【漫画】感想:NHK番組「100分de名著スペシャル」『100分de石ノ森章太郎』

石ノ森章太郎のマンガ家入門 (秋田文庫)
 

100分de名著スペシャル「100分de石ノ森章太郎」2018年9月8日(土)23:00~0:40 Eテレ
http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/2018special2/index.html
放送 NHK Eテレ。2018年9月8日(土) 23:00~24:40。

【※以下ネタバレ】
 

■内容

http://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2018-09-08&ch=31&eid=24428&f=1826
[Eテレ] 2018年9月8日(土) 午後11:00~午前0:40(100分)


770作品超えという前人未到の漫画を描き上げギネスブックにも登録されている天才漫画家・石ノ森章太郎。その作品の可能性を気鋭の論客たちが徹底的に論じ合う。


770作品超えという前人未到の漫画を描き上げギネスブックにも登録されている天才漫画家・石ノ森章太郎。あらゆる既成の文法を解体し、新しい表現方法を開拓し続けたその才能に、現代のクリエイターたちも刺激を受け続けている。そこで、石ノ森章太郎をこよなく愛する論客たちが一同に会し、石ノ森作品を現代に通じるテーマから深く読み解き、石ノ森章太郎が私たちに残してくれたものを徹底的に論じ合う。


出演者ほか
【司会】伊集院光島津有理子,【出演】夏目房之介名越康文ヤマザキマリ宇野常寛竹宮恵子島本和彦,【語り】加藤有生子,【声】田中亮一

 
 いつものような「特定の文学作品」ではなく、漫画、しかも「石ノ森章太郎の漫画作品」全般を100分ぶっ続けで論じるスペシャル回。

第1章 少女漫画と石ノ森

おかしなあの子 さるとびエッちゃん 第1巻(サンコミックス)

 お題は「さるとびエッちゃん」。

 不思議な力を持つ少女エッちゃんが活躍するギャグマンガ

 石ノ森は中学生時代から早熟の天才として有名で、高校二年生(1955年)に「漫画少年」誌で漫画家デビュー。しかし1956年に上京したものの、漫画少年は休刊してしまったため、少女漫画雑誌に描くことになった。

 石ノ森は、少女漫画の従来の枠にとらわれず、SF、伝奇、ミステリー、サスペンス、などの多様なテーマで描き、竹宮恵子ら「24年組」に大きな影響を与えた。そして石ノ森が1964年から連載したのが「おかしなおかしなおかしなあの子」のちの「さるとびエッちゃん」。

 また、その他に竹宮恵子が影響を受けた本は、石ノ森が27歳の時に描いた「マンガ家入門」(1965年)。漫画を描くノウハウや、この漫画のコマはどういう意図で描いたのか、といったことをみっちり解説してあり、当時の大ベストセラーとなった。


第2章 未完の石ノ森

サイボーグ009 (1) (秋田文庫)

 お題は「サイボーグ009」「幻魔大戦

 サイボーグ009は、兵器を売りさばく悪の組織「ブラックゴースト」に改造された9人の男女がブラックゴーストと戦う物語。

 サイボーグ009は1964年にスタートして、1992年の最後のエピソードまで、少年誌・青年誌・少女漫画誌・児童漫画誌など様々な雑誌に掲載された。

 石ノ森は「誰もが読む大人気漫画家」というより「マニア人気が高い漫画家」だった。だから伝説化した。

 009のエピソード「地下帝国ヨミ編」で、ブラックゴーストの首領の正体が「三個の脳」だと判明する。そして脳たちは「ブラックゴースト=人間の欲望、悪の心」だと告げる。009は首領たちを倒すものの、「人間の悪の心」が相手では全滅させようがない。こうして009は話の続けようが無くなってしまった。

 それでも続編を描かなくてはいけないので、石ノ森は次に人間を超えた存在「天使」を敵に据える。しかし連載は観念的な展開になり、さらに話を続けられなくなって未完のまま打ち切り、という事を繰り返した。


