感想:NHK番組「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎 」第3話「屋根裏の散歩者」

屋根裏の散歩者 (江戸川乱歩文庫)
関連サイト→シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎 http://www4.nhk.or.jp/P3860/
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【※以下ネタバレ】


※第1シリーズ「1925年の明智小五郎」の他のエピソードはこちら→ 第1話 D坂の殺人事件 | 第2話 心理試験

ミステリーの父ともいわれる江戸川乱歩。日本ならではの独特な世界を描き出し、後のミステリー作家たちに大きな影響を与えた。今回、乱歩の黄金時代ともいわれる1925年の短編の傑作3作品を、一流のクリエーターたちが斬新な演出で映像化する。


第1回は、鍵のかからない日本家屋で起きた密室殺人を描いた「D坂の殺人事件」、名探偵・明智小五郎の初登場作品。第2回は、練りに練った完全犯罪が明智の見事な推理によって暴かれる心理ミステリーの傑作「心理試験」。そして、第3回は犯人の視点で殺人事件が語られていく“倒叙ミステリー”の傑作「屋根裏の散歩者」。3回に渡って、名探偵・明智小五郎満島ひかりが熱演する。

第3話 屋根裏の散歩者

■あらすじ

「屋根裏の散歩者」 1月24日(日)午後11時20分〜11時50分


江戸川乱歩の短編小説を気鋭のクリエーターたちが映像化するシリーズ。演出は渋江修平。世の中に退屈していた郷田三郎(篠原信一)は明智小五郎満島ひかり)と知り合い、その犯罪談に魅了される。そんな時、下宿の天井板がはずれることに気づき、毎夜天井裏を散歩して二十人近い下宿人の秘密をのぞき見していく。ここからなら簡単に人が殺せると興奮した郷田は毒殺を実行に移すが、明智が事件に興味を示し、その解明に乗り出す…

【出演】満島ひかり,篠原信一,村杉蝉之介

 「郷田三郎」は、世の中の何事も興味が持てず退屈しきっていた。ある日、素人探偵・明智小五郎と知り合い、犯罪談義に興じるうち、自分も変装して街を歩き犯罪者気分に浸るが、それにもやがて飽きてしまう。

 郷田は引越し先の下宿の部屋で、押入れの天井板が外れて屋根裏に入れる事に気がつく。郷田は屋根裏を徘徊し、他人の私生活をのぞき見ることに興奮するが、「遠藤」という男の部屋の上で、遠藤が寝ているときに上から毒をたらせば毒殺できると考え付く。郷田は特に遠藤に恨みや憎しみがあるわけではなかったが、殺人に興味がわいてきて、この考えを実行する事にした。そして遠藤が所持していた毒薬を盗み、夜、寝ている遠藤の口にたらし、そのまま薬の瓶を室内に落とした。翌日遠藤は死体で発見されるが、部屋は密室だった上に、そばに毒の薬の瓶が転がっていたので、警察は自殺として処理する。

 数日後、明智が郷田の部屋を訪ねてきて、遠藤の事件を調べたいという、明智は遠藤の死体が発見された朝に目覚まし時計が鳴ったと知り、自殺する人間が目覚ましを用意するものかと考える。

 そしてまた数日後、郷田の部屋の押入れの天井から明智が現われ、今まで屋根裏を徘徊していた事、さらに遠藤の部屋の上辺りで郷田の服のボタンを見つけたので、郷田が殺した事は解っている、と断言する。郷田はガックリ崩れ落ちるが、明智はすぐにボタンは自分がハッタリを効かす為に用意したニセモノで、本当は犯罪の証拠などは無い、という。そして自分は真実が知りたいだけで、警察に連絡するつもりはないといって、自分の推理を開陳すると、さっさと出て行ってしまう。郷田は自首する決意を固めており、死刑にされるときの気持ちはどんなものかと考えていた。


■感想

 三部作の第三話。前回「D坂の殺人事件」「心理試験」同様に非常に面白い作品であり、そして同時にかなりヘンなドラマだった。

 基本的に國村隼の語りで物語が進む朗読劇のような構成で、それは良いのだが、主人公の郷田三郎役が、元柔道家で今はタレント化している篠原信一、というキャスティングが、まず突飛というか意表をついている。さすがに喋りの芝居は無く、ナレーションが説明する状況に従って、酒を酌み交わすシーンや屋根裏を徘徊するシーンを演じているだけなので、演技の粗は目立たず、それなりに見られるものになっているのだが、しかし何故篠原信一なのか納得のいく理由は全く無い(笑)

 満島ひかり演じる明智小五郎は、「D坂の殺人事件」では和服姿、「心理試験」では変なマント姿、だったが、今回は黒一色のコスプレみたいなハイカラな服装をしていて、一作毎に進化している(笑) しかし、1925年の日本には、まず間違いなくこんな服は無かったと思うぞ(笑)

 またクライマックスの、明智が郷田相手に推理を披露するシーンは完全にシュールなコントと化しており、明智が話をしながら座っている郷田に飛び乗って肩車状態で座ると、郷田がそのまま立ち上がって部屋の中をグルグル歩き回り、明智はさらにそこから体を後ろにそらしてアクロバットの様な体勢になりながら、なお話を続けるのである。なんなんだこれは(笑) そして最後、ひとしきり推理を語り終えた明智は、畳の上に寝転がると、得意げに「キャハハハハハハ」と笑いながら手足をバタバタさせたあと、立ち上がって何事も無かったかのように涼しい顔で部屋を出ていくのだった。こんないかれたキャラ設定の明智小五郎、初めて見たわ(笑)

 女性の演じるコスプレ明智と篠原信一が一対一で対峙し、対決しながら肩車で歩き回る、とか、もうおふざけにもほどがあるのだが、既に「D坂の殺人事件」「心理試験」で、このシリーズの奇天烈さに慣れてしまっているので、「今回はこう来たか(笑)」程度に受け止めることが出来た。BSプレミアムの深夜枠だからこそ出来た、変化球の明智小五郎モノだったのかもしれない。

 シリーズ三作品とも「風変わり」な作品ではあったが、しかし全て満足度は高く、十分に期待に応えてくれた。これは良いシリーズだった。


※第1シリーズ「1925年の明智小五郎」の他のエピソードはこちら→ 第1話 D坂の殺人事件 | 第2話 心理試験

※全エピソードの一覧はこちら→ 「シリーズ江戸川乱歩短編集」あらすじ・感想まとめ