【※以下ネタバレ】
人気ミステリー作家の綾辻行人・有栖川有栖の合作で贈る“RPG推理ドラマ”シリーズの第3弾! 2000年12月に全国放送された出題編、解決編に特典映像を収録した作品。
あらすじ
『出題編』(放映日:2000年12月21日。66分)
2000年12月末。高橋久万子はヒーロー番組「アスリート4」を制作するプロダクションに雑用係として就職した。ところが深夜帰宅すると、社員の楢崎ノリエからのメールが届いており、社長の井上を殺してしまったので、自殺すると書かれていた。そしてその内容通り、井上は会社のオフィスで撲殺されており、またノリエの家は火事となり、ノリエ自身は焼死体で発見される。
ところが事件直後の時間帯に、会社のあるビルからサンタ姿の誰かが出てきたのが目撃されており、またオフィスからは社長が大事にしていた大きなテディ・ベアのぬいぐるみが消えていた。さらに検死の結果、ノリエは死んだ後に焼かれたことがわかり、一転何者かがノリエを殺して井上殺しの罪をなすりつけようとした、と判明する。事件は混乱を極めるが、やがて久万子は警察に容疑者として捕まりそうになる。追い詰められた久万子は「困ったときに一度だけ使える」という笛を吹き鳴らした。
『解決編』(放映日:2000年12月25日。36分)
笛を吹いた途端、一堂の前に謎の存在「安楽椅子探偵」が現われ、久万子の無実を証明するため、「純粋推理空間」で事件の説明を始める。
●推理1
・犯人は何故サンタの格好で逃走したのか? オフィスには他にも顔や体型を隠せる服はいくらでもあったのに、わざわざ箱からサンタの衣装を取り出したのか。
・犯人がテディ・ベアを持ち去った理由は何か?
井上殺害現場でノリエのイヤリングの片方が見つかっている。それは犯人がノリエに罪を着せるため、あらかじめ盗んでおいたもの……、ではない。なぜなら犯行直前にノリエがイヤリングをしていたのを久万子が目撃している。とすると、考えられるシナリオは一つだけで、ノリエは井上が殺された時間に会社に戻っていて殺人を目撃してしまい、直後にノリエも殺されて、その時イヤリングが落ちた、というものである。
慌てた犯人はノリエに井上殺しの罪を着せることを思いつき、死体を運び出すことにした。その時自然に運び出す方法は「サンタの袋の中に死体をつめて持ち出すこと」。だから犯人はサンタの服に着替えたのである。
ではテディ・ベアを盗んだのは何故か。それは犯人はノリエに罪を着せるため、サンタがノリエの死体を運び出したと気が付かれてはならなかったから。だから、めくらましのためテディ・ベアを会社から持ち出し、犯人が持っていったのはぬいぐるみだと思わせようとしたのである。具体的には会社のある15階の窓からぬいぐるみを下に放り出し、自分はサンタに着替えてノリエの死体の入った袋を持ってビルから出て行き、最後に地面に落ちていたテディ・ベアを回収した。
ノリエの死体は50Kgあると仮定して、それだけの重さの物を持てる人が容疑者。ここで劇中で50Kgの荷物がもてないという描写があった人物、久万子、滝本一誠(マネージャー)、田村恭子(アスリート・オレンジ)と、手に怪我をしていた篠原伸介(アスリート・ブラック)、は除外される。
●推理2
犯人が久万子に送ったメールは、「っ」となるところが「つ」と大文字になっていた。これはかな入力でシフトキーを押さなかったたため、と推測される。ローマ字入力では打ち間違えてもこうはならない。野村忠司(アスリート・レッド)は劇中にローマ字入力している場面があり、容疑者から除外される。
●推理3
サンタの衣装は実は「トナカイ」と書かれた箱に入っており、逆に「サンタ」の箱にはトナカイの衣装が入っていた。犯人はサンタの衣装を取り出す際、両方の箱を開けている。山下まゆ子(衣装担当)は、サンタの衣装がトナカイの箱に入っているのを知っていたので、こんなことをするはずが無い。つまり容疑者から外れる。
●真犯人は……
残ったのは永田克紀(専務)ただ一人。つまり永田が犯人。
●エピローグ
最後。事件は刑事の日下部が解決したことになり、同時に関係者は皆安楽椅子探偵が見えなくなり、そのまま部屋を出て行く。最後に残った久万子に、安楽椅子探偵がプレゼントを渡して姿を消す。久万子が街に出て行ってプレゼントの袋を開けると、テディ・ベアのぬいぐるみと「Q.E.D.」と書かれたカードが入っていた。
感想
朝日放送(ABC)制作の、伝説的視聴者参加型推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズの第三弾。まず最初に「出題編」を放送し、視聴者に犯人名とそこに到る道筋を推理して応募してもらい、数日後に「解決編」を放送、という形式で放送されたドラマで、こういう「犯人は誰だ? さああなたが推理してください」というスタイルは、推理小説好きにとってはたまらないものがある。
しかし、本作(以下「聖夜」)は、第一弾「安楽椅子探偵登場」(以下「登場」)・第ニ弾「安楽椅子探偵、再び」(以下「再び」)より質が落ちており、はっきり言って面白くなかった。その理由は、DVDの付録内で綾辻行人氏が書いていたが、前2作が関西ローカル放送だったのに対し、この「聖夜」は初の全国ネット放送となったため、今までの推理物好きをターゲットにしたマニアックな作りが否定されてしまい、「お茶の間の一般視聴者」を意識する内容に変えざるを得なかったため、らしい。
お茶の間を意識して、まず各編の放送時間がそれぞれ過去の「出題編 約90分/解決編 約60分」という放送時間から約30分削られ、過去二作品と比べ随分ボリュームが寂しいものとなった。また、俳優には初めて有名人のさとう珠緒や六平直政が起用されているが、さとう珠緒演じる久万子はふわふわした言動ばかりの頭の軽いバカ女で、警察署の中に入り込んで素人探偵まがいの活動をするなど、頭を抱えるようなシーンの連続で、見ていて心底イライラさせられた。
まあ、構想段階では、『本気の推理ドラマにはせず、「推理バラエティ」程度の内容にして、出題編のあとに少し時間を置いただけで解決編を放送する』とか、『芸能人を呼んで来て面白おかしく推理させる』とか、そんな話もあったらしく、綾辻氏たちの尽力で食い止められたらしいが、そういう形式に堕していたら、もう安楽椅子探偵シリーズはそこで打ち止めだったことだろう。実現しなくて本当に良かった……
謎解きは、視聴者のレベルを意識したのか、登場>再び>聖夜、の順に簡単になっており、もう画面をひたすら見つめてさりげない手がかりを見つけ出すとか、論理のアクロバットにより手がかりを組み合わせて推理するとかいう要素はかなり弱くなっていた。実際DVDの特典映像を見ると、ゲスト回答者4人の内3人までがかなり良い線を言い当てていた。さすがに「登場」の難易度は凶悪だったとは思うが、シリーズの新作になるほどにレベルが落ちていく、というのも寂しい話ではあった。DVDのパッケージを見て放送時間の短縮に嫌な予感がしていたが、予想とおりのイマイチ作品であった。
○総括
「一般の視聴者」を意識する余り、過去ニ作品の面白みというものがかなり失われていた。失敗作とまでは言わないものの、ガッカリ作と言っても間違いではないと思う。