感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第15回『強制終了 人工知能を予言した男』


チューリング

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第15回 『Case15 強制終了 人工知能を予言した男』 (2017年7月27日(木)放送)

 

内容

7月27日木曜
フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 強制終了 人工知能を予言した男


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回取り上げるのは、70年も前に「人工知能(AI)」を予言したイギリスの天才数学者アラン・チューリング。第2次世界大戦中、解読不可能と言われたナチス・ドイツの暗号エニグマを破り連合国を勝利に導いた。しかしその業績は軍事機密ゆえに戦後も長く封印され、その後チューリングが同性愛者として逮捕されたことも相まって評価されることはなかった。情報時代の夜明け、その闇に迫る…。

人工知能を予言した男

 2017年。人工知能が将棋で名人に勝利した。今では当たり前の概念「人工知能 AI」を70年前に予言した男がいた。イギリス人数学者アラン・チューリング(1912~1954)。

 チューリングは、学生時代は科学の話しかしない変わり者と見なされ、いじめを受けたりした。やがてチューリングケンブリッジ大学に進学する。

 当時計算機といえば機械式の物であり、「四則演算専用」「微分計算用」などそれぞれ計算ごとに専用の機械が必要だった。チューリングは、全ての計算を数字に置き換えて処理すれば、どんな計算でも一つの機械で行えるようになる、という発想を得る。これは今のソフトウェアの概念に他ならない。さらにチューリングは人間のあらゆる行動も数字に置き換えることで、人間と同じことが出来る機械を構想した。この「万能チューリング・マシン」こそ、現代のコンピューターそのものだった。

 1936年、チューリングはこのアイデアを論文として発表し、一部の数学者たちに注目される。


エニグマ暗号の解読

 第二次世界大戦が始まると、チューリングは暗号解読のための組織にスカウトされた。当時ナチスドイツが使用していた暗号作成機「エニグマ」は、配線と歯車によってある文字を全く別の文字に変換する装置で、エニグマで作られた暗号は10年以上解読されていなかった。

 やがてイギリスはエニグマ作成機械を手に入れたが、機械の現物が有っても、「この暗号はどの配線と歯車の組み合わせを使って暗合化されたのか」という事を突き止めるのには一週間かかり、解読できた時には既にドイツの作戦は終わっていて役に立たなかった。

 チューリングは暗号解読のために「ボンブ」という機械を開発し、人間が一週間かかっていた解読作業を一時間で行えるようにした。これによりイギリスはエニグマ暗号を自在に解読できるようになり、戦争の勝利に貢献した。

 しかし戦争が終わってもチューリングの功績は一切公表されることは無かった。イギリスはドイツから入手したエニグマ暗号機を、当時の植民地に「絶対解読不可能」という触れ込みで送り付け、植民地が使用する暗号を解読していたのである。そのため、エニグマ暗号が解読できることは絶対の秘密だった。

 チューリングたちは、戦争終結に貢献した英雄どころか、「戦場に行かなかった卑怯者」扱いされることになった。


●エースの開発、そして挫折

 チューリングはやがてコンピューター「エース」の開発に取り組むチャンスを得た。エースはハードは出来るだけシンプルにし、機能はソフトウェアで実現する、という仕様になっていた。しかし夢の機械エースの開発はなかなか進まなかった。技術者たちは戦後の復興に最優先に回され、「夢の機械」を作っている余裕がなかった。またチューリングはチームプレイヤーではなかったので、同僚たちが「まず手堅いレベルでの試作機を作るのはどうか」と提案しても、全く耳を貸さなかった。


人工知能の概念

 チューリングは、1947年の講演で「経験を積んで学習していく機械」という物について語った。翌1948年にはこれを「知能機械」という概念として論文で発表している。しかし彼のアイデアは、あまりに進み過ぎて全く評価されなかった。またエニグマ解読に関する彼の功績は秘密だったので、チューリングは「単なる一数学者」としか見なされていなかった。


チューリング・テスト

 1948年、マンチェスター大学で世界初のコンピューター「ベビー」が開発されたため、チューリングマンチェスター大学に移籍した。彼はこの頃、人工の知性というものを判定するためのテスト「チューリング・テスト」を考案した。それは人間が相手が人間か機械か解らない状態で質問を行い、質問者は機械を「相手は人間だ」と思ったなら、その機械には知性がある、と見なすという物である。

 「知性とは何か」という定義に正解と言えるものはない。チューリングは「人間と変わらないようにふるまえるならそれは知性があるとみなしてよい」という定義をしたのだった。


●謎の死

 1952年チューリングは同性愛の罪で逮捕された(当時のイギリスで同性愛は犯罪だった)。チューリングは有罪となり強制的に女性ホルモンを投与された。1954年、チューリングは毒を塗ったかじりかけのリンゴの側で死んでいた。享年41歳。警察は自殺と判断した。


●再び脚光を浴びる

 1974年、イギリス情報部の元大佐が政府の許可を得て「ウルトラシークレット」という題名の本を出し、その中でチューリングたちのエニグマ暗号解読の功績を明かした。これをきっかけにして情報公開が進み、今ではチューリングはコンピューター科学の始祖として認められるようになった。



●経験から学習する機械

 かつてチューリングが構想した「経験から学習する機械」は現在では実現している。もはやAIは学習するために人間の力を借りる必要はない。AIが急速に発展し、2045年には「シンギュラリティ」という、人工知能が人間を追い越すという時代が来るとも言われている。

 日本の学会は、研究者たちにAI開発のために倫理を守るように求める一方、「AI自身」にも同様に倫理を守るように求めている。


感想

 コンピューター業界の黎明期の偉人チューリングのお話。ここに語られることは特に「初耳だ!」という話はありませんでしたが、ひとまとめにして一時間でわかりやすく語ってくれたのは高評価です。

 しかし、「AI自身に倫理を守るように求める」って、多分学会の方は大真面目なんでしょうけど、素人にはギャグとしか思えないわぁ……
 
 

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チューリングの計算理論入門 (ブルーバックス)