感想:視聴者参加型推理ドラマ「綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状5 安楽椅子探偵と笛吹家の一族」(2003年)

綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状(5) 安楽椅子探偵と笛吹家の一族 [DVD]

【※以下ネタバレ】

人気ミステリー作家の綾辻行人有栖川有栖の合作で贈る“RPG推理ドラマ”シリーズの第5弾! 2003年6月にABCテレビで放送された出題編、解決編に特典映像を収録した作品。

あらすじ

『出題編』(放映日:2003年6月13日。94分)

 2003年6月。大学生の真中有人(まなか・あると)は、中学生時代のクラスメート相楽美音(さがら・みね)と偶然再会した。美音は実は笛吹興産社長・笛吹音右衛門が妾に産ませた子供で、母親の死後笛吹家に引き取られていた。しかしここ数年笛吹家は立て続けに不幸に見舞われていた。音右衛門に借金をした末に破産し自殺した音楽家・琴村弦三が笛吹家を呪うと言い残しており、実際当主の音右衛門が一ヶ月前に海難事故で死亡していた。

 有人は、近々岡山の別荘で遺産相続の話し合いが行なわれると聞き、半分は美音を守るナイトの気分で、半分は映画のシナリオのネタにしようとして、その話し合いに参加すると申し出る。別荘は死んだ琴村のかつての家だった。美音はこの家の周りで全身を包帯に包んだ謎の「包帯男」に何度も襲われており、家人たちは面白半分に琴村の幽霊ではと話していた。

 やがて弁護士が遺言を公開するが、音右衛門の遺産は僅か400万円しか残っておらず、株の大半は今は副社長の鐘田が手に入れていた。しかも相続税が払えないのでこの屋敷は壊し、土地を売るしかない状況だった。美音たちの兄姉は悔しがるが事実上打つ手が無かった。美音は何とかしようと、かつて音右衛門が話していた「困ったときに吹くと一度だけ助けてくれる笛」を探し回るが見つからない。

 翌日、鐘田が納戸のトランクの中で死体となって発見された。美音は犯行現場のコントラバスケースの中に探していた笛を見つける。警察が捜査すると、家にいた全員にアリバイが無かった。律が養っている芸術家・響木弾は、美音が琴村の弟子だったことを調べ上げ、お前が犯人なのは黙ってやるから体を差し出せと襲い掛かってくる。美音は必死で笛を吹き鳴らした。




『解決編』(放映日:2003年6月20日。60分)

 笛を吹いた途端、一堂の前に謎の存在「安楽椅子探偵」が現われ、「純粋推理空間」で事件の説明を始める。


●推理1

 そもそも謎の「包帯男」は存在したのか? 美音の虚言、もしくは誰かの変装はないか? 答え:存在した。証拠は遺言状公開シーン。全員が部屋に集まっている状態で、後ろのガラス戸が少しづつ開いている。誰かが居て戸を開けていたとしか考えられない。

 それが誰で今どこに居るかは今しばらく置いておくとする。



●推理2

 犯人は何故鐘田の死体を小さなトランクに入れたのか? 納戸にはコントラバスケースもあり、そちらに入れるほうが簡単だったはずである。(美術品の箱には入れることは出来ない。箱が納戸に運び込まれたのは、死亡推定時刻の午後9〜10時より後だからである)。

 論理的な答えは一つ。既にコントラバスケースには何かが入っていたため、死体を入れることが出来なかった。ではコントラバスケースには何が入っていたのか? この屋敷から消えたたった一つのものしか考えられない。それは「包帯男」である。

 包帯男がケースに隠れていて、鐘田に見つかって殺したのか? 違う。それならば包帯男はコントラバスケースに死体をつめ、自分は窓からでも逃げれば良かったはず。となると、考えられるシチュエーションは「犯人が包帯男を殺し、コントラバスケースにつめた。それを鐘田が目撃したので、鐘田も殺した。そして鐘田の死体を隠すためトランクに詰めた」である。



●推理3

 殺された包帯男はそもそも誰だったのか? それは死んだはずの笛吹音右衛門である。証拠は花瓶。夜8:30頃にお手伝いさんが花瓶を拭いていたのに、翌日音右衛門の指紋が見つかった。それは午後8:30以降に音右衛門が触ったことを意味する。つまりこの日音右衛門は屋敷に居た。とすれば包帯男=音右衛門でしかありえない。

 事故にあった音右衛門は、生きてはいたものの、おそらく大怪我をして、記憶喪失になった。しかし僅かな記憶を辿り別荘に戻ってきた。そして花瓶に隠してあった笛を取り出した後、犯人に殺され、コントラバスケースに詰められた。その際笛がケースの中に落ちた。死体はその後犯人が近くの沼に捨ててしまった。

