感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第17回『人を操る 恐怖の脳チップ』

José Manuel Rodríguez Delgado. Medicina (Spanish Edition)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第17回 『Case17 人を操る 恐怖の脳チップ』 (2017年9月28日(木)放送)

 

内容

9月28日木曜
フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「人を操る 恐怖の脳チップ」


人類に功も罪ももたらす「科学」。その知られざる姿に迫る! 今回は脳に電極チップを埋め込み人間や動物を操作する装置を開発した、ある神経科学者の物語。より良き人間を作り暴力や争いの無いユートピア実現を夢見た男は、人間を洗脳する「悪魔の科学者」と非難された! 近年、脳チップは神経疾患の治療で再評価の動きがある一方、兵士の能力アップに利用できないかという研究も進められている。恐怖の脳チップ実験、その闇―。

 今回は脳科学者ホセ・デルガード(1915~2011)の物語。

感情を機械で操る

 デルガードはスペイン生まれ。父親と同じ眼科医を目指したが、スペイン内戦では共和国軍の医療部隊に参加し、スペインがフランコ支配下にはいると、強制収容所送りになった。その後デルガードは脳医学の道に進んだ。

 1946年渡米。当時は精神疾患を脳手術で治療するロボトミーの全盛期だったが、彼は別のアプローチをとった。当時、猫の脳に脳に電気刺激を与えると怒りを引き起こすことが出来る、という事は知られていた。彼は脳に電気刺激を与える装置「スティモシーバー」(STIMOCEIVER)を開発した。この名は刺激=「STIMULATE」と受信機=「RECEIVER」を組み合わた言葉で、脳に電極を埋め込み、それをリモコンで制御できる。という機械だった。

 デルガードは、動物実験で、脳への電気刺激により、食欲を無くす、怒りを引き起こす、暴力衝動を打ち消す、といったことがコントロールできることを突き止めた。さらにデルガードはスティモシーバーをより小型化し、精神疾患の患者に埋め込んだ。そしておとなしくしている人を怒らせたり、内気な人を一瞬で友好的にしたり、といった事をしてみせた。スイッチ一つで人の感情はコントロールできたのである。


一躍注目を浴びるが……

 1963年。デルガードは宣伝のためスペインの闘牛場で公開実験を行った。闘牛用の牛の脳にチップを埋め込み、自らがマタドール役で牛を挑発し、牛が向かってくるとスイッチを入れ牛をおとなしくさせたのである。これが評価され、デルガードにアメリカ軍が研究資金を提供するようになった。デルガードは脳チップにより「人の精神を文明化できる」と語った。

 しかし1970年代に入ると、デルガードの研究に逆風が吹き始めた。脳科学者たちが、当時頻発してた黒人暴動に対し「脳チップを使えば暴力を防げる」だの発言したりとか、同性愛者に対し「脳チップで同性愛を治す」実験だのをやらかしたりしたのである。

 世間は脳チップは人間の人権を踏みにじるマインドコントロールの道具だと認識し、デルガードを非難した。デルガードは脳チップはナイフ同様、それ自体に善も悪も無いと主張したが、事実上アメリカ医学会を追放され、1974年にスペインに戻った。


その後

 デルガードはその後も研究を続け、電極を付けたヘッドギアのようなものを被ることで、チップの埋め込みすら必要が無くなるようにしたが、もう世間からは忘れられていった。

 しかし21世紀になると、脳チップは病気の治療の手段として復活した。パーキンソン病の治療のため、脳チップを埋め込む、という技術が開発され、世界中で15万人以上が手術を受け、日常生活が送れるようになったのである。

 2005年。デルガードは再渡米した。デルガードは自分が最新の治療法の先駆者だと思っていたが、彼をそのように扱うものは皆無だった。2011年、デルガードはロスアンゼルスで死去した。


感想

 今回の話は、実に微妙な内容。「悪魔的研究をやらかした科学者」という話と見ることもできるし、「優れた研究のパイオニアなのに忘れられてしまった悲劇の人」という見方もできる。どのあたりだと考えればいいんでしょうかねぇ……
 
 

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