【推理小説】感想「狐火殺人事件」(ミスターX)

ミステリマガジン 2018年 09 月号 [雑誌]

【以下ネタバレ】

概要

 ハヤカワミステリマガジン1974年9月号~1975年2月に全6回で連載された長編(実質は連作短編)。作者のミスターXとは、怪盗ニック、サイモン・アーク、サム・ホーソーン、など無数の名探偵を想像したエドワード・D・ホックの別ペンネームであることが明かされている。

あらすじ

 6人の囚人を乗せた囚人護送車がギャングに襲撃され、囚人たちを全員連れ去った。襲撃を実施したのは消えた囚人の一人で暗黒街の帝王ブルーノの部下だと推測されたが、それならばブルーノ以外の5人まで連れて行った理由が解らない。さらに一週間たっても6人の誰一人として姿を見せなかった。そのため、「逮捕課」の課長であり、人探しの達人『マンハンター』ことデヴィッド・パイパーが乗り出すことになったが……


内容

 全6章構成。

第1部・歩(ポーン)
 囚人護送車が襲撃され6人の囚人が逃走した。逮捕課課長バイパーは、とりあえず絵の偽造犯のジョー・レイリイを見つけて逮捕する。


第2部・城(ブロック)
 脱走した囚人の一人でペテン師のチャーリイ・ホールがホテルで射殺死体となって発見された。パイパーはホールを恨むホテルの従業員が犯人だと突き止める。


第3部・騎士(ナイト)
 パイパーは、脱走した囚人の一人で強盗のジャック・ラーナーが空港に現れるという情報を掴む。空港に張り込んだパイパーは、操縦士に変装していたラーナーを捕まえる。


第4部・僧正(ビショップ)
 パイパーは密告により詐欺師で殺人犯のヒュー・コートニイを見つけだし捕らえることに成功した。ところがコートニイはパイパーに殺人については濡れ衣だと訴える。パイパーは密告者こそが殺人の真犯人だと見抜く。


第5部・女王(クイーン)
 脱走した囚人の一人で殺人犯のケイト・ギャラリイが、パイパーの妻ジェニイのところに助けを求めてきた。ケイトは夫殺しで有罪となったが、夫の勤めていた会社が自分を脱走させたのではと訴える。しかしパイパーはケイトの嘘を見抜く。


第6部・王(キング)
 パイパーは保安官のパーカーが脱走事件に関わっていたと確信するが、そのパーカーは何者かに殺害されていた。パイパーはただ一人残った暗黒街の帝王ニック・ブルーノの隠れ家を突き止めるが、そのブルーノが実は死んだはずのホールだと指摘する。今回の脱走事件はブルーノの側近が邪魔なボスを始末し、替え玉としてホールを建てるために仕組んだ事だった。そして駆け付けた警察によりホールたちは逮捕された。

感想

 ミスターXことホックは短編の名手として知られるが、長編は苦手らしく、この作品も名目上は長編だが、実際は短編6作品をつなぎ合わせて長編と謳っているだけである。

 囚人脱走話のアイデアは短編一本分程度の謎しか無いが、各エピソードで囚人一人一人毎に(本筋とは一切関係の無い)独立した謎が用意され、主人公パイパーがその謎を解く、という形でページ数を稼いでいる。その謎解き自体はいかにもホックらしく、ちょっとした記述にヒントが隠されているという正統派の謎解きとなっていて、なかなか読みごたえがあった。

 しかし、逆に6作品を貫く「集団脱走事件は誰が何のために企んだのか?」という件については、最終話で答えが出るが、真相は実にシンプルなものなので、正直肩透かしを食らわされたような気分だった。6回も連載しておいてオチがこれというのはあまりにもあまりで、やはりホックは長編は向いていないなと思わされた。

 ちなみにタイトルの「狐火」というのは、「囚人が消えてしまってまるで狐火のようだ」という意味でついているだけである。思わせぶりなわりに実はたいした意味が無いのも、やはり肩透かしだった。
 
 
サム・ホーソーンの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)
サイモン・アークの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)
怪盗ニック全仕事(1) (創元推理文庫)