感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン8」第10話「バドラ」

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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン8 http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/
放送 Dlife。全21話。

【※以下ネタバレ】


※シーズン8の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン8」あらすじ・感想まとめ

第10話 バドラ BADLAA

あらすじ

http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/episode.html
EP10 バドラ
インドから帰ったばかりのビジネスマン、ポトッキがホテルで変死する事件が発生。ポトッキの腹部はまるで何者かが体内に侵入し、その後出たようにズタズタに裂かれていた。

 お題は「インドの行者」。


 インドの空港でビジネスマンが両足の無い小男の物乞いと出会い、小銭を恵むが、その直後何かに襲われる。

 ワシントンD.C.で、インドから帰国したビジネスマンが大量出血して変死する事件が発生し、現場からは子供のものと思われる指紋が発見された。遺体を解剖すると、目の充血、大腸他の内臓の損傷が確認され、さらに死後硬直から見て、インドを出発する前に既に死んでいたらしいことが解る。

 クイントン少年は自室で両足の無い不気味なインド人を目撃し、直後彼の父親が変死する。スカリーは死体の目が充血していた事から怪しんで検死を行うが、腹部が異常に膨れており、切開すると中から何かか飛び出して来て、そのまま消え去る。クイントン少年と同じ学校に通うトレバー少年は、新任の用務員が一瞬小人のインド人に見える。そのあとトレバーはインド人に追い回された挙句、母親を殺される。

 スカリーは、旧知のチャック・バークス博士から、インドの行者について聞く。行者のなかでも特に優れたシッディと呼ばれる人々は、神から与えられたマインドパワーを使い、幻術や原子レベルに小さくなる能力などを使えるという。スカリーは半年前、インドのビシィという小さな村の近くでアメリカの化学工場が大事故を起こし、村の住民のほとんどが死んだという事件を突き止める。スカリーは犯人はその復讐のためアメリカにやって来たと見当をつける。

 ドゲットは少年たちの証言から用務員を取り調べるが何一つ聞き出せない。チャックはその用務員が幻覚で実際にはいないことを発見する。その頃本物はトレバー少年の姿でクイントン少年の前に近づいていた。スカリーはクイントン(に化けていた犯人)を撃つ。しかし二週間後、犯人はインドの空港でまた物乞いをしていた。


監督 トニー・ワームビー
脚本 ジョン・シャイバン


感想

 評価は×。

 随所に不気味なシーンがあり雰囲気は悪くないが、シナリオもう良い・悪いという評価以前にまともに話として成立していない。こんな欠陥シナリオにOKを出した責任者はどうかしているのではないか? というくらいの欠陥作である。


 インドの行者(小人でしかも両足が無く、一言もしゃべらない)がアメリカにやってきて次々と殺人を犯す、という怪奇系のストーリーだが、恐らくシナリオライターは犯人が人を襲う断片的なイメージしかないままに話を書いたに違いなく、ストーリーがまともに成立していない。

 冒頭、太ったビジネスマンが変死する事件は、犯人がアメリカにやってくるためにその男を利用した、というところまでは理解できるが、以後は、何故そうなるのか、という謎展開の嵐で視聴者がついていけなくなる。ざっと思いつくだけでも以下の疑問点が解決されないまま話が終わってしまった。


・犯人は何故アメリカに来たのか?(一番重要な動機が最後まで説明無し。化学工場の事故の復讐云々はスカリーの推測でしかない)
・犯人は何故小学校の用務員に変身したのか?
・犯人は何故クイントン少年の部屋に現われたのか?
・犯人は何故クイントン少年の父親を殺したのか?
・犯人は何故クイントン少年の父親の腹の中にもぐりこんだのか?
・犯人は何故トレバー少年の母親を殺したのか?
・犯人は何故最後にクイントン少年を殺そうとしたのか?
・犯人は何故、二週間後しれっとインドで復活していたのか?(警察は射殺した犯人の死体を確認しなかったとでもいうのか?)


 と、もう穴だらけである。


 犯人が化学工場の責任者を殺しに来たのなら小学校の用務員に化ける理由が解らないし、無差別にアメリカ人を殺すつもりなのなら、一々勿体をつけて小学校周りの人間だけを殺していくのは変である。結局犯人は何をしたかったか、全く理解できなかった。

 一言もしゃべらず足の無い小男が、キャスターをつけた小さな台を手で押ししながら徘徊する、というイメージは不気味だし、スカリーがクイントンの父親の膨張した腹をメスで切開すると、中から小さな血まみれの手が飛び出してくるシーンは実にショッキングだった。しかしそういう個々のシーンは印象的でも、エピソードがまともに成立していないのではお話にもならない。シナリオライターは自分の書いたものがちゃんと話として完成しているか、書き上げた後に一度読み返してもらいたいものである。


 ラストに、スカリーがドゲットに「自分は幻術のせいで犯人が子供の姿にしか見えなかったけど、モルダーならちゃんと真の姿が見えたはず。自分はモルダーの様になれない……」とか悲しそうに語るが、こんな低品質シナリオで取って付けたようにそれっぽいことを言われても、全く心に響くはずも無く困ってしまった。


 サブタイトルの原題「BADLAA」とはヒンディー語。意味は「復讐」。


一言メモ

 劇中、行者の中でも特に優れたものを「シッディ(Siddhis)」と呼んでいたが、シッディとは正確にはヨガなどで身に付くとされる超常能力の事。その中に今回犯人が使用した「原子サイズまで小さくなる」という物が本当にある。


もう一言

 スカリーが犯人の動機として、ムンバイ近くのビシィという村の住人が、アメリカの化学工場の事故で殆ど死んでしまった、という記事を見つけ出してくる。これは現実の事故がモデルとなっている(1984年にインド・ボパールでユニオンカーバイド社が引き起こした化学工場事故。最終的な犠牲者は25,000人以上とも言われる大惨事となった)。