 犯人は何故音右衛門の死体だけ捨てて、鐘田の死体は捨てなかったのか? もし鐘田の死体も捨てていれば、行方不明事件として警察が大捜索を行い、沼をさらって包帯男/音右衛門の死体も見つけてしまうだろうから、それは困る。しかし包帯男/音右衛門が見つからなくなっても、不審者がどこかに逃走したと思うだけで沼をさらったりはしないはずである。



●推理4

 さて犯人は誰か? 午後10時過ぎに納戸に箱を運び込んだ際、笛吹和はコントラバスケースを動かしたが何も言わなかった。この少し前に関係者は全員コントラバスケースが空であるところを見ていた。もし和が犯人で無いのなら、ケースが重いのを不審に考え、開けようとしたはずである。しかしそうしなかった。それは何故かといえば、コントラバスケースの中に包帯男/音右衛門の死体が入っていて重いと知っていたからである。



●真犯人は……

 笛吹和。犯行の動機は、一ヶ月前の海難事故の際、父親音右衛門を殺そうとしたから。そして納戸で出くわした包帯男が音右衛門だと知り、殺人未遂をしゃべられては困るので殺した。そこに鐘田が居て目撃されてしまったので、鐘田も殺した。



●エピローグ

 事件は和が自供したことになり、安楽椅子探偵も消え去さった。美音は有人に、琴村を借金漬けにしたのは音右衛門ではなく、実は鐘田だったと知っていたので、笛吹家の人間に恨みなどは無かったと告白する。最後に美音は有人に笛を渡しておしまい。


感想

 朝日放送(ABC)制作の、伝説的視聴者参加型推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズの第五弾。まず最初に「出題編」を放送し、視聴者に犯人名とそこに到る道筋を推理して応募してもらい、数日後に「解決編」を放送、という形式で放送されたドラマで、こういう「犯人は誰だ? さああなたが推理してください」というスタイルは、推理小説好きにとってはたまらないものがある。



 今回のテーマは横溝正史的世界観で、金持ち一族の遺産相続ネタ、岡山山中の別荘が舞台、顔を隠した正体不明の男の出現、など、横溝小説あるあるネタがふんだんに使われていて、その遊び心にはニヤリとさせられた。

 難易度は相も変わらずの難解さで、「いるかいないか不明の男が、知らないうちに殺されていて、死体も既に処分されていました」とか、そんなもん解るか!というレベルである。殺されたことすら描かれない人間の殺人を見抜くことが事件解決の鍵、とか、かなり厳しい内容だが、少なくとも前作「安楽椅子探偵とUFOの夜」よりは謎の構成に無理が無く、花瓶の指紋など手がかりもきちんとしており、トリックとしては納得できた。ちなみにボーナス映像では、講談社の女性編集者が完璧に真相を言い当てていたところを見ると、推理小説好きには独特の回路が形成されていて、あれだけの手がかりで真相が解ってしまうものらしい。そういう映像を見てしまうと、「このシリーズは古今東西推理小説を究めつくしたプロ(?)向けの物なのだなぁ」と痛感させられた。

 今回は予算に余裕があったのか、伊藤淳史を初めとして、それなりに名前の知られた俳優が出ていたのがなんとも。普段とは違い、役者に知った顔があると却って抵抗感が生まれてしまうのが、このシリーズの不思議なところであります。


※「安楽椅子探偵」シリーズの他作品のあらすじ・感想は、以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com

●放送日
出題編 2003年6月13日 (94分)
解決編 2003年6月20日 (60分)


●スタッフ
原作 綾辻行人 有栖川有栖
脚本 戸田山雅司


●キャスト
真中有人(まなか・あると)(大学生) 伊藤淳史
相楽美音(さがら・みね)(大学生) 前田亜季
笛吹音右衛門(笛吹家当主・笛吹興産社長) 品川徹
笛吹疾(ふえふき・はやて)(笛吹家長男・笛吹興産専務) 若松武史
笛吹律(笛吹家長女) 広岡由里子
笛吹和(ふえふき・なごむ)(笛吹家次男・無職) 京晋佑
歌田唱子(笛吹家の家政婦) 弘中麻紀
響木弾(自称芸術家) KONTA
鐘田演彦(笛吹興産副社長) 徳井優
鈴江詞帆(笛吹家弁護士・鐘田の愛人) 中坪由起子
琴村弦三(コントラバス奏者) 真名胡敬二
管原詠一(刑事) 村松利史


安楽椅子探偵 演者:坪田秀雄 声:草野徹