感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第18回『ザ・トゥルース(真実) 世界を変えた金融工学』

金融工学入門 第2版

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第18回 『Case18 ザ・トゥルース(真実) 世界を変えた金融工学』 (2017年10月26日(木)放送)

 

内容

10月26日木曜

フランケンシュタインの誘惑「ザ・トゥルース(真実) 世界を変えた金融工学


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回は「金融工学」誕生の物語! 世界のGDPの7倍以上が運用されている金融派生商品デリバティブ)。金融の世界に進出し始めた物理学者・数学者たちが、それまで予測不可能とされていた市場の動きを解析・数式化して「必勝の運用法」や「絶対に損をしない」というふれこみの商品を次々に生み出した。それは世界にばく大な富をもたらすと同時に、かつてない規模の経済危機を生み出してしまう…。

 今回は金儲けの世界に数学を持ち込んだ「金融工学」の物語。


●「真実」の追及

 科学者たちは、無秩序に思える金融の世界にも、物理学と同じように複雑な動きを説明できる方程式が有ると考えている。それを「真実(ザ・トゥルース)」と呼ぶ。



●数学者、カジノで大儲けする

 1961年。数学者エドワード・ソープは、生活費を稼ぐため、カジノでカードゲームのブラックジャックに「必勝法」を引っ提げて挑戦した。

 ブラックジャックは、客とディーラーが一対一で勝負するゲーム。配られたカードの数値を合計し21に近い方が勝ち。21を超えるとバーストといって負け。JQKの絵札はすべて10として扱う。客はまず二枚だけ配られ、さらに欲しいだけカードをもらえる。ディーラーは最低17になるまでカードを引かなければならない。

 ソープはディーラーは、つまり17~21の間でしか勝てず、10のカードが来ればバーストして負けてしまう、と考えた。そして全部で52枚のカードのうち、今までに何枚10のカードが出たかを覚えておき、ディーラーに10のカードが行く確率(つまりディーラーが負ける確率)を計算して、それに応じて勝負する、という方法で挑んだ。その結果、数日で手持ちの資金を二倍に増やしたという。

 これは、のちに「カウンティング」と呼ばれるようになる方法で、ソープが本を書いて公開したために有名になった。



●数学者、金融市場に挑む

 続いてソープは今度は金融市場に挑戦した。そして「ワラント」という「株を購入する権利」を売り買いする商品について研究し、数式を使って、株そのものとワラントを組み合わせて運用することで、利益が5パーセントが当たり前の時代に20パーセントの利益をたたき出した。ソープはそのあと投資を募ったものの、当時の人たちには「数学で株を売り買いする」という概念が理解できず、全く注目されなかった。



ブラック・ショールズ方程式の誕生

 やがて数学者ブラックと経済学者ショールズが「ブラック・ショールズ方程式」を発表した。これは金融商品の適正価格を計算する式だった。ソープが数学を「買う方が儲けるために」使ったのとは反対に、この方程式は「銀行など売る方が金融商品で損をしないために」使う物だった。この式はたちまち業界に受け入れられ、多数の金融商品が開発された。

 やがて業界に全く場違いな「ロケットサイエンティスト」が参入してきた。1990年代に宇宙開発が縮小されると、職にあぶれた科学者たちが金融業界に再就職したのである。場所は変わっても彼らの仕事はほぼ変わらず、数式を駆使して金融商品を開発していった。

 やがてショールズ自身も、自分の理論を証明するため、投資会社ロングターム・キャピタル・マネジメントLTCM)を立ち上げた。ショールズは1997年にノーベル経済学賞を受賞した。



●大破綻

 LTCMは年40パーセントという驚異的な利益を上げた。しかしやがてライバル会社がLTCMの真似をして同じような売買を始めたので、儲けが減り始めた。そのためLTCMは、リスクの高いロシア国債に投資を始めた。方程式によればロシア国債は割安だったためである。

 やがてロシアが金融危機に陥った時も、ブラック・ショールズ方程式によれは、ロシア破たんの確率は「100万分の3」、つまりほぼゼロだったため、投資を続けた。

 しかし1998年、ロシアはデフォルト(債務不履行)を宣言し、ロシア国債はただの紙くずと化した。方程式はその前提として「市場の状態は普通」でなければならなかった。つまり経済危機のような異常な場合には方程式は適用できなかったのだが、ショールズ自身がそれに気が付いていなかったのである。LTCMは40億ドルの負債を抱えて倒産した。



●懲りることなく……

 しかし金融の関係者はLTCMの破綻は、単に関係者が頭が悪かっただけと見なして、以後も金融工学で商品を作り続けた。しかし2008年、今度はリーマンショックが発生することになった。



●AIが取引を行う時代

 現在では金融取引は人間ではなくコンピューターが一秒間に何万回という回数を行う時代になっている。これを「高頻度取引:High frequency trading(HFT)」という。もうこうなると人間では相手にならない。

 2010年5月、突然アメリカの主要企業の株価が暴落し一瞬にして元に戻るという怪現象が起きた。これは取引をしていたコンピューターの暴走と思われるが、誰も対処できなかった。こうなると、もう何が金融恐慌の引き金になるのか解らず、対処不可能である。

 しかし、現在では金融業界にとって金融工学は、現代社会における電気の如く、もうそれなしではやっていけないものとなっている。危険だからと言って無くすわけにはいかないのである。

 2016年、トランプ大統領はリーマンショックの後で作られた金融業界に対する規制を緩めるように指示した。


感想

 今回の話は、特に闇要素はなく、普段に比べると憂鬱度はゼロの珍しい内容でした。どちらかというと、金融工学という分野の紹介番組みたいな感じでしたね。勉強になりました。

 無秩序に見えるものに対し、方程式を適用することで先を予測する、というのはSFで有名な「心理歴史学」みたいですよねぇ。金融工学の現実や結果はともかく、そういう方程式を求めるのにはロマンを感じます……、って、この番組が伝えたい教訓が受け取れてないか?
 
 

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