感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第21話「意識の下の映像」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

第21話 意識の下の映像 DOUBLE EXPOSURE (第3シーズン(1973~1974)・第4話)

 

あらすじ

自らが主宰する研究所で、意識調査の研究を行っているケプル博士。野心家の彼は研究所拡大のため、クライアントのノリスをキャンペーンガールに誘惑させ、その現場をとった写真をネタにゆすっていた。だが、地方検事局に真実を調べさせるというノリスを恐れたケプルは、人間の潜在意識に訴えかけるサブリミナル効果を利用してノリスを殺害。凶器として使用した銃にも一工夫こらし、鑑識の目をくぐり抜ける。

 
 バート・ケプル博士は、人間の意識と行動の専門家で、自分の研究を企業の宣伝に応用し大成功を収めていた。しかしケプルは、その一方でクライアントにハニートラップを仕掛け、相手の弱みを握ってゆすりを行っていた。ところが、脅迫された一人のノリスは、脅しに屈するどころか逆にケプルを当局に訴えると言い出したため、ケプルはノリス殺害を決意する。

 ケプルは、ノリスを自分の研究所に呼び出し、塩気のあるものを食させた後、さらに映写フィルムに潜在意識に訴える飲み物のカットを入れておいてノリスに見せる。そしてノリスが喉が渇いて水を飲みに出てきたところを射殺する。しかも、犯行時間には、ノリス夫人を偽電話で人気のない場所に呼び出し、アリバイを作れないようにしてあった。

 コロンボが事件の担当になるが、ケプルはすぐに夫人が怪しいと主張する。しかしコロンボは、何故犯人はノリスが水を飲みに出てくることを知っていたのかがひっかかる。またケプルが死体発見直後にも拘わらず、冷静に映写フィルムの保管を指示していたことにも注目していた。

 やがてケプルの部下の映写技師ホワイトが、ケプルに対し、殺人犯だと知っていると言って、口止め料として5万ドルを要求してくる。ホワイトはケプルがフィルムに潜在意識のカットを入れていたのに気が付いていたのだった。しかしケプルはノリスの家に忍び込んで銃を盗むと、その銃でホワイトを射殺し、ホワイト殺しもノリス夫人の犯行のように偽装する。

 しかしコロンボは、ノリス夫人ではなくケプルこそが犯人だと睨んでいた。そして、ノリスの研究に、映写フィルムに潜在意識のカットを入れて人間を誘導する手法が有ると知り、ケプルの犯行の方法を正確に推測する。さらにノリスがケプルとの契約を切ろうとしていたことも分かり、動機も把握する。しかしケプルの犯行を立証する具体的証拠は全く無かった。

 ケプルはクライアントと一緒に映写フイルムを見ていて、いきなり落ち着かなくなり、自分のオフィスに隠してあった銃の部品を確認してようやく安堵するが、次の瞬間現れたコロンボに部品を押さえられる。その部品こそ、45口径の拳銃で22口径の弾丸を発射できるようにする「口径変換装置」で、ノリス殺しの決定的な証拠だった。コロンボは映写フィルムの中に、自分がケプルのオフィスを調べているカットを仕込んでおき、それを見たケプルは潜在意識を刺激されて、思わず証拠を確認してしまったのだった。


感想

 評価は○(並)

 いわゆる「サブリミナル効果」を事件の重要な要素とした作品で、初見時には先進的なトリックが極めて印象深かったエピソード。しかし、トリック以外の部分はもう一つで、全体的なクオリティは並というレベル。


 犯人のケプルが、被害者ノリスにあらかじめ塩辛いキャビアを食べさせておき、そのあとアイスティーのカットを仕込んでいる映写フィルムを見せ、被害者の喉の渇きを加速させて、上手く水飲み場までおびき出す、という仕掛けの部分だけは今見ても凄く面白いのだが、その他の部分が粗いという印象が強い。

 そもそも、コロンボは「何故犯人は被害者が水を飲みに出てくるタイミングを知っていたのか?」と不思議がるが、別に「犯人が被害者を殺そうと待ち伏せしていたら、たまたま出くわしたので射殺した」と解釈すれば済んでしまう話である。ここは、「犯人のケプルがトリックで水飲み場までおびき出したので、その部分をコロンボに不思議がってもらわないと話が進まない」という逆立ちした作りのように思える。

