感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第3話「構想の死角」

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放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第3話 構想の死角 MURDER BY THE BOOK (第1シーズン(1971~1972)・第1話)

 

あらすじ

人気の推理作家コンビ、ジムとケン。だが、実際に執筆していたのはジムで、ケンは名ばかりの作家だった。もっとシリアスな作品を書きたいというジムはコンビ解消を宣言する。すると金に困っていたケンは生命保険金目当てにジム殺害を決意。自らが考えたトリックで計画を実行する。

 
 推理作家ケン・フランクリンは、相棒ジム・フェリスとの共著「名探偵メルビル夫人シリーズ」が大ヒットし、富と名声を手に入れていた。しかし、ジムはもっとシリアスな完全新作を書きたいと考え、ケンにコンビ解消を提案していた。

 ある日、ケンはジムのオフィスを訪ね、強引にジムをサンディエゴにある自分の別荘に連れていく。そしてジムに頼んで自宅にいる妻のジョアンナに電話させ、上手く言い含めていた通りに、まだオフィスで仕事をしていると伝えさせる。その最中に、ケンはジムを射殺し、銃声がジョアンナにも聞こえるようにする。

 ジョアンナは慌てて警察に電話しジムのオフィスを調べてもらうが、死体が見つからないため、警察はこれはジムの悪ふざけではないかと考え、真剣に取り合おうとしない。コロンボジョアンナを落ち着かせるため雑談をするが、その際にジムとケンのコンビの内、小説を書いているのはジムだけ、という秘密を打ち明けられる。実はケンは、出版社との交渉や売込みなどのマネージャー的な仕事をしているだけで、小説の創作には全く関わっていないとの事だった。

 一方ケンは何食わぬ顔でロスアンゼルスに戻り、コロンボに対し、ジムが執筆予定の新作は西海岸の犯罪組織をテーマにしたものであり、それを不快に思った何者かが殺し屋を差し向けてジムを殺した、という嘘をまことしやかに並べたてる。

 続いてケンはジムの死体を自宅前に放り出した後、警察に連絡し、帰宅したらジムの死体が転がっていたと説明する。ケンは駆け付けたコロンボに、これは組織の警告であり、ジムの仕事を引き継ぐなという脅しだと言う。しかしコロンボはケンが友人の死体を見たというのに、落ち着いて手紙の封を開いていたことに注目していた。

 しばらくして、ケンの前にサンディエゴの別荘近くの食料品店の主人のリリィが現れる。リリィはジムが殺された日、ケンがジムを別荘に連れてきていたことを目撃しており、口止め料として1万5000ドルを要求する。ケンはサンディエゴのリリィを訪ね、一旦金を支払って安心させた後、リリィを殴ってから湖に放り込んで殺してしまう。

 コロンボはサンディエゴのケンの別荘を訪ね、近所で溺死事件が有った話を聞くが、ケンは特に知り合いでも無いと嘘をつく。しかしリリィの家を調べたコロンボは、部屋にケンのサイン入りの「メルビル夫人」の本が置いてあるのを発見する。

 コロンボジョアンナにケンこそジム殺しの犯人で間違いないと明かし、協力を頼む。ケンは金遣いが荒く金に困っている上、ジムと自分に互いに生命保険をかけ合っていた。ケンの動機はその保険金と考えて間違いなかった。

 コロンボは、ジムのオフィスでケンと対決し、ケンがジムとリリイ殺しの犯人だと糾弾する。ケンは笑って否定するものの、ケンが実行したジム殺しのトリックは、ジムがメルビル夫人用にメモしていたトリックの内容そのままだった。それを指摘されケンは殺人を認めるものの、最後にコロンボにそのトリックは自分が5年前にジムに提供した物だと明かすのだった。


感想

 評価は○。 放送時間:1時間16分。

 ジャック・キャシディ演じる不敵な犯人が印象的なエピソード。放送時間は1時間16分と短めだが、コロンボらしさというものが凝縮されており、シリーズ作品の中でも上位に来るレベルの作品である。


 本作の犯人ケン・フランクリンは、犯人でありながら実に印象的なキャラクターである。まず、10年来の友人を金のためだけに何のためらいも無く殺害しておきながら、何一つ気に病む素振りすらないうえ、素知らぬ顔をして被害者の妻ジョアンナを親身に慰めるなど、驚くほどの厚顔無恥ぶりで、ここまで行くともはやあっぱれと言いたくなるほどの図太さである。

