感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第36話「魔術師の幻想」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

第36話 魔術師の幻想 NOW YOU SEE HIM (第5シーズン(1975~1976)・第5話)

 

あらすじ

[BSプレミアム] 2020年12月2日(水) 午後9:00~午後10:30(90分)


刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!魔術師がステージでマジックを披露している最中に魔術クラブのオーナーを殺害。コロンボはそのトリックを暴けるか?


魔術師サンティーニは、ナチ親衛隊員だった過去を魔術クラブのオーナーに知られ、金を支払わなければ証拠の手紙を移民局に送るとゆすられる。サンティーニは、鍵をかけて水槽の中に沈められた箱から脱出するというマジックの最中に抜け出し、オーナーを殺害。箱が開けられるころステージへ戻り、マジックは見事成功したのだが・・・。

 
 高名な奇術師サンティーニは、本名をステファン・ミューラーといい、若い頃ナチ親衛隊の隊員だったという知られたくない過去を持っていた。しかし「魔術クラブ」のオーナー・ジェロームは、その証拠となる手紙を握っており、それをネタにサンティーニの収入の5割を強請り取っていた。サンティーニはジェローム殺害を決意し、クラブで脱出マジック「水槽の幻想」を行っている最中、こっそりと抜け出してジェロームを射殺、証拠の手紙も焼き捨ててしまう。

 事件の捜査はコロンボとウィルソン刑事が担当することになった。コロンボはジェロームのオフィスの最新式の鍵がこじ開けられていることを突き止め、それが可能なのは鍵開けの名人サンティーニだけと考え、彼を追い始める。

 コロンボはサンティーニから、「水槽の幻想」の最中は、サンティーニは箱を抜け出してステージ下にある部屋で待機していたと説明される。実際、犯行時間帯には、クラブの人間が部屋の中にいるサンティーニの声を聴いていた。しかしコロンボは無線マイクを使えば声を聴かせることは可能で、また物理的にはサンティーニが部屋を抜け出して犯行は可能だったことを確認する。

 そして、コロンボとウィルソンは被害者が殺される直前オフィスで何をしていたのか調べているうち、決定的な証拠を入手する。

 サンティーニはコロンボに魔術クラブに呼び出され、コロンボが自分の過去を知っていることを教えられる。被害者ジェロームは、死の直前にタイプライターで移民局・帰化局宛に、サンティーニがナチ戦犯であることを告発する書類をタイプしていた。サンティーニは証拠の手紙とともにその書類を処分したが、タイプライターの印字リボンにはジェロームがタイプした内容がそのまま残されていたのだった。

 サンティーニは負けを認め、完全犯罪の自信が有ったとつぶやくが、コロンボはそれこそが幻想にすぎないと言い放つのだった。


感想

 評価は◎。

 人気のあるエピソードで過去に何回も放送されているが、何回見ても飽きない傑作回。魔術クラブという半ば非現実的な空間で、「魔術師」を相手に捜査を行うという、他の作品とは微妙にテイストが異なる作品だが、そこがまたたまらない魅力があるエピソードである。


 コロンボはいつもは単独で捜査を行うが、今回は第11話(第2シーズン(1972~1973)・2話)「悪の温室」に登場したフレデリック・ウィルソン刑事と実に5年ぶりにコンビを組んで捜査を行う。本エピソードのシナリオライターは「悪の温室」を書いた人物とは別人で、一体何故今回ウィルソンが再登場したのか全く理由が解らないが、ウィルソンのキャラクターは面白く、本エピソードの味の一つとなっている。

 ウィルソンは、マニュアルというか決まった型通りに仕事を進める実直タイプで、事件が起こったクラブの観客を延々足止めしていたり、アリバイの無いクラブの歌手を疑ったり、と、ごく普通に仕事をしているのだが、型破りタイプのコロンボと比較すると、実に無駄なことをしているように見えてしまう。しかしそんなウィルソンだが、最後の最後で、被害者が死の直前タイプライターを使っていた事を推測し、事件解決の決定的な証拠である印字リボンを発見するための道筋をつける、という大手柄を立てて見せるのが印象的である。

 コロンボが忘れたコートを一々届けに来たり、コロンボが披露した手品について、サンティーニ相手に「警部は魔術師になったんです」と得意げに説明を始めるコミカルなシーンも忘れ難い。


 本エピソードでコロンボが犯人を追い詰める過程は、いつもの「犯人の些細なミスを見つけ出し、そこを手始めに心理的に追い込んでいく」展開とは違い、純粋な論理な積み重ねで行われる。まず被害者の死体の倒れ方からオフィスのドアが犯人にこじ開けられたことを推測し、そこから鍵を開けられるのはサンティーニだけだと目星をつけ、特製の手錠をこじ開けるように持って行って確信を得て、あとは厨房を通り抜けることが可能だったこと、無線マイクを使ってアリバイ工作が可能だったこと、と、推理の裏付けを取っていく。こうしてサンティーニに「方法とチャンス」が有ったことの裏付けを取り、最後に残された「動機」をタイプライターの印字リボンから見つけ出す。

 いつもの、執拗に犯人にまとわりつき、最後に罠を仕掛けて犯人にボロを出させる、という展開とはかなり異なっていたが、今回のような展開も面白く、それゆえに好きなエピソードである。


 今回は冒頭コロンボがいつもの地味なレインコートではなく、濃い青のかなり高級そうなコートを着て現れて、えっと思わせる。もっともコロンボは肩がこるとか文句をつけてすぐ脱いでしまい、あとはすぐにどこかに置き忘れてしまって、ウィルソンにいちいち持ってきてしまい、最後は「カミさんが取り換えに行っている」といっていつものコートに戻ってしまう。やはりコロンボは地味なコートこそお似合いと再認識させられた。


 本エピソードの犯人サンティーニを演じたジャック・キャシディは、過去作品の、第3話「構想の死角」、第22話「第三の終章」、でも犯人を演じており、なんと三回目の登場となったが、このサンティーニ役が一番の当たり役で、一番印象深いキャラクターとなった。


 クライマックスで、コロンボがサンティーニに証拠の書類を突き付け、それを目の前で燃やされると、すぐさま次々と代わりの紙をさっと取り出して見せる。このシーンは、コロンボが魔術師サンティーニの「完全犯罪」を打ち破っただけでなく、サンティーニの本職である魔術でも上回って見せた訳で、ちょっと派手さが気にはなるものの、痛快なシーンであった。

 本エピソードは2018年の視聴者投票で第18位にランキングされたが、個人的な好みからすればもっと上位に来ても良いと思わずにはいられない。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第18位にランキングされた。
 
 

#36 魔術師の幻想 NOW YOU SEE HIM

日本初回放送:1977年


舞台での対決をはじめ、名シーンが満載!コロンボがカミさんのプレゼントである新品のコートで登場、「悪の温室」で登場したウィルソン刑事も出演!ジャック・キャシディは3度目の犯人役に。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
サンティーニ・・・ジャック・キャシディ(田口計
ブランドフォード・・・ロバート・ロジア(草薙幸二郎)
ウィルソン・・・ボブ・ディシー(野本礼三)
ジェローム・・・ネヘミア・パーソフ(立川勇三)


演出
ハーベイ・ハート


脚本
マイケル・スローン

 

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