感想:視聴者参加型推理ドラマ「綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状4 安楽椅子探偵とUFOの夜」(2002年)

綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状(4)安楽椅子探偵とUFOの夜 [DVD]

【※以下ネタバレ】

人気ミステリー作家の綾辻行人有栖川有栖の合作で贈る“RPG推理ドラマ”シリーズの第4弾! 2002年3月にABCテレビで放送された出題編、解決編に特典映像を収録した作品。

あらすじ

『出題編』(放映日:2002年3月8日。78分)

 2002年3月。地方テレビ局のEBEテレビで、視聴者参加型懸賞金付き推理ドラマ「覆面探偵」シリーズの第七弾「覆面探偵の密室」の放送が始まるが、すぐに臨時ニュースで放送が中断されてしまう。ニュースの内容は、近郊の山にUFOが着陸したため、警察が出動したというものだった。警察の調査で、UFO騒ぎは大学生が映画の撮影をしていただけと判明するが、その現場の近くのマンションで殺人事件が発生していた。

 殺されたのは「覆面探偵」シリーズの原作者の一人である推理作家の太宰星河(だざい・せいが)で、自室で撲殺されていたが、内側から目張りされた密室の中で殺されていた。密室を作った方法は、署内の推理オタク三人(江戸川、横溝、松本)によりすぐさま解明され、またこの目張り密室は「覆面探偵の密室」の放送内容を模したものであると判明したが、犯人が何故こんな面倒なことをしたのかわからない。

 関係者にはそれぞれ太宰を殺す動機があり、しかもアリバイが有る人間は一人も居なかった。刑事の与謝野は捜査に行き詰まり、妹の空実がコミケで買ってきたという「困ったときに助けてくれる笛」をつい吹いてしまう。



『解決編』(放映日:2002年3月15日。58分)

 笛を吹いた途端、一堂の前に謎の存在「安楽椅子探偵」が現われ、「純粋推理空間」で事件の説明を始める。


●推理1

 犯人は何故目張り密室を作ったのか? 犯行時間が午後9:30頃で、被害者の留守電には夜10時に空美が訪問してくるというメッセージが残っていた(結局遅刻したが)。犯人は急いで逃げ出す必要があったのに、何故危険を犯してまで密室をつくったのか。

 また「覆面探偵」のドラマを模したのならば、ドラマ中同様「白いテープ」を使うべきなのに、何故「茶色のテープ」を使ったのか?

 その答えは冒頭に太宰が水色のペンでメモを取るシーンに有る。現場には水色ペンで書かれたメモは残っていなかった。犯人が持ち去ったのか? と考えると、先の疑問の答えが見えてくる。太宰は水色ペンで、茶色のテープの側面にメモを取ったのである。犯人は何らかの理由でそのメモ(テープ)を現場から持ち去ることは出来なかった。そのため、テープを使いきることでメモを消滅させようとしたのである。

 もっと簡単に水色ペンで上から塗りつぶせなかったのか? それは不可能で、理由は太宰がペンのふたを閉め忘れていたため、水色ペンは乾いて書けなくなっていたから。では、別の色のペンで塗りつぶすのは? 出来なくはないが、不自然なので警察に調べられてしまう可能性が有る。テープごと切り刻んで処分するより、どこかにテープを使って使い切るほうが手早かったはずである。



●推理2

 しかし、そもそも犯人はその場でテープを使うなどせずに、そのまま持ち出して処分したほうが楽だったのではないか? テープはチェーンで固定されていたが、部屋にはワイヤーカッターがあり、チェーンを切って持ち出すことは不可能ではなかった。しかし、犯人にはそうしなかった。なぜなら、建物の中に隠していてもいずれ警察に見つけられるからである。では建物の外に捨てればいいのではないか? それもダメ。犯人はその日、窓もドアも開けることが出来なかったから。何故開けることが出来なかったのか? 答え「窓やドアを開くと宇宙人に誘拐されると思ったから」!!

