感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第27話「逆転の構図」

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放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第27話 逆転の構図 NEGATIVE REACTION (第4シーズン(1974~1975)・第2話)

 

あらすじ

口やかましい妻との生活に心底嫌気が差した写真家のガレスコは、妻を殺害した後、誘拐事件として偽装。その手口とは、以前から手なずけていた元囚人の男を廃車置き場に呼び出し、いすに縛り付けた妻を写した写真と脅迫状に指紋をつけさせた後、男を射殺。自らの足も撃ち抜き、身代金の受け渡しの際に犯人に撃たれたように装うというものだった。それは疑う余地なしの事件に見えたが、コロンボは逆転の発想で真犯人を見極め、見事なトリックであぶり出す。

 
 写真家ポール・ガレスコは、仕事ではピューリッツァー賞を二度受賞するなど輝かしい業績を上げてきたが、結婚生活は最悪の状況で、妻のフランシスは夫のやることなすこと全てに一々ケチをつけガレスコを精神的に貶め続けていた。そんな状況に十年以上耐えてきたガレスコだったが、ついに我慢の限界に達し、妻の殺害計画を実行に移す。

 ガレスコは出所したばかりの前科者アルビン・ダシュラーを密かに雇うと、自分の名前を出させないようにして郊外の農家を買わせ、妻をこっそりその家に連れていく。そして妻を椅子に縛り付けてから、時計を実際の時間(午前10時)より進めた午後2時にセットし、時計と妻を一緒にインスタント写真で撮影してから、最後に妻を射殺した。

 そのあとガレスコは何食わぬ顔をして自宅に戻り、翌日自分が作った脅迫状と写真を持ち出し、妻が誘拐されたと騒ぎ出す。そして犯人に身代金を渡すと言って外出すると、呼び出しておいたダシュラーを射殺し、最後に自分の足を銃で撃ってから警察に連絡する。

 ガレスコは警察には、犯人にいきなり撃たれそうになったので護身用の銃で反撃して撃ち殺したと説明する。担当のホフマン刑事は納得するものの、コロンボは妻の行方も聞かずにいきなり犯人を撃ち殺したという事や、ガレスコの怪我は至近距離から撃たれたものだという事実に違和感を抱く。

 やがて農家でフランシスの死体が発見され、ガレスコは嘆き悲しんで見せる。この家はダシュラーが買ったものだったので、ホフマン刑事はいよいよダシュラーが誘拐犯だと確信するが、コロンボは部屋に何故か真新しい時計が置かれていることや、ダシュラーが誰かの代理で家を買ったらしい、という事実に注目する。

 コロンボは捜査を続け、ダシュラーが何者かに雇われて動いていたことを確信する。またガレスコが犯人からかかったという電話の内容をロクにメモしていなかったこと、小屋に撮り損ねの写真が捨ててあったこと、ガレスコが過去刑務所で写真を撮っておりダシュラーと面識が有った可能性が有る事、等を次々と突き止める。しかしガレスコはコロンボの質問について全て明快に回答し、さらに自分が疑いをかけられていることに激怒してみせる。

 やがてガレスコはコロンボに警察に呼び出され、犯人だと指摘される。コロンボが誘拐犯から届けられた写真を引き伸ばしてみると時計が写っており、それは午前10時を指しているので、それはガレスコが妻と一緒にいたと証言した時間だという。また同じ時間にはダシュラーは運転免許の試験を受けていたので、完全なアリバイがあり、よってダシュラーは犯人ではありえないとも説明する。

 その話を聞いたガレスコは勝ち誇って、この写真は現像する際に裏返しに焼いてしまったのであり、本当の時間は午後2時で、オリジナルの写真と比較すればすぐわかると自信たっぷりに言い切る。しかしコロンボはオリジナルの写真は誤って消失してしまったといい、作業には自信が有るのでガレスコを逮捕するという。

 慌てたガレスコは、部屋に置いてあった、オリジナルの写真のネガが入っているカメラを取り上げコロンボに差し出す。しかしそのカメラにネガが入っていることを知っているのは誘拐犯しかいない。何故ガレスコがカメラの事を知っているのか、それをガレスコは回答できなかった。そしてコロンボの罠に落ちた事を悟ったものの、そのまま逮捕・連行される。

感想

 評価は◎。

 1時間35分枠の作品。痛快なオチも含めてコロンボシリーズの中でも屈指の名作と言えるエピソード。


 犯人ガレスコの計画は手が込んでいるものの、細部まで良く練られており、見ていて隙が無い。農家はダシュラーに買わせ、ダシュラーにモーテルから自分宛てに電話をかけさせ、脅迫状にもさりげなくダシュラーの指紋を付けさせる、など、することに一々そつがなく、犯罪計画としては完璧なレベルで有り、ミスと言えるものは殆ど無かった。

 唯一、廃車置き場でダシュラーを射殺した際、近くに酔っ払いのトマス・ドーランが居たことが計算外だったものの、ドーランの証言も特に致命傷になるようなレベルではなく、ガレスコからすると完璧にやり遂げたと言って良い。

