アニメ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」:それは推理じゃありません


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【以下ネタバレ】


 2015年の秋アニメ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」の第3話「第参骨 夏に眠る骨」を見たが、第2話以上に失望に値する内容で、ガッカリした。何に失望したかって、探偵役が全然推理していない事にである。


怖くないライトミステリ

 このアニメは 同名のライトノベル が原作だ。探偵役「櫻子」は、美人で名家の出だが、人間関係に興味がなく、人や動物の骨に興味津々、というエキセントリックな女性。そんな櫻子に平凡な男子高校生「正太郎」がワトソン役としてコンビを組み、日常の謎を解き明かしていく、というのが基本的な設定となっている。


 原作はコピーに「怖くないライトミステリ!!」と銘打っているが、殺人やその他の犯罪を扱うのでは無く、あくまで日常レベルの謎を相手にする、という作品である。


推理をしてくれない

 ところが、このアニメ、全然ミステリではない。何故なら探偵役がまともに推理をしてくれないからだ。


 アニメの第1話「骨愛ずる姫君」では、櫻子はたまたま出くわした男女の溺死体を検分し、たちどころにこれが無理心中事件では無く、そう偽装した殺人だと看破する。二人の手首を縛りつけた紐の結び方から、これが当人たちでは無く第三者によって結ばれたことを見抜くのだ。それは初歩的では有るが、それなりに探偵らしい振る舞いだった。それだけに今後はもっと謎が深化していくのだと期待したのだが……


 ところが第2話「あなたのおうちはどこですか」では、いきなり探偵らしさは失われてしまう。櫻子が探偵としてやったことは、散乱したベビー用品と死体の倒れ方から、床下に赤ん坊が居ることを見抜いただけである。これが探偵役の唯一の見せ場というのは、あまりにも情けなくは無いだろうか。


 第3話「夏に眠る骨」にいたっては、櫻子は「これは自殺では無く事故だ」という自説をとうとうと述べて、正太郎と百合子を丸め込んだだけである。裏付ける具体的な証拠も何も提示せず、「多分」だけで「自殺ではなかった」と主張しているに過ぎない。百合子たちは、自殺より事故の方が受け入れやすいから納得したが、警察の「自殺説」に反駁できるような手がかりは何も無かったというのに。もう推理ではなく自分勝手な思い込みを開陳しているだけで、探偵役失格である。


決め台詞の使いどころ

 ここまででも十分問題なのだが、アニメオリジナルとおぼしき演出にも問題がある。


 アニメの中で櫻子は毎回一度見栄を切ってから「謎を解こうじゃないか!」と決め台詞を発する。ところがこの台詞、何か使いどころがおかしい。第1話では死体検分の前に使っていて、その直後に「これは心中ではない」と断言したので、特に問題はなかった。ところが第3話では山中で発見した死体を前にしてこの台詞を発するものの、特に何が解ったわけでもなく、「いつごろ死亡したのか」という基本的な事実を確認したのみである。こんなカッコイイ台詞は、クライマックスの櫻子の推理を披露するときに発するべきものだろう。


そもそも謎がない

 第三話は冒頭に百合子の祖母の死体が発見された後は、延々と「介護は大変」という話に終始し、視聴者は一体何の為にこんな話につき合わされているのか目隠し状態のままだった。最後にとってつけたように「実は自殺では無く事故死」と櫻子が説明するが、そこまでの過程が無駄すぎる。ミステリなら、冒頭に謎を提示し、それについて考えさせ、最後に意外な真相を明かす、というのが基本であるべき。第三話はもうその基本すら守れていない。これはミステリなのだろうか、それとも日本の高齢化社会をテーマにした社会派ドラマなのだろうか、と視聴者を混乱させてくれた。


期待しすぎた

 キャラデザは良いし、最近あふれる「学園バトル物アニメ」ではないし、ということで、骨のある本格ミステリを期待していたのだが、「回を追うごとにミステリではなくなっていく」のに参ってしまった。これでは単に高校生が美人と絡む青春物である。まあ、そもそも原作がライトノベルという時点で本格トリックなど期待するべきではなかったのかもしれない。