 つまり、UFOビリーバーのマンション管理人・森月彦が犯人だったのである。森は管理人のため、住人宛の宅配便を受け取る仕事もしていた。そのため、犯行数日前に太宰宛に送られてきた「覆面探偵の密室」のテープを盗み見ることが可能で、そのため当日テレビを見なくても、「〜密室」で目張り密室が出てくることを知りえた立場にあった。



●真犯人は……

 マンション管理人・森月彦。犯行の理由は、森は三ヶ月前に発生したストーカー殺人の犯人で、太宰は偶然それを突き止めた。そして本にしようと森をインタビューしようとしたものの、当然口封じに殺されてしまったのである。ちなみに茶色テープの横に残ったメモの内容は「管理人がストーカー殺人の犯人」というものだった。



●エピローグ

 事件は与謝野が解決したことになり、安楽椅子探偵も消え去さった。後日。与謝野は周りの皆に安楽椅子探偵の事を訴えるものの、謙遜だと思って取り合ってもらえない。諦めた与謝野は部下の谷崎に笛を渡しておしまい。


感想

 朝日放送(ABC)制作の、伝説的視聴者参加型推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズの第四弾。まず最初に「出題編」を放送し、視聴者に犯人名とそこに到る道筋を推理して応募してもらい、数日後に「解決編」を放送、という形式で放送されたドラマで、こういう「犯人は誰だ? さああなたが推理してください」というスタイルは、推理小説好きにとってはたまらないものがある。


 3作目「安楽椅子探偵の聖夜」(以下「聖夜」)は全国ネット放送用に作られたためか、色々と不満の残る出来栄えだったが、本作は再度関西ローカルの深夜放送に戻り、同時にノリも2作目までの雰囲気に戻っていたので一安心、ではあった。

 難易度としては「聖夜」と同レベルで、1・2作目と比較すると易しくはなっているが、別に謎解きが簡単という訳でもなく、解決編の内容を見て「こんなもの解るか!」と文句を言ってしまうのはいつも通りではあった。ボーナス映像で角川書店の女性編集者がほぼ完璧に真相を言い当てていたが、よく解るものである。

 ただ、1・2作目の頃と比べると、謎が作為的というか「トリックのためのトリック」というか、とにかく無理やり感が強くなった。謎解きのロジック自体はそれなりに納得出来なくもなかったし、クイズなのだから「この条件に当てはまる人が犯人」という風に絞り込めるように構成するのもわかるのだが、どうも初期作品と比較すると「うーん?」感は否めないものが有った。大体、ガムテープの横にメモするって無理やりすぎ。

 あと、ボーナス映像で綾辻行人氏が苦言を呈していたが、安楽椅子探偵にはギャグを飛ばして欲しくない、というのは全くの同感だった。周囲の関係者たちがふざけるのは大いに結構で面白いけど、安楽椅子探偵は威厳を持った存在で居てほしかったというのは全くその通りだった。


 それはそれとして、署内のオタク刑事三人組(江戸川、横溝、松本)がいかにもオタクっぽい内輪ウケ会話をしたり、密室トリックを「こんなの初歩だし」とか言って簡単に解明してしまう様は結構笑えた。


※「安楽椅子探偵」シリーズの他作品のあらすじ・感想は、以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com

●放送日
出題編 2002年3月8日 (78分)
解決編 2002年3月15日 (58分)



●スタッフ
原作 綾辻行人 有栖川有栖
脚本 戸田山雅司



●キャスト
与謝野陽乃(刑事) 松永玲子
谷崎大地(刑事) 小林正寛
江戸川雷太(刑事) 小手伸也
横溝惺哉(刑事) 加藤啓
松本銀蔵(刑事) 千代田信一
与謝野空実(出版社社員) 新谷真弓


志賀宇央(プロデューサー) 八木橋
三島昴(アシスタントプロデューサー) 泉陽ニ
太宰星河(推理作家) 大高洋夫
芥川北斗(俳優) 陰山泰
国木田天平(脚本家) 村上大樹
川端一宙(推理作家) 木村靖司
夏目恒美(女優) 西尾まり
森月彦(マンション管理人) 遠山俊也
島崎小夜子(マンションの住人) 池谷のぶえ


安楽椅子探偵 草野徹