 またガレスコはとっさの言い逃れも見事な物で、ダシュラーに至近距離から撃たれた事や、互いの銃声がかなり時間が空いていたことなども、すっと巧みな言い訳を考え出して、上手くすり抜けてしまう。コロンボはいつものように、事件について些細な矛盾点や気になる点を次々と見つけ出し、質問を浴びせていくものの、ガレスコは全てにそれなりに筋の通った返事を繰り出し、コロンボの追及をかわしていく。殺人の実行の緻密さといい、瞬発的な言い逃れのセンスといい、コロンボが対峙した犯罪者の中でも最強レベルの犯人ではないだろうか。

 しかしガレスコがいかに隙が無くても、犯人とされたダシュラーの方は、誘拐事件当日になって運転免許を取得しているなど、誘拐犯にしてはあまりにも行動が変、ということで、コロンボはダシュラーの無実の確信、つまりガレスコへの疑いをどんどん強めていく。この辺りのストーリーの進め方はまさしく絶品である。

 クライマックスでは、コロンボはわざと裏焼きさせた写真を見せて、写真のプロのガレスコがコロンボを見下さすように仕向け、何の疑問も抱かせないままカメラに手を伸ばさせる。ガレスコは「逆に焼いてしまうのは素人が良くやる事」と鼻で笑い飛ばすが、そのために最後の瞬間までコロンボの策略に気が付かない。この大逆転が実に痛快である。ガレスコがカメラを手にした途端、コロンボが表情を変え、居合わせたホフマン刑事たちに「今の行動を見たね!?」と確認していくシーンは見ていて本当にしびれた。

 さて、このコロンボが仕掛けた写真裏焼きの罠だが、実は劇中できちんと伏線が張られている。コロンボがダシュラーのカメラを売った店に行き、店員に聞き込みをした際、ついでに写真の裏焼きについて説明を受ける場面があるのである。その際コロンボは話を聞いて感心しつつ、「私にもできそうだねぇ」とつぶやいている。まさにコロンボはその言葉通り、最後にこの裏焼きを実行して見せたわけである。この伏線の貼り方は、気が付いた時には本当に感心した。


 また本エピソードは、ユーモラスな要素が多いのも魅力である。例えば、まずコロンボが酔っ払いのトマス・ドーランの証言を再確認するため教会の救済所に行き話を聞くのだが、素面のドーランの語り口が見かけと違って妙にインテりっぽいのがコミカルだった。

 また救済所のシスターが、コロンボの古いコート姿を見て浮浪者だと思い込み、やたら優しい言葉をかけた後、コートを新品に取り換えさせようとする一幕も妙におかしかった。しかもコロンボが現役の警察の人間だと解ると、今度は「浮浪者に変装して潜入捜査をしている」と一人合点して「本職は違いますわね」とか言うオチも愉快だった。

 終盤にはコロンボが運転免許試験場の試験官ウイークリーを自分の車に乗せていこうとするものの、おんぼろ車のためドアはなかなか開かないうえに、いざ出発するとウイークリーがコロンボの運転を徹底的に注意を入れまくるという展開もコントのようで楽しめた。しかもこの一幕のオチでは、コロンボがウイークリーに「警察署までご自分で運転していってください」というのも大うけしてしまった。


 本エピソードは、実に知的で手ごわい犯人、良く出来た犯行計画、コロンボが様々な手掛かりを見つけていく描写、最後の大逆転、ほどよいユーモア、など、文句をつける点が全く無く、コロンボシリーズ作品の中でも最高レベルの傑作で見ていて大満足だった。


 犯人ポール・ガレスコを演じたディック・バン・ダイクは、映画「メリー・ポピンズ」(1964)と「チキ・チキ・バン・バン」(1968)で有名。


 サブタイトルの原題「NEGATIVE REACTION」は、普通に訳すると「否定的な反応」となり、作品とどう関係が有るのかさっぱりわからない。「NEGATIVE」には「写真のネガ」という意味もあるらしいので、写真に関する言い回しだと推測できるが、どうにも良く解らなかった。日本語タイトル「逆転の構図」は、最後の最後まで見ないと意味が解らないが、響きが格好良く印象にも残る名タイトルだと言えよう。

備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第10位にランキングされた。
 
 

#27 逆転の構図 NEGATIVE REACTION
日本初回放送:1975年


緻密な構成と華麗なトリックが見もの。ガレスコを演じた俳優のディック・バン・ダイクは、2018年アメリカ公開の映画にも出演する。90歳を過ぎてなお現役!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ポール・ガレスコ・・・ディック・バン・ダイク(新田昌玄)
フランセス・・・アントワネット・バウアー(阿部寿美子)
シスター・・・ジョイス・バン・パタン(加藤道子
レイ・・・デイビッド・シェイナー(石井敏郎
ホフマン・・・マイケル・ストロング(緑川稔)


演出
アルフ・ケリン


脚本
ピーター・S・フィッシャー

 

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