感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第28話「祝砲の挽歌」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 

第28話 祝砲の挽歌 BY DAWN'S EARLY LIGHT (第4シーズン(1974~1975)・第3話)

 

あらすじ

陸軍幼年学校の開校記念祝典で大砲が暴発し、理事長のヘインズが爆死した。経営難に陥った学校を男女共学の短大にするというヘインズと対立していた校長のラムフォード大佐が、伝統ある学校を守ろうと大砲に細工したのだ。コロンボは、祝砲を撃つはずだったラムフォードを狙った犯行と推理。だが、現場に残されたある物から真実を見抜き、生徒たちの協力を得て意外な作戦を展開、ラムフォードを袋小路に追い詰める。

 
 ヘインズ陸軍幼年学校の校長・ラムフォード大佐は、未来の陸軍軍人を育成するという仕事に熱意をもって取り組んでいた。しかし学校の創立者の孫で現理事長であるウィリアム・ヘインズは、儲からない幼年学校を廃校にし、来年度から男女共学の短大に作り替えようとしていた。幼年学校を守りたいラムフォードは、計画を止めるためヘインズ殺害を企てる。

 ラムフォードは日曜日に開催される開校記念式典でヘインズを事故死に見せかけて殺すため、祝砲として使用される大砲の空包の火薬に細工をした後、大砲の砲身に布を詰めて蓋をする。その時にラムフォードは寮の窓を見て、生徒が密造しているリンゴ酒の瓶を吊るしてあるのを発見する。

 式典直前、ラムフォードは当日の来賓として来校したヘインズを誘導し、本来ラムフォードが行うはずだった祝砲の発射をヘインズが行う様に持っていく。そして式典で大砲を発射したヘインズは、大砲の爆発に巻き込まれて死亡した。

 駆け付けた警察は、年代物の大砲の寿命が尽きて起きた単なる事故だと判断するが、コロンボは大砲の周りに布の残骸が飛び散っているのを発見する。ラムフォードはそれが大砲掃除用の布だと認め、掃除当番の生徒スプリンガーが布を砲身内に置き忘れたために事故が起きたのではないかと匂わせる。しかしコロンボはスプリンガーが問題児では有るものの、布を忘れたりしていない、という言葉を信用する。

 コロンボは捜査のため幼年学校に泊まり込むことになった。やがてコロンボは大砲の爆発音が極めて巨大だったという話をヒントに大砲の残骸を調べさせ、使用された空包の火薬が強力な火薬「C4」に交換されていたことを突き止める。そしてヘインズの死は事故でも過失でも無く、明らかに殺人だと断定する。

 コロンボは空砲が保管されていた兵器庫の鍵を持っているのは、ラムフォードやスプリンガーなど限られた人間しかいないことを知る。またスプリンガーは事件の前夜学校を抜け出して恋人のところに行っており、そもそも大砲の掃除をしていないので布を置き忘れることは出来ず、また空包に細工もできなかったと解る。さらに、コロンボは死んだヘインズの持ち物を調べ、ヘインズが学校を共学校に作り替えるつもりだった事も把握する。

 コロンボの捜査と並行して、ラムフォードは校内でのリンゴ酒密造犯を見つけ出そうと躍起になっていた。寮に泊まり込んでいるコロンボは、一足先に密造犯の生徒たちと接触し、生徒たちからリンゴ酒密造に関する洗いざらいを聞き出す。

 翌日早朝、ラムフォードはリンゴ酒が見つかったという連絡を受け、校庭に飛び出す。しかしそこでコロンボから、リンゴ酒の瓶が寮の窓に吊るされていたのは、土曜の夜から日曜の早朝6時25分までだと教えられる。夜の間は暗すぎて瓶は見えず、夜明けの6時15分から25分までのわずかの間しか瓶を見つけるチャンスはなかった。さらに、大砲の側に立たないと、やはり瓶は見つけられなかった。ラムフォードは、日曜の朝、起床ラッパの前、大砲のすぐ側にいたことを立証され、負けを認める。

 しかしラムフォードは、自分は犯行を後悔しておらず、同じことを何度でもやるだろうと言った後、生徒に訓示して最後まで校長の仕事を全うする。


感想

 評価は◎(良作)。 

 「陸軍幼年学校」という特殊な空間を舞台にした一作。コロンボが犯人を追い詰める面白さは希薄だが、犯人のキャラクターが実に印象的で、何度でも見たくなる好作品だった。


 この作品は、コロンボが事件の矛盾点を見つけ犯人を徐々に追い込んでいく、というお馴染みの要素は極めて希薄である。大砲の爆発が異常に巨大だったことに気が付いてしまえば、あとは空包の火薬が細工されていたこと、火薬に細工できた人間は限られていること、学校が廃校の危機にあったこと、などから、容易にラムフォードの犯行であるという結論にたどり着けてしまう。コロンボにしてみれば解決までの難易度はかなり低かったと思われる。

 にも関わらず、この作品に引き付けられるのは、ひとえに犯人ラムフォード大佐のキャラクターによる。ラムフォードの犯行は私欲や怨恨によるものではなく、あくまで学校を守りたいというその一心から来ており、それは国を守るために軍隊が必要という信念に基づいており、さらに合衆国を敵から守るため軍隊が必要、という愛国心から来ている。

 もちろん動機はどうであれラムフォードは殺人者であり、また途中で生徒の一人スプリンガーに濡れ衣を着せる様な行動も見られ、もろ手を挙げて称賛できる人物でもない。しかし、コロンボとの会話の中で語られる国防についての信念や、生徒の教育への情熱、嫌われようとも立派な人間を育成したいという態度、等が伝わってきて、軽蔑すべき殺人犯というイメージではない。

 校長室でコロンボと二人で話し合った際の「国家間の争いが収まれば、私も喜んで軍服を脱ごう」という一連のやり取りは何度でも見たくなる、心に残る場面だったし、またコロンボに犯人であると見破られた際の「だが、わたしが後悔していると思ってくれるな。あれは必要だった。わたしは何度でもやるだろう」という台詞も実に格好良かった。そして、最後の最後まで、教育者としての立場を全うし、生徒に訓示するシーンも印象的だった。

 本エピソードは、ラムフォードを演じたパトリック・マクグーハンの演技にしびれさせられたし、吹き替えの佐野浅夫の声もピッタリはまっていて、日米どちらも絶妙のキャスティングだったと言えよう。


 劇中で舞台となった「ヘインズ幼年学校」だが、先日まで幼年学校とは何か理解しておらず、今までは「陸軍と民間が共同で運営する兵隊訓練組織?」くらいに考えていた。しかし、軍事関係に詳しい人に伺うことで、ようやく真相が把握できた。

 あの幼年学校とは、簡単に言えば「軍事教育もする私立高校」とのことである。つまりスプリンガーたちは兵隊ではなく「ただの高校生」だったのである。そしてあの学校は軍の運営する学校ではなく、「カリキュラムが極めてきつい全寮制の高校」だったわけである。

 これを知って、劇中の様々な事が腑に落ちた。例えば、ラムフォードはコロンボに対して「誰かが子供を大人にしてやらなくては」云々と述べていたが、これが軍隊の指揮官ではなく高校の校長の言葉だとすれば、なるほど納得である。またスプリンガーが逃亡したにもかかわらず謹慎だけで済んだのも、軍隊ではなく高校だったからだし、冒頭にヘインズが「規則をゆるくしても入学する生徒が増えない」と語っていたのも、私立高校の話だと解れば当たり前の話であった。


 序盤に、ラムフォードは「ストーンウォール・ジャクソン」の幕僚の話を持ち出してヘインズを挑発してみせる。このジャクソンという人物は何者かというと、南北戦争における南軍の優秀な軍人トーマス・ジャクソン将軍の事である。将軍はその戦いぶりが「石壁」(ストーンウォール)と評され、それが通り名となったそうである。


 サブタイトルの原題「BY DAWN'S EARLY LIGHT」は、翻訳すると「夜明けの光によって」くらいの意味となり、事件の解決のきっかけとなった早朝の出来事を暗示している。これはこれで味が有り、日本語版タイトル「祝砲の挽歌」と甲乙つけ難い名タイトルと言えよう。

備考

 放送時間:1時間38分。

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第6位にランキングされた。
 
 

#28 祝砲の挽(ばん)歌 BY DAWN'S EARLY LIGHT
日本初回放送:1976年


ラムフォードを演じたパトリック・マクグーハンは、『コロンボ』では最多の4回、犯人役で出演。また本作でエミー賞を受賞した。彼とピーター・フォークとの演技合戦に注目!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ラムフォード大佐・・・パトリック・マクグーハン(佐野浅夫
ルーミス・・・バー・デベニング(徳丸完
ブレイディ・・・マデリーン・ソントン・シャーウッド(高橋和枝
ウィリアム・ヘインズ・・・トム・シムコックス(堀勝之祐


演出
ハーベイ・ハート


脚本
ハワード・バーク

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック