた細胞を何ヶ月も何年も生かし続けられるようになった。


 1912年、カレルは血管吻合と臓器移植の業績を認められノーベル賞を受賞した。その際新聞は受賞理由がカレルの「不死の細胞」のおかげだと記事を書きまくった。大衆はそのうち人間は不老不死になれると夢見た。不死細胞は何年も何年も生き続け、1932年になっても元気に細胞分裂していたという。カレルは1939年フランスに戻るが、彼の研究所はナチスに協力していると見なされ、名誉が失墜したまま1944年に死亡した。不死細胞は破棄された。しかし『細胞は永遠に生き続けられる』というのは医学界の常識として残った。


 1961年、アメリカの学者ヘイフリックは「細胞分裂の回数には限界がある」という事を発見して発表した。つまり「不死の細胞」の完全否定である。この説は最初は全く相手にされなかったが、その後裏付ける証拠が次々と見つかり、「細胞が永遠に分裂可能」という説は最終的に否定された。この細胞の分裂限界を「ヘイフリック限界」という。


 カレルの「不死の細胞」とは結局何だったのか? 培養の途中で別の細胞が混入していたのか? はたまた誰かがインチキをしていたのか? 今となっては誰にも解らない。


 ちなみに、その後「ヘイフリック限界」を持たないES細胞とか見つかっています。科学は同じようなことを繰り返しているようでも少しずつ前に進んでいる云々という言葉で〆。


■感想

 ドキュメンタリーパートと、アナウンサーのゲスト(篠原ともえとか学者様とか)相手のトーク、を交互に繰り返す構成。ゲストが必要以上にはしゃいだりしないので、全体として落ち着いた感じでなかなか好感の持てる番組でした。ちょっと変則の科学番組としてなかなか良かった。


 それにしても吉川晃司って老けたなぁ。故・星野勘太郎になんか似てた。