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感想:ゲームブック「それからの『イヴ』―THE X‐FILES」(1996年)【プレイ中】

ゲームブック

 ドラマ「X-ファイル」の世界を舞台にしたゲームブックを入手した。原作ファンとしてはそれなりに期待していたのだが、結論から言うとハズレだった。完全クリアしたわけではないが、大体の雰囲気をつかんだので感想を書いておきたい。


コネチカット州と、そこから3000マイルも離れたカリフォルニア州で、同じ日時に75%以上の血を首筋から抜き取られた殺人事件が起きた。驚いたことに、この二人の被害者には瓜二つの8歳の娘がいた。事件の背景に、米政府による遺伝子操作プロジェクトが絡んでいることを知ったモルダーとスカリーは、この事件後、何者かに誘拐されたその娘たちを医療刑務所に保護。すべてが解決したかに見えた事件には、実はもう一つ、とてつもない隠された陰謀が横たわっていた。


文庫: 324ページ
出版社: ベストセラーズ (1996/01)
ISBN-10: 4584304793
ISBN-13: 978-4584304792
発売日: 1996/01

背景

 「THE X‐FILES」とは、1993年から2002年まで放送されたアメリカのテレビドラマだ。FBIの特別捜査官のモルダーとスカリーがコンビを組み、アメリカ各地で起きる様々な奇怪な事件を捜査する、という超常現象系のドラマである。UFOや未知の生物、心霊現象といったテーマを取り扱って爆発的なヒットとなり、日本でも「X-ファイル」のタイトルで1995年から1997年にかけてテレビ朝日系で放送され、高い人気を誇った。アメリカでは2016年に新作が放送予定と、今でも人気の衰えない傑作ドラマである。


 この作品のエピソードの一つが「イヴ」(シーズン1・第10話)で、人間のクローンをテーマにしたSFスリラーストーリーは、ファンの間でも評価が高い。このエピソードの結末はいかにも続編を思わせるような不気味なものだったが、KKベストラーズが日本オリジナルの続編を販売したのが、この「それからの『イヴ』」という訳である。「イヴ」のテレビ朝日での放送は1995年12月で、本書の発売が1996年1月、と、まさに旬の時期に発売された商品だったわけだ。


作者

 作者は霧島那智。個人名ではなく、複数の作家による共同ペンネームで、その筆頭が「若桜木虔」である。若桜木虔氏は、1980年代のゲームブックブームの際に作品を量産しているが、いずれも評価はよろしくない。そこからこの作品のレベルも想像がついたが、残念ながら予想通りだった。


ゲームシステム

 ゲームシステムは、「キャラクターのパラメーター無し」「ダイス未使用」「アイテム所有やフラグの概念無し」という『分岐小説』で、ゲームブックとしては最もシンプルなタイプである。


 なお、表紙にはゲームブックとは書かれておらず、「シミュレーションブック」との記載がある。既にゲームブックブームが過ぎ去って久しい時期の作品のため、そのような表現になったのかもしれない。


パラグラフ

 総ページ数324に対して、パラグラフ数はなんと671もある。つまり一つのパラグラフのボリュームはきわめて小さく、一ページに3パラグラフ書かれていることも珍しく無い。当然、その中身は非常に薄く、数行の文章が書かれているのみで、ストーリーを進めようとすれば、頻繁にページをめくってパラグラフを追うことになり、たちまち面倒になってしまった。


 しかも、悪いことに、パラグラフの大半に分岐は無く、「次は何番に飛べ」と書かれているものばかりなので、ゲーム性に乏しい。例えるなら、「[1]ドアを開けて中に入った [2]へ進め」→「[2]部屋に入った [3]へ進め」→「[3]見渡すと別のドアがあった [4]へ進め」→「[4]ドアを開けて中に入った [5]へ進め」……、といった類の無意味なパラグラフが延々と続くのである。これではただ読むのに手間がかかるだけで、フラストレーションがはなはだしかった。ゲームブックのパラグラフの意味を全く理解していない作りと言っても過言ではない。


ストーリー

 そもそも、肝心要のストーリーが、X-ファイルの雰囲気を全く反映していない。主人公のモルダーの行動や性格に原作ドラマの雰囲気は微塵もなく、名前が同じだけの別人としか思えない。モルダーが派手なカーチェィスを行なったり、マグナム銃を構えたり、殴り合いを演じたりするなど、ありえるだろうか。


 X-ファイルは基本的には刑事物であり、FBI捜査官が謎に満ちた怪奇現象について地道に捜査を進めていく、というのが基本構造だが、この本にはそういう手堅さは無く、派手さが売りのスパイアクションもどきの物語となっている。これではX-ファイルファンが満足出来ようもない。


 また、途中に「ダンジョン探索」シーンが存在するというのは、作り手の不誠実さの決定的な証拠だろう。モルダーとスカリーがとある事情で森の中に踏み込むと、道に迷ってしまい、以後「右に進むならXX番へ、左に進むなら**番へ」というパラグラフが延々と続くのである。これがX-ファイル好きが求めるような展開でないことは言うまでもない。ちなみに、このダンジョンはループ構造になっており、悪辣なことに出口は存在しない。つまりこのダンジョンに入り込んだ時点で「詰み」となっているのである。


評価

 評価は5段階評価(5が最高)で2。最悪ではないが、無駄に細かく分割されたパラグラフ、原作の雰囲気を微塵も残していないストーリー、などにより、プレイアビリティにおいてもストーリー面においても、見るべきところはほぼ皆無だった。


 キャラクターありきで作られた質の低いゲームブックは、ブーム黎明期にも見られたが、そのような作品が1996年に作られていたというのは嘆かわしいというほかは無いだろう。