【少女小説】『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者インタビューがやたら面白かった

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史


 今年の1月上旬に以下のような記事がネットに登場しました。
 

そろそろ、「少女小説」について語り始めよう/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー - wezzy|ウェジー
http://wezz-y.com/archives/51381

少女小説」と聞いて何を思い浮かべますか? 『なんて素敵にジャパネスク』に『炎の蜃気楼』、『アナトゥール星伝』に『ちょー』シリーズ、はたまた『十二国記』。世代によって、思い浮かべるタイトルは違うでしょう。しかしながら、どれも「ファンの間以外で語られる場面がほとんどない」という点については共通しています。電撃文庫スニーカー文庫といったライトノベルレーベルに比べて少女小説は、たとえ大ヒット作品でもあっても批評や研究の対象になりづらい傾向があるようです。


しかし、少女小説が読者に与えてきた影響は決して小さくありません。少女小説の世界でこれまで何が起きてきたのか、そして「今」何が起きているのかを知ることで、見えてくるものがあるはず。そんな視座を持って書かれた評論本が、社会学者・嵯峨景子さんの著書『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社・2016)でした。コバルト文庫創刊40周年の2016年に出版されたこの書籍は、少女小説に親しんできたファンを中心に、着実に反響を広げ続けています。

 
 という巻頭の文章だけで、男性であるにもかかわらず、結構グッと来ました。今みたいにラノベが店頭を支配していなかったウン十年前、10代向け小説と言えば「ソノラマ文庫」か「コバルト文庫」という時代が確かに有りましたもんね。ソノラマはともかく、コバルト文庫はその後どうなってしまったのか、今の10代女子は何を読んでいるのか、とかいうあたりが解るのかとめちゃくちゃ興味を惹かれて記事を読んだのですが、これが面白くて。 
 
 
 という事で内容をざっとまとめてみました。
 
 

●第1回

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そろそろ、「少女小説」について語り始めよう
http://wezz-y.com/archives/51381

・2000年前後が少女小説にとっての転換点。ラノベケータイ小説が台頭したことで、既存の「コバルト文庫」等に新規読者が入らなくなった。

・今「少女小説」のメイン読者は、30~40代以上の女性。昔読んでいた層がそのまま高齢化した。
 
 
 

●第2回

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20代以上が読む「姫嫁」もの、10代に刺さった『告白予行演習』
http://wezz-y.com/archives/51382

・最近は主人公が波乱万丈の冒険をするタイプは少なくなった。また三角関係物もすたれた。今の流行の一つは「姫嫁もの」。

・主人公が姫というのは昔からあったが、さらに主人公が「嫁」つまり結婚からスタートして夫婦生活を送る話、が増えている。明らかに高齢化した読者に対応したジャンル。2008年頃から流行り出した。

KADOKAWAの「ビーンズ文庫」は若い読者相手に成功している。理由は「ボカロ小説」や「なろう小説」を出したから。

少女小説が衰退する中、作家たちは「つばさ文庫」「青い鳥文庫」などに活躍の場を移している。
 
 
 

●第3回

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少女小説ケータイ小説の違い、10代の虚無感を映すケータイ小説文庫
http://wezz-y.com/archives/51383

 
ケータイ小説ゼロ年代のブームの後もしっかり売れ続けていて、少女読者たちに人気。

・ジャンルとしては「ヤンキー物」が強い。ただし現実のヤンキーとは関係ない「カッコよくて頭も良くて、本当に悪いことはしないイケメンキャラ」が出て来るタイプ。つまり一種のファンタジー小説

・かつてのコバルト文庫のヒロインたちは基本エリート層だったが、ケータイ小説のヒロインたちはヤンキー校の生徒だったりする。それが今の若者には受け入れられているのかも。

ケータイ小説は内面描写が無い、との批判が有るが、精神の深堀りが出来ないリアル10代からすれば、その方が「自分に近い」と親近感が持てるのでは。少なくとも読者は共感しまくっている。
 
 
 

●第4回

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「女子ども向け」カルチャーは、なぜ大人たちをいらだたせるのか。
http://wezz-y.com/archives/51384

 
少女小説が研究や批評の対象になりにくいのは何故か? それは文学や批評の世界が男性中心だからであろう。

ケータイ小説がブーム時にあれだけ叩かれた理由は、妊娠とか死とかを軽く扱う事が、人は無視できないのだろう。しかしそれに吸い寄せられた人間がいたことも間違いない。そういう人たちが権威ある既存カルチャーに満足できなかった理由とかが気になる。
 
 
 

●第5回(最終回)

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マスであるほど語られにくい少女向けカルチャー、その先に
http://wezz-y.com/archives/51385

 
・現在「少女小説」と呼ばれるものは、『ブランドは少女向けだが実際は20代以上が主要読者の小説』と『リアル10代が読んでいる小説』の二種類が混在している。これを一つの言葉でまとめているので、語るのが難しくなっている。

少女小説の考察や評論はまだまだ。少女漫画は先を行っているので、少女漫画のように少女小説も扱われるようになると良いね。
 
 
 

感想

 実際の本を読んでいないのですが、このインタビューだけでおなか一杯というか。21世紀に入ったころに少女小説ラノベケータイ小説に駆逐の憂き目に有って、今では「元少女」の大人たちが主要読者であるとか何とか、そういう歴史が凄く興味深かった。
 
 こういうサブカルの歴史は、時折ネットに上がっていたりしますが、大抵筆者の「過去の記憶」「思いこみ」だけで構成されているので歴史的価値が無く、読んでいてあまり共感できません。しかしこちらは膨大な資料に当たったものだそうで、現時点での決定版みたいな勢いです。よくこんな本を書けたなぁと感心しきりですね。 
 
コバルト文庫40年カタログ コバルト文庫創刊40年公式記録