感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン9」第3話「ダイモニカス」

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放送 Dlife。全20話。

【※以下ネタバレ】
 
※シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ

 

第3話 ダイモニカス DAEMONICUS

 

あらすじ

 お題は「悪魔憑き」。


 老夫婦が猟奇的な手段で殺害され、現場には「DAEMONICUS」(ダイモニカス)という言葉が残されていた。この言葉は、ラテン語で「悪魔」「悪魔が憑りつく」という意味だった。やがて、近くの精神病院から患者一人と看守一人の二人が消えていることが判明し、FBIはこの二人を容疑者とみなして捜査を進める。

 逃げ出した患者の隣室の男コボルドは、自分が犯人たちと精神的に繋がっていると示唆し、その後コボルドの言葉通り、犯人一人の惨殺死体が見つかる。どうやら犯人同士が殺し合いをしたらしかった。レイエスは、犯人は悪魔に憑りつかれており、コボルドは悪魔と犯人たちを精神的に中継する「媒介」ではないかと推測する。しかしドゲットは、オカルト的発想を受け入れず、コボルドこそが事件の首謀者だと疑う。実際コボルドは、過去には大学の教授として悪魔について研究しており、悪魔云々の知識は豊富だった。

 やがてコボルドのうわ言通り病院の精神科医モニクが殺害され、レイエスはますますコボルドが悪魔とつながっている事を確信するが、ドゲットはコボルドが捜査陣を相手に犯罪ゲームを仕掛けているだけだと譲らない。そしてコボルドは犯人の一人がいる場所を指摘し、ドゲットたちが急行するが、犯人は自殺していた。ドゲットは現場に連れてこられていたコボルドが脱走しようとしたため銃撃するが、撃たれたコボルドは川に転落する。そして引き上げられた遺体はコボルトではなく病院の看守だった。

 事件後。ドゲットは今回の事件は全てコボルトが仕組んだ犯罪ゲームだったと結論付ける。被害者たち「ダレンとエブリン夫婦」「医者モニク」「看守カスター」の名前の一部ずつ(DAE, MONI, CUS)をつなげると「DAEMONICUS」となるからだった。


監督 フランク・スポトニッツ
脚本 フランク・スポトニッツ


感想

 評価は△。

 猟奇的な殺人事件に本当に悪魔が関わっている(かもしれない)、という王道系のエピソードだったが、あいにく切れ味が悪く、面白さは今二つだった。


 今回の事件は、悪魔が人間に犯罪を犯させる、というシチュエーションは実にありふれているが、悪魔が直接誰かに憑りついて操るのではなく、中継アンテナ役である「媒介」のコボルドが必要、という着想が面白い。そして、コボルドが漏れ聞く情報を元にしてレイエスたちが捜査を進める、という展開は、ちょっとしたひねりだが結構新鮮だった。

 ところが、話の進め方をどうみても間違っており、その結果として、全くすっきりしない結末に到達してしまい、モヤモヤ感が酷かった。例えば、話が「ドゲットがあくまで悪魔憑き云々を全く信じず、コボルド首謀者説で突き進むものの、結局それでは説明がつかないまま事件が終わってしまう」といった形であれば納得できたと思うが、実際は結局コボルドが本当に事件の首謀者だった、という形で事件が決着してしまう。そのため、今回描きたかったのは、悪魔憑き話だったのか、はたまた狂気的犯罪者のゲーム話だったのか、と、話がどっちつかずになってしまい、どうにも満足感が無かった。

 レイエスが事件現場で感じた感じた邪悪な存在であるとか、コボルドが雷鳴の夜に一瞬顔が悪魔的な物に変わるとか、の状況を見ると、今回の事件は多分悪魔が関係しているのだろう、とは推測できる。しかし、結局コボルドに逃げられて、思わせぶりな「DAEMONICUS」という言葉も、単に被害者の名前で言葉遊びをしただけでした、と説明されると、今回の話が悪魔事件である必然性が薄いと言うか、テーマがぼやけてしまっている。結局、視聴し終わったあとは「今回の話はなんだったのか……」という徒労感に襲われてしまった。もう少し話の方向性というか、を明確にしてからシナリオを書いてほしかった。

 本エピソード一番の強烈シーンは、コボルドが突然口からオレンジ色の汚物的な物を際限なく吐き出して、ドゲットのスーツをめちゃくちゃに汚してしまう場面だろう。レイエスたちは、その汚物的な物を「しんれいたい」と呼んでいて、何のことだか見当がつかなかったが、調べてみると、漢字では「心霊体」、おなじみの言葉に直すと「エクトプラズム」、のことらしい。なるほど、これでオカルト好きにようやく理解できた。スカリーはドゲットに対して、謎の物質を「霊魂の結晶」「テレパシーをした時の副産物」「無機質の物質で、自然界には存在しないもの」といった抽象的な言葉を並べて説明していたのでさっぱりピンと来なかったが、最初からエクトプラズムといってくれれば良かったのに、という気がしてしまった。


 今回は、第1・2話からまたキャラの設定が変わっていて驚かされた。ドゲットはシーズン8の頃の正気を取り戻したのか、オカルトなどのX-ファイル的要素を一切否定して事件に臨み、逆にレイエスは「これは本物の悪魔の仕業では」とか大真面目に口にし、スカリーもまたオカルトビリーバーに復帰して、ドゲットに「科学的に説明のつかない何かが存在する」等と説教する。全員立場が第1・2話と逆になっており、設定のブレが激しすぎである。スカリーとレイエスはともかく、ドゲットは懐疑派なのかビリーバーなのかどっちなのかはっきりさせてくれ、と言いたくなった。

 今回物凄く笑ったのが、レイエスが精神病院の医師に「患者に悪魔が憑いていたような形跡は?」云々としつこく尋ねるのを見かねて、ドゲットが「おい、入院させられるぞ?」とたしなめる場面。基本的にドゲットはユーモアとは縁のないキャラだけに、素で言ったのだと思われるが、それが却っておかしかった。

 今回地味にさりげなく描かれたが実は重要な事実として、産休が終わって仕事に復帰したスカリーは、X-ファイル課には戻らず、クワンティコにあるFBIアカデミーで先生になってしまっている。つまり一線でX-ファイル事件を扱うドゲット&レイエスの後方支援役というか、脇役というか、に回ってしまったわけである。モルダーに続いてスカリーも舞台から去ろうとしているのかと思うと、寂しさが募ってしまった。


一言メモ

 冒頭にダレンとエブリンの夫婦がプレイしていたボードゲームは、英単語を並べて遊ぶ「スクラブル」(Scrabble)というゲーム。アメリカでは物凄く有名なゲームの様である。

シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら

「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