 また、その他に印象的なのは、「自分は一流推理作家」という虚構を、自分で信じ込んでいるようなその言動である。現実は、メルビル夫人シリーズは相棒のジムが全て書いており、ケンは営業活動と、ジムの「影武者」としての対外的な広報を行っているにすぎない。しかしケンはインタビューでは堂々と創作者としてふるまい、またコロンボに対しても何かというと「名探偵メルビル夫人なら云々」と文句をつける。まるで自分がメルビル夫人物を創作したかのような態度である。

 それだけならまだ、事情を知らない他人に対して「売れっ子推理作家」としての役割を演じ切っているだけとも思えるが、物語の冒頭では、秘密を共有している相棒のジムに対してすら「メルビル夫人シリーズは二人で生み出した物だ」云々と自慢げに語っている。ジムもそれを聞いて良く怒らなかったものだが、この場面を見ると、もはやケンは自分がジムと共に共作しているという対外的な嘘を、自分でも信じ込んでしまっているようにすら見える。

 マスコミで売れっ子作家としてちやほやされた上、メルビル夫人シリーズの売り上げ(全15冊で累計500万部)で贅沢三昧の暮らしをしているうち、「作家としてふるまう→作家として扱われる→自分が作家だと思い込む」というある種のループにはまっていたのかもしれない。


 本エピソードでもコロンボの並外れた観察力が随所で発揮され、ファンとしてはニヤリとさせられる。例えばケンが犯罪組織のメンバーの名前を記した紙をコロンボに渡した際にも、すかさず「何故ポケットに入れられるような折り目が付いているのか」と疑問を提示している。またケンの自宅の前でジムの死体が発見された際も、ケンが余裕で当日届いた郵便を開封していたことを目ざとく見つけている。こういった何気ない点への細かいツッコミがコロンボの真骨頂で、こういうシーンは見ていて実に楽しかった。


 このエピソードで、ロスアンゼルスと並んでもう一つの舞台となるサンディエゴだが、調べてみると場所はロスアンゼルスから太平洋沿いに南東に200キロ離れた観光地とのことである。ケンは車で2~3時間の距離と気楽に語っていたが、日本人的な感覚からすると、この距離を車で行き来するのは結構大変な感じもしなくもなく、さすが自動車大国アメリカという感じである。

 ちなみに、劇中でコロンボはケンに対し「サンディエゴからロスアンゼルスに帰る際に、何故飛行機を使わなかったのか」と質問するが、サンディエゴ空港は市内に有るものの、ロスアンゼルス空港は街から離れているため、トータルの移動時間は車も飛行機もさほど変わらない様である。つまり少なくとも、移動時間のことについてだけはケンの言い訳は正しかった訳である。


 クライマックスではコロンボは状況証拠を積み重ねてケンを追及するものの、ケンは笑って相手にしない。しかし、コロンボが、ジム殺しのトリックがそのままジムのオフィスにメモとして残っていたことを指摘すると、意外なほどあっさりと白旗を上げてしまう。

 視聴者的に考えれば、このメモもケンの犯行を立証するものではないので、ケンはシラを切りとおせたと思え、あの決着の付け方はちょっと納得がいかなかった。そこまでは満点ともいえる内容だっただけに、このラストはちょっと残念ではある。


 ちなみに、本エピソードは、映画監督になる前の駆け出し時代のスティーブン・スピルバーグが監督したという事で有名。


 サブタイトルの原題は「MURDER BY THE BOOK」と、ひねりも何もない実に素直な物で、日本語タイトル「構想の死角」の方がはるかに格好良くはある。ただ問題は日本語タイトルの方もあまり的確に作品内容を表していないことだろうか。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第8位にランキングされた。
 
 

#3 構想の死角 MURDER BY THE BOOK
日本初回放送:1972年


映画監督デビュー前のスティーブン・スピルバーグが演出を手がけたシリーズ化第1作。脚本は『コロンボ』初期作品のライター兼ストーリー監修を手がけ、エミー賞の常連でもあるスティーブン・ボッコ。(惜しくも2018年に死去)


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ケン・・・ジャック・キャシディ(田口計
ジム・・・マーティン・ミルナー堀勝之祐
ジョアンナ・・・ローズマリーフォーサイス(野口ふみえ)


演出
スティーブン・スピルバーグ


脚本
ティーブン・ボッコ

 

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