感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン8」第7話「第三の目」


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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン8 http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/
放送 Dlife。全21話。

【※以下ネタバレ】


※シーズン8の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン8」あらすじ・感想まとめ

第7話 第三の目 VIA NEGATIVA

あらすじ

http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/episode.html
EP7 第三の目
麻薬取引の疑いでカルト教団を張り込んでいたFBIの捜査官が殺された。彼は額をオノのようなもので割られており、しかもその死体は内側からロックされた車の中にあった。

 お題は「精神の覚醒」。


 スキナーはあるカルト教団を犯罪関与の疑いで監視させていたが、ある夜、捜査官たち二人が殺され、さらに信者二十人も全員死んでいるのが発見される。全員頭を斧の様なもので叩き割られていたが、抵抗した形跡は無く、また捜査官たちは鍵のかかった密室状況の中で死んでいた。FBIはとりあえず行方不明の教祖アンソニー・ティペットを指名手配する。ドゲットも捜査に参加するが、スカリーは突然休暇を取ると言って姿を消してしまう。

 ティペットはキリスト教と東洋の宗教を組み合わせたような教えを説き、「闇の道」を通れば悟りに到る、と称していた。スカリーはドゲットの支援のため、ローン・ガンメンに協力を依頼し、三人はドゲットに東洋には「人間の額の『第三の目』が開けば精神が覚醒し神に近づける」という考え方があることを教える。

 やがてドゲットはティペットを見つけるが、ティペットは突然額を回転ノコギリに押し付けて重傷を負う。ドゲットはティペットが搬送された病院にスカリーも入院していることを知る。カーシュはティペットが捕まったため、もう事件は幕引きにすると宣言し、ドゲットは不承不承従う。しかしドゲットはティペットが、「第三の目」を開いた結果、他人の夢の中に入り込む力を身につけ、夢の中で信者やFBI捜査官を殺したのだと考えていた。やがてドゲットの夢の中にもティペットが現われ、ドゲットにスカリーを殺させようとするが、その直前ドゲットは自室に訪ねて来たスカリーに起こされる。ドゲットはスカリーからティペットが死んだと知らされる。


監督 トニー・ワームビー
脚本 フランク・スポトニッツ


感想

 評価は○。


 前半は「第三の目」、つまり精神の覚醒テーマというスピリチュアル系の話だが、後半は一転「エルム街の悪夢」的現実と幻覚の混同した世界が描かれる、という、複数テーマが組み合わされたエピソード。しかしそれなりには面白かった。


 劇中に登場する「第三の目」は、作品オリジナルの設定では無く、(ローン・ガンメンたちが説明していたように)東洋の宗教などに存在する概念で、いわゆる「チャクラ」という人間の中枢とされるものの一つが人間の額の部分にあることになっている。これを『開く』と、超常の能力に覚醒したり、別世界への意識の扉が開いたり、等々と、とにかく凄いことが起きると言われている。まあ、日本人にとっては「3×3EYES」とかその他のフィクションでおなじみの概念ではある。

 教祖ティペットが薬の力で「第三の目」を開くことに成功するが、得た力を制御できず……、というあたりは超能力テーマの定番展開の一つという感じだが、ティペットが眠った人間の夢の中に入り込み、夢の中で相手を殺すと、現実世界でも死んでしまう、というのは映画「エルム街の悪夢」的である。さらにティペット本人が夢の中に殺しに来るだけではなく、赤の他人に悪夢を送りつける、となるとホラー映画「ザ・センダー 恐怖の幻想人間」(1982)もちょっと髣髴とさせる、盛りだくさんなエピソードだった。しかしそれでいて混乱したところが無く、一本筋が通った話になっているのは、さすがにベテランのスポトニッツの技というところだろう。

 今回はスカリーが休暇ということで殆ど姿を見せず、ほぼ全編においてドゲットとスキナーのコンビが捜査を担当していた。モルダーもスカリーも姿を見せないX-ファイルという事で、本当に最初の頃とは変わってしまったなぁとしみじみさせられた。また今回はローン・ガンメンとドゲットの初顔合わせが実現したが、全くタイプが違う両者だけに、見ているほうが妙に緊張させられた

 今回笑ってしまったのはスキナーの超常現象への傾倒ぶりで、カーシュも含めて捜査関係者で会議をしている際、スキナーがFBI捜査官が密室で殺された件について、「ティペットが悟りを開いて肉体と精神を分離させ殺したのでは」とか堂々と言ってしまう。当然オカルト嫌いのカーシュは苦々しい顔をするし、部下のドゲットからも会議後「あんなことを言い出すなら相談しておいてくださいよ」とか突き上げられる有様で、モルダー失踪後のスキナーの変わりっぷりは正直痛々しいというかなんというかである。スキナーをこんなトンデモキャラにして欲しくは無かったというのが正直な気持ちである。


 劇中でローン・ガンメンたちがドゲットと話すシーンで「エムケーウルトラか?」という台詞がある。これは「MK-ULTRA」と書き、1950〜1960年代にCIAが実施した「自国民を実験台にした洗脳計画」のこと。相手の了承も得ずに幻覚剤のLSDを投与しどうなるかを実験したetcのとんでもない極秘計画で、殆どの資料はこっそり破棄されたので全容は未だに明らかではない。もっとも、オカルト/政府の陰謀マニアの間では名前だけは結構有名である。

 また同じシーンで、フロハイキーが「第三の目については、ケン・キージーとバスに同席していたときに聞いた」云々と説明する。このケン・キージーとは、「カッコーの巣の上で」を書いた作家で、1964年に特別なバスに乗って、なんと「若者にLSDを広めて精神の解放を訴える旅」を敢行したという。フロハイキーのバス云々はこれの事をさしていると思われる。


一言メモ

 サブタイトルの原題「VIA NEGATIVA」はラテン語で、意味は「否定神学」という神を論ずるための方法論のこと。英語にすると「NEGATIVE WAY」となる。劇中の台詞(英語)では「ティペットは『VIA NEGATIVA』、つまり『闇の道』で悟りを開くと説いた」云々と説明されている。