 またケプルは、映写技師ホワイトの部屋に置いてある、廊下が監視できるカメラを止めていたが、犯行のタイミングで、水飲み場の近くに人が通りかかったら何の意味も無いのではないか。

 その他に、この話では、ケプルはターニャ・ベイカーなるキャンペーンガールに被害者ノリスを誘惑させたという設定で話が進む。ところがこのターニャは、予算の関係なのか劇中に一度も姿を現さず、ケプル・ノリス・コロンボたちの口から存在が語られるのみで、そのため話がやや分かり辛い。特に冒頭、ケプルがノリスを殺害するに至る展開で、ターニャが登場していれば簡単になったろうに、二人の間で画面に出てこないターニャの話を延々としているだけなので、妙に理解し辛かった。

 またケプルはノリス夫人に疑いをかけようと、様々な工作を行うものの、劇中ではコロンボはノリス夫人を殆ど疑っておらず、夫人の出番はほとんど無いため、拍子抜け感が否めない。

 とどめで、最後にコロンボはケプルが使用した「口径変換装置」という部品を押さえることで、ケプルの犯行を裏付ける決定的な証拠を得る。しかしここでは証拠をつかんだという高揚感より、「口径変換装置とは何なのか?」という疑問の方が強く、どうにも事件解決をストレートに堪能できなかった。そもそもケプルはこの装置を後生大事に隠しておかず、とっとと捨てておけばコロンボは手も足も出なかったのではないのだろうか。コロンボがケプルの行動を四六時中見張っていたとも思えないのだから。

 犯人役のロバート・カルプは、過去に第4話「指輪の爪あと」、第12話「アリバイのダイヤル」でも犯人役を演じていたが、この「意識の下の映像」も含めて三作品とも評価はもう一つで、コロンボにおいてはシナリオに恵まれなかった俳優というイメージである。


 とは言え、「いかにもコロンボらしい」というシーンもいくつかは有り、それらは結構印象深い。例えば、コロンボはホワイトが死んだと連絡が入ると、巧みにケプルに現場に同行してくれるように頼む。そしてケプルの運転する車で出かけようとするが、駐車場を出ようとするとケプルがいきなり「どっちだ? 現場を聞いてない。知っていたら大変だ」と言う。それを聞いてコロンボはちょっと残念そうに「そう、その通り」と答える。もちろんコロンボはケプルがうっかり、知るはずの無い殺人現場まで運転してくれることを期待していたわけで、この辺りの実に自然に罠をかけるあたりがコロンボの真骨頂という感じである。

 また、終盤にコロンボは、ケプルとターニャの関係を確かめるため、スペインにいるターニャに料金先方持ちの国際電話をケプルの名前でかけたと説明する。そしてターニャがそれを受けたことで、ケプルに、二人が見知らぬ中では無かったどころか、男女の関係だったと認めさせる。この辺りも実に賢いやり方である。


 全体的に見れば、質はもう一つであるものの、それなりにコロンボらしい点も見受けられる、そこそこの作品だった、という評価である。


 ちなみにサブタイトルの原題「DOUBLE EXPOSURE」とは二重露光の意味。本来は一つの写真の中に二つの映像を重ね合わせるという意味だが、この作品では「一つの映写フイルムの中に異なる二つの内容を入れている」というサブリミナル効果の事を現しているのであろう。

備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第17位にランキングされた。
 
 

#21 意識の下の映像 DOUBLE EXPOSURE


日本初回放送:1974年


サブリミナル効果」(本編中ではこの言葉を使っていない)を使った映像のトリックが斬新なストーリー。ロバート・カルプは「指輪の爪あと」「アリバイのダイヤル」に続いて3度目の犯人役に!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
バート・ケプル・・・ロバート・カルプ(梅野泰靖
ノリス・・・ロバート・ミドルトン(小瀬格)
ホワイト・・・チャック・マッキャン(三宅康夫)
ノリス夫人・・・ルイーズ・ラサム(幸田弘子


演出
リチャード・クワイン


脚本
ティーブン・J・キャネル

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック