感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン9」第6話「トラスト・ノー・ワン」

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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン9 http://dlife.disney.co.jp/program/drama/xfile_s9.html
放送 Dlife。全20話。

【※以下ネタバレ】
 
※シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ
 

第6話 トラスト・ノー・ワン TRUST NO 1

 

あらすじ

 お題は「無敵兵士」。


 ドゲットがスカリーに、モルダーに連絡を取りたいと要求してきた。匿名の相手がドゲットに「無敵兵士」の氏名リストの提供を申し出てきたが、直接モルダーに会って渡したいと言っているという。しかしスカリーは、モルダーへの連絡方法が解らないと嘘をつく。

 やがてスカリーは、若い夫婦が争っている場に遭遇し、夫は赤ん坊を奪って逃げ去ってしまった。スカリーは、妻パティに同情し自分に家に宿泊させる。ところが全ては夫婦が、スカリーに近づきモルダーに連絡を取るためにうった芝居だった。夫は安全保障局の職員で、政府が「無敵兵士」という一般市民を陥れる陰謀を企んでいるらしいと知り、モルダーに知らせたいと言う。また二人の娘は、スカリーの息子ウィリアム同様に念力めいた力が使えると言い、パティはスカリーと協力して子供に何が起きているのか知りたいと言う。

 直後、安全保障局の上司(役名:影の男(Shadow Man))がスカリーに接触し、「無敵兵士」計画を止めるためにリストを提供するので、24時間以内にモルダーに連絡を取れと命令する。スカリーは意を決してモルダーにメールを送り、モルダーは列車で戻ってくることになった。

 ところが駅に影の男が現れ、スカリーたちを襲撃し、パティの夫を射殺した。さらに影の男は撃たれた上に列車に轢かれたはずなのに死体が見つからなかった。影の男は明らかに無敵兵士だった。影の男は、列車から飛び降りたモルダーを追って採石場に向かい、スカリーたちも後を追った。影の男は、スカリーに、モルダーかウィリアムが死ぬ必要があると語るが、突然採石場の崖に突っ込んで死んだ。無敵兵士の弱点はおそらく採石場に有った鉄分だった。結局モルダーは、また行方をくらました。


監督 トニー・ワームビー
脚本 クリス・カーター & フランク・スポトニッツ


感想

 評価は○。

 X-ファイルのエピソードの中で、続き物となっている、いわゆる「神話」と呼ばれる作品群の一作。ベテランのクリス・カーターとフランク・スポトニッツがシナリオを書いているので、手堅い出来栄えで、まずまずは満足できた。


 サブタイトルの「トラスト・ノー・ワン」(TRUST NO 1)とは、劇中でモルダーが使用しているメールアドレス「trust_no1@mail.com」から来ているが、X-ファイルファンならすぐ解る様に、このアドレスの元ネタはシーズン1の最終回(第24話)「三角フラスコ(終章)」で、ディープ・スロートが口にした「誰も信じるな(TRUST NO ONE)」である。モルダーらしい命名でちょっと笑ってしまった。


 今回の話は「神話」に属してはいるが、過去のシリーズの神話物とはまるで方向性が違うので、ちょっと落ち着かなかった。過去の神話エピソードといえば、キーワードとして「UFO」「地球外生物」「秘密組織」「スモーキング・マン」「サマンサ」「緑色の血」「バウンティハンター」「ブラックオイル」「顔のない男たち」のどれかが必ず入っていて、異星人の侵略計画だの、政府と異星人の密約だのという、オカルト好きならワクワクする話が展開されたが、今回は宇宙人ネタのどれも全く出てこず、やや物足りなさを感じさせた。

 どうやらこのシーズンは「神話」は「無敵兵士」というキーワード一本で押し通すつもりの模様だが、「宇宙人が既に地球に来ていて、そのあたりを徘徊している」というシチュエーションと比較すると、やはりインパクトは弱いと言わざるを得ない。今回もベテラン二人のシナリオで上手く雰囲気を出してはいたが、かつての「神話」と比較すると、やはり食い足りないという感じだった。というか、宇宙人の地球侵略計画は今はいったいどうなっているのか、と尋ねたいところである。

 今回は、無敵兵士が、モルダーとウィリアムを危険視していて殺そうとしているという事情が明かされたが、どうもとってつけた感が強く、「超能力ベビーのウィリアムならともかく、ただの人のモルダーが無敵兵士にとって危険か?」という感が否めなかった。あと不死身のはずの兵士が鉄分に弱いというのも、なんだかなぁという感じである。クリス・カーターたちは、真面目に先の事を考えて伏線を仕込んでいるのかと、微かに疑問が湧いてくるオチだった。


 さて、今回のエピソードでは「安全保障局」の職員たちが重要な役目を演じている。視聴しているときは、安全保障局とは何なのかピンと来ていなかったのだが、調べてみるとこれは「国家安全保障局」(National Security Agency)、通称「NSA」の事だった。なるほど、これなら知っている。映画などでそこら中を盗聴をしまくって、主人公たちの敵となることが多いあの有名な諜報機関の事だったのである。これで劇中であらゆるところ(スカリーの自宅内から往来のあらゆる場所まで)を監視カメラで捉えている、という描写も納得がいった。

 劇中では、スカリーが安全保障局に自宅を監視されているのを知って憲法違反だと食って掛かると、相手が「テロリストに甘い憲法など守る必要はない」云々と切り返す。そして、このエピソードの放送は2002年1月6日で、つまりあの2001年9月11日の同時多発テロから数か月しか経っていない時期なのである。(当時の)最新の情勢を素早く取り入れていて感心すると言うか、ご時世が解ると言うか、だった。

 中盤に、荒野の真ん中に呼び出されたスカリーが、安全保障局の髭上司に「こんな何にも無いところに呼び出すなんて」云々というと、相手は「かつてはそうだが、今は違う」と答えるシーンがある。どうも意味が取れずに首をかしげていたのだが、原語の台詞にあたってみてようやく意味が分かった。正しいニュアンスとしては、

スカリー「人里離れた場所に呼び出すなんて」
髭男「昔はともかく、今は人里離れた場所というのものはない(=どこであっても監視されている)」

という意味だった様である。番組のオープニングで、通常は「THE TRUTH IS OUT THERE」(真実はそこにある)と表示されるところが、今回は「THEY'RE WATCHING」(彼らは見ている)になっているのも、そういう意味を含んでいると推測される。


 スカリーの家に泊まっていたパティが、ウィリアムを抱き上げる前に何かアンテナのついた機械の電源をオフにするシーンがあり、無線LANのルータの電源でも切っているのかと思って変に感じたのだが、調べてみると「ベビーモニター」を止めていたのだった。そもそもベビーモニターというのも何かすら知らなかったのだが、カメラやマイクでベッドの赤ん坊の様子を確認する装置の事だった。なるほど、よく見ると機械の側面にカメラらしいものがついていた。つまりパティは、スカリーに気が付かれないように監視装置をオフにした、というシーンだったのである。知識が無いと、意味ありげなシーンも伝わらないものである。一つ勉強になった。


シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら

「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