感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン5」第10話「ドール」

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 ドラマ「X-ファイル シーズン5」(全20話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン5
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s5/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。

第10話 ドール CHINGA

■あらすじ

 お題は「魔女、呪いの人形」。


 冒頭。ショッピングセンターで、客たちが自分の顔をかきむしるなど異常な行動をとる。しかし、ある母親と幼い娘だけが何故か無事で、慌てて店から逃げ出す。


 スカリーは週末にニューイングランドに休暇にやって来るが、たまたま現場に遭遇し、調査を手伝う事にした。店から逃げたのはメリッサ・ターナーという女性で、昨年漁師の夫を事故で亡くしてから、娘のポリーと二人暮らしだが、最近ポリーが異常な言動をとるようになったことから、周囲からは魔女呼ばわりされていた。スカリーはメリッサに事情を聞こうとするが、なかなかつかまらない。


 実はメリッサは、以前から怪奇現象に苦しめられていた。娘の持つ人形が何か言う度に、窓ガラスに知り合いの人間の苦しむ姿が浮かび、そして直後にその人物が死んでしまうのだった。スカリーはメリッサの夫の死の状況を調べなおし、彼が海から人形を拾い上げた直後に死んだこと、その人形こそ今ポリーが持っているものだと知る。スカリーはモルダーから、ニューイングランドに伝わる、未来を予知する呪いの人形の伝説を教えられる。


 スカリーたちがメリッサの家に行くと、怪奇現象に疲れ果てたメリッサは家にガソリンをまいて娘・人形もろとも無理心中しようとしていた。スカリーは人形を電子レンジに放り込んで焼き、事件は終わった。


 最後、どこかの海で漁師が「焼け焦げた人形」を引き上げるシーンで〆。



監督 キム・マナーズ
脚本 スティーブン・キング&クリス・カーター


■感想


 評価は◎。


 週末休暇中のスカリーが怪事件に遭遇し、地元警察の警部と共に捜査に当たる、という変則的なエピソードだが、シンプルでありながら起承転結がキチンとついていている秀作エピソードだった。「ニューイングランドの魔女」というワンアイデアを上手く使って、テンポの良いストーリーに仕立てているあたり、シーズン1の頃のストーリーがピュアだった時期を思いだして懐かしくなった。後から調べてみると、このエピソードのシナリオは、モダンホラー小説界の超大物スティーブン・キングが執筆したとのことで、面白さも納得である。


 今回の怪異は「恐るべき子供」。幼い少女ポリーの機嫌を損ねるたびに、ポリーの持っている人形が「ハシャバ(Hushaby?)」とか「ゲームの時間よ」と無機質な声で喋り、その後人が傷ついたり死んだりする。ポリーの母親メリッサが、自分の娘の行動を異様に恐れていたり、ポリーが異様に我がままだったり、ポリーが盗み聞きをしているようなシーンが有ったり、とあからさまに「ポリー=魔女」と思わせておいて、実は人形こそが元凶だった、というひねりが良かった。


 オカルト好きでないとピンと来ないが、ニューイングランド州では17世紀に「セイラムの魔女裁判」という事件が有った。大きなメガネの中年女性ジェーンが「メリッサは魔女の家系」云々と罵倒するのは、こういう背景が有るからで、そのあたりを知っていると面白さも倍増である。


 今回はモルダーはスカリーとは完全に別行動で、しかも「週末に暇を待てあまし、スカリーにやたらと電話をかけてきては、役にも立たないアドバイスをするダメ男」としてコミカルに描かれていた。その他にも行動が一々愉快で、例えば、


・自室の冷蔵庫からオレンジジュースの瓶を取り出して一口飲んだ後、賞味期限が「1997年10月」と書いてあるのを見て慌てて吐き出す(※このエピソードの放送日は1998年2月)。


・スカリーからショッピングセンターの騒動を聞いて、魔術か妖術関係ではないかとアドバイス。スカリーが「現場を調べたけど、それらしき物は見かけなかったもの。例えば、呪術とか黒魔術とか、あるいは、シャーマニズムや占いの道具、それに悪魔崇拝その他の儀式の痕跡、チャームにタロットカード、使い魔に、魔よけのお守り、その他あらゆるオカルトや、XXのあるまじないに関係する記号やシンボル、それに……」とまくし立てると、一瞬黙った後、「スカリー、結婚してくれ!」


X-ファイルの仕事部屋で鉛筆を何十本も削って机に置いている。スカリーが出勤してくると慌てて鉛筆を隠すが、天上から鉛筆がポトッと落ちてくる。スカリーが上を見ると、削った鉛筆が無数に天井に刺さっている(※つまり休日にすることがなくて、暇つぶしに天井に鉛筆を刺して遊んでいた)。


と、モルダーを普段とは違う意味でのヘンな男として描写していて、笑えるという意味でも楽しかった。


 結末は、焼かれて死んだ(?)はずの人形がまた海から現われる、という、事件は終わっていない系のありがちなものだったが、これもまたX-ファイルらしくて気に入った。


■一言メモ

 サブタイトルの「CHINGA」とはスペイン語で、意味は英語の「Fu●k」に相当する下品な単語。キングによれば人形の名前とのこと。


■もう一言

 キングの書いたシナリオには主役のモルダーとスカリーのコンビが出ていなかったため、受け取ったクリス・カーターが慌てて二人の出番を書き加えたとのこと。