 幻魔大戦は石ノ森がSF作家・平井和正と共同で制作した漫画。宇宙規模の破壊の権化・幻魔と、地球の超能力者たちの戦いを描いた作品。しかし唐突に(主人公たちの敗北を暗示したシーンで)終わってしまう。

 レオナルド・ダ・ビンチは作品を完成させないことで有名だった。石ノ森も色々なことに興味が有りすぎて、未完作品が多々ある。


第3章 マンガ表現の探究者

佐武と市捕物控〈1〉 (1980年) (サンコミックス)

 お題は「佐武と市捕物控」。江戸を舞台に、下っ引き・佐武と盲目のあんま師・松の市が事件を解決していく物語。当初は少年サンデー連載だったが、掲載誌を青年誌ビッグコミックに移した後は、雰囲気が一変している。

 作品は、浮世絵の表現を取り入れたり、コマ割りでフェードアウトを表現したり、と、実験的な要素が満載だった。同時期に石ノ森は「ジュン」という作品でも、それまでにないコマ割りを行っており、読者のためというより同時期の同業者に向けて描かれていた感もある。


第4章 ヒーローの父

仮面ライダー the first本郷猛(秋田文庫5-52) (秋田文庫 5-52)

 お題は「仮面ライダー」。

 石ノ森は漫画家であるだけでなく、昭和のヒーローの原作者・コンセプターでもあった。

 1970年。売れっ子漫画家の石ノ森に、東映から子供向けヒーロー番組の企画に参加してほしいとの打診が有った。求められていたのはマスクをつけたヒーローキャラ。石ノ森は主人公キャラを作り上げ、テレビ局の評価も良かったものの、石ノ森が自ら「インパクトが足りない、もっとグロテスクにしたい」とダメ出しし、新たに骸骨マスクのキャラを提案する。しかしこれはテレビ局が「さすがに骸骨は……」と却下。そして生まれたのがバッタをモチーフにした仮面ライダーだった。

 テレビ放送と同時に石ノ森も漫画版を執筆。しかし漫画版はテレビとは設定が違い、主人公・本郷猛は改造されたせいで顔に浮かぶようになった傷を隠すためマスクを被る、という事になっていた。

 テレビ版は主役の藤岡弘が撮影中に大怪我をして入院してしまったため、番組は急遽「本郷ライダーはショッカーを追って外国に行き、二号ライダー・一文字隼人が登場する」という展開とした。ところが漫画版も主役交代劇が有るものの、展開はまるで違う。

 漫画版ではショッカーが打倒本郷猛のため、12人の仮面ライダーを送り込んできて、本郷猛は負けてしまう。しかしショッカー側ライダーの一人だった一文字隼人が洗脳がとけて正気に戻り、他の11人を倒す。重傷を負った本郷は脳だけの存在となり、一文字隼人が新しいライダーとなってショッカーと戦う、という衝撃展開となった。

 仮面ライダーは平成になっても作られているが、初期作品には意外と石ノ森テイストが有る。例えば「竜騎」はライダー同士の戦いの物語で、唯一絶対の「正義」はなくそれぞれのライダーに自分なりの正義が有る。「アギト」は神と人間の戦いの物語、「555」に至っては主人公が「怪人」である。

 仮面ライダーはその後多数の続編が作られた上に、その他に「人造人間キカイダー」「ロボット刑事」「イナズマン」「怪傑ズバット」「秘密戦隊ゴレンジャー」「ジャッカー電撃隊」「がんばれロボコン」「ペットントン」など多数の作品の原作も手掛けている。


■感想

 四人のゲストが、それぞれ自分の好きな石ノ森マンガについてハイテンションで喋りまくる、オタクトーク番組の様相を呈した番組でしたが、これはこれでなかなか面白かったであります。

 石ノ森ファンで有名な島本和彦がインタビューで出てくるのですが、もう好きなことを喋れるので嬉しくて仕方ない風で、プロ漫画家ではなくただの漫画オタクになってめちゃくちゃ張り切って喋り倒していたのが、なんとも印象的でありましたな(笑)
 
幻魔大戦 (秋田文庫 5-39)