放送開始50周年 刑事コロンボ|NHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム。
【※以下ネタバレ】
第41話 死者のメッセージ TRY AND CATCH ME (第7シーズン(1977~1978)・第1話)
あらすじ
70歳を超えてなお、現役で活躍する人気ミステリー作家、アビゲイル・ミッチェル。ヨットの事故で愛する姪(めい)のフィリスを失った彼女は、それが事故ではなく、フィリスの夫エドモンドによる殺人だと気が付き、復しゅうするチャンスを狙っていた。エドモンドを遺産相続人にしたいと自宅に呼んだアビゲイルは、彼を金庫室に閉じ込めてそのままニューヨークへと旅立った・・・。エドモンドが死の直前に残したメッセージとは?
推理小説界の大御所アビゲイル・ミッチェルには、実子同然だったフィリスという姪がいたが、フィリスは四か月前ヨットの事故で死んでいた。しかしアビゲイルは、フィリスは事故死したのではなく、フィリスの夫エドモンドに殺害されたと確信しており、エドモンドへの復讐を企てる。
アビゲイルは、屋敷の中で上手く人払いをした後、エドモンドを人目につかないように招き入れてから、自室の金庫室に閉じ込める。そして、アビゲイルは、エドモンドが部屋に置いていた車のキーを見つけると灰皿の砂に隠してから、そのままニューヨークへ旅行に行ってしまう。
翌日、金庫からエドモンドの死体が発見され、コロンボが事件の担当となった。屋敷に戻って来たアビゲイルは、エドモンドはアビゲイルが旅行に出かけた後に盗みのために屋敷に忍び込んだ挙句、誤って金庫室の扉を閉めて閉じ込められた、という事故死説を唱える。しかしコロンボは、エドモンドの車のキーが見つからない事、金庫室の床に紙切れが散乱していたこと、エドモンドの死体には何かをひっかいたような痕跡があった事、等に頭を悩ませていた。
アビゲイルは灰皿から車のキーを回収しようとするが、既に秘書のベロニカがキーを手に入れていた。ベロニカはアビゲイルにキーを渡すものの、アビゲイルが犯人であることに気が付き、遠回しに強請ってくる。
アビゲイルはコロンボに裏庭にキーが落ちていたのを見つけたと言って渡し、これで事故死は確定だと印象付けようとする。しかしコロンボは、先に警察が裏庭を調べた時にはキーが無かった事を突き止め、アビゲイルの嘘を見抜く。そしてアビゲイルと共に、エドモンドが死の間際に金庫室で何をしていたのかを推理し始める。
金庫室に残された四個の金属の箱には、エドモンドが付けた矢印の傷が残されており、コロンボはそれが天井を指していると推測する。そして天井の電球とソケットの間には紙切れが挟まっていた。それはアビゲイルの小説「その夜、私は殺された」(THE NIGHT I WAS MURDERED)の表紙ページで、文字の一部「THE NIGHT」がマッチの炭でかき消された結果、「私は殺された アビゲイル・ミッチェルによって」(I WAS MURDERED by Abigail Mitchell)という文面になっていた。
コロンボはこれがエドモンドの死の間際の告発であり、十分な証拠になると伝える。アビゲイルはコロンボがフィリスの事件を捜査してくれたら、こんなことはせずに済んだのにと言う。
感想
評価は○。
極めてシンプルなストーリーで全体的に地味ではあるが、クライマックスでの「死者のメッセージ」の謎が解き明かされるシーンが極めて強烈な印象を残し、それゆえに好きなエピソードの一つである。
コロンボ作品の大多数において、殺人者の動機は「自分の利益」であり、つまり極めて利己的なものである。しかし今回の犯人アビゲイル・ミッチェルの動機は「殺された姪の敵討ち」であり、他エピソードの犯人たちとは全く異なっている。もちろん理由は何であれ、アビゲイルが殺人者であることに変わりは無いが、状況的に同情すべきところがあり、犯人が「憎むべき敵」でない、というところがなんとも異色なエピソードと言える。
さらに、このエピソードにおいては、おなじみの「コロンボと犯人の心理的な対決」シーンは全く無い。いつもなら、コロンボが犯人に対し、口では形式的な調査だと言いながら、態度では明らかに疑っていると匂わせて犯人を苛立たせる、というのが定番であるが、この作品ではそういう場面は皆無である。コロンボは、終盤にアビゲイルが犯人と目星をつけていても、なお敵対的な態度はとらず、最後まで「事件解決の協力者」といった感じで接する、というのも他のエピソードとはかなり趣が異なっている。
ストーリー中盤に、コロンボが大勢の前で突発的に講演をする羽目になった際、「殺人者の中には、人格、知性、ユーモアなど、で、好きになった相手もいた」云々と言うくだりがある。この時点でコロンボはアビゲイルの事が頭に有ったのかもしれない。全編において、コロンボと犯人とのギスギスした心理戦は無く、コロンボもアビゲイルも互いに相手に敬意をもって接する関係に終始する、という雰囲気が実に好みだった。
また、この作品で印象深いのが、要所要所で流れるクラシック調のBGMで、弦楽器を駆使したメロディーが実に素晴らしい。スローテンポで流れるときにはもの悲しい雰囲気を醸し出し、殺人のシーンではテンポが速くなり緊張感を高めている、と各シーンに実に効果的に使われており、どの場面でも聞きほれてしまった。
そしてこのエピソード最大の特徴が、エドモンドが金庫室で死の直前何をしていたか、が、コロンボにも犯人にも、そして当然視聴者にも解らない、という点である。視聴者はコロンボ・アビゲイルと共に、箱に刻まれていた線はどういう意味が有るのか、床に散らばっていた紙の切れ端は何なのか、を解き明かす過程を同時に体験していく。それだけに、コロンボが天井のソケットから紙を見つけ出し、それがアビゲイルを告発するエドモンドの遺書だった、と解るシーンは衝撃的である。このエピソードは過去に何回も視聴していて、既に答えは知っているのに、それでも何度でも息詰まるような緊張を覚える素晴らしいクライマックスと言える。
本作は、いつものコロンボ作品の様な、犯人の僅かなミスを糸口に犯人を心理的に追い込んでいくような展開は見られないが、これはこれで気に入っているエピソードである。
サブタイトルの原題「TRY AND CATCH ME」とは英語で「つかまえてごらん」といった意味合いであり、どう考えても日本版のサブタイトル「死者のメッセージ」の方が遥かに内容の本質をついていて、かつ印象に残る。日本語版スタッフの仕事ぶりには感心せずにはいられない。
備考
本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第16位にランキングされた。
#41 死者のメッセージ TRY AND CATCH ME
日本初回放送:1978年
『コロンボ』シリーズ最高齢の犯人が登場!?アビゲイル役のルース・ゴードンは本作制作時には80歳を迎えていた。全編に流れる音楽を担当したパトリック・ウィリアムズはエミー賞やグラミー賞を多数受賞している。
出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク(小池朝雄)
アビゲイル・ミッチェル・・・ルース・ゴードン(南美江)
ベロニカ・・・マリエット・ハートレイ(桧よしえ)
マーチン・・・G. D. スプラドリン(内藤武敏)
エドモンド・・・チャールズ・フランク(松橋登)
演出
ジェームズ・フローリー
脚本
ジーン・トンプソン
ポール・タッカホー