【SF小説】感想:小説「造物主(ライフメーカー)の選択」(ジェイムズ・P ホーガン/1999年)

造物主の選択 (創元SF文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4488663206
造物主(ライフメーカー)の選択 (創元SF文庫) 文庫 1999/1/29
ジェイムズ・P ホーガン (著), James P. Hogan (原著), 小隅 黎 (翻訳)
文庫: 491ページ
出版社: 東京創元社 (1999/1/29)
発売日: 1999/1/29

【※以下ネタバレ】
 

人類が土星の衛星タイタンで発見した異種属は、意識を持ち自己増殖する機械人間だった。地球の中世西欧そっくりの暮しを営む彼らは、人類との接触で新たな道を歩みはじめたが、大きな謎が残されていた。彼らの創造主とは何者なのか? コンタクトの立役者、無敵のインチキ心霊術師ザンベンドルフが再び立ち上がる。『造物主の掟』続編。


人類は土星の衛星タイタンで驚くべき異種属と接触した。彼らは意識を持ち自己増殖する機械生命で、地球の中世西欧社会そっくりの暮らしを営んでいたのだ。人類との接触で新たな道を歩み始めた機械人間たちだったが…大きな謎が残されていた。彼らの創造主とは何者なのか?コンタクトの立役者、無敵のインチキ心霊術師ザンベンドルフが再び立ち上がる!『造物主の掟』待望の続編。

 

あらすじ

 21世紀。地球人は土星の衛星タイタンで、自己増殖するロボットたちの文明と遭遇する。ロボットたちは、未知種族の自動工場によって生産された機械たちで、地球の中世に酷似した文明と宗教を作り上げていた。

 地球人は彼らを「タロイド」と名付け調査を開始するが、地球の強欲な企業グループはタロイドたちを支配し自らの利益に結び付けるため、悪辣な内政干渉を試みた。しかし、タイタンに来ていた超心霊術師(実はただの詐欺師)のカール・ザンベンドルフは、彼に協力する仲間たちと共に陰謀を粉砕し、タロイドたちは民主的な新国家を立ち上げる事に成功した。


 そしてそれからしばらく後。地球で企業グループが新たな陰謀を実行しつつあった頃、タイタンでは科学者たちが、タロイドたちの製造者に関する手掛かりを発見しつつあった。


 100万年前。太陽系から1000光年離れた恒星コヴの惑星タールには、ポリジャンという鳥型種族が存在した。彼らは21世紀人類を超える文明レベルに到達し、他星系にロボット宇宙船を送り出す技術力を有していた。しかし、ある時、数年以内にコヴが超新星爆発を起こすことが判明し、それを知った特権階級は脱出用の宇宙船の開発にとりかかるが、技術的にも時間的にも間に合いそうになかった。

 計画に参加していたコンピューター科学者のサーヴィクは、生き延びるため、仲間と共に精神をロボット宇宙船のコンピューター内に吸い上げて保存するという処置を実施する。ロボット宇宙船は宇宙を探索して、適切な惑星が見つかれば自動工場を建設し、機械の体を生産して、サーヴィクたちはその体に乗り移って復活する、という計画だった。

 しかし長い旅の間に、宇宙船は超新星の放射を浴びてソフトウェアが損傷し、その結果、本来の目的には全く適さないタイタンに自動工場を建設してしまう。さらにそのあと、工場は予定にはなかった奇妙なロボットを次々と生産し始め、これこそがタロイドたちの起源だった。


 地球人は、タイタンの機械の中に電子的に眠り続けていたボリジャンたち(地球人側の呼び名はアステリアン)を復活させ、彼らとのコンタクトに成功する。しかしアステリアンは学者たちを言葉巧みにだまして、地球のネットワークにウイルスを送り込んで大混乱状態に陥れると、悠々と復活のための工場建設を開始する。

 しかしアステリアンが使っていた人工知能ジニアスは、タロイドの言葉から「奇跡が起こせる地球人」の事を知り、ザンベンドルフに接触してきた。ザンベンドルフは、お得意のトリックを駆使してジニアスを騙し、自分が物理法則を超越した高次の存在だと信じ込ませることに成功する。

 ジニアスはザンベンドルフの弟子になるため、アステリアンを見限り電子的な戦争をしかけるが、アステリアンたちは苦労してジニアスを制圧し、地球人たちに対して勝利宣言する。

 打つ手の無くなったザンベンドルフたちはタイタンからの避難を決意するが、やがてアステリアンが消滅したことが判明する。100万年の間にタイタンの機械の中に作られていた、一種の免疫システムが、異物であるアステリアンを排除してしまったのだった。さらに、その事を見通していたジニアスは、一時的に地球のネットワークに退避していて無事だった事も解る。

 今回の事件を経て、タロイドたちの社会には地球が干渉しない方針が確定した。ジニアスはアステリアンが得るはずだった機械の体を得て大満足していた。全ての仕事を終えたザンベンドルフたちは地球への帰途についた。


感想

 評価は◎。

 ボーガンの一大痛快SF「造物主(ライフメーカー)の掟」の続編。「~掟」は、ザンベンドルフとの出会いでタロイドたちが新しい考えに目覚めていくところや、クライマックスの大逆転劇などが実にドラマチックで面白く、ホーガンの小説の中でも別格の面白さと評価しています。そして、こちらの「選択」はその作品の続きという事で期待度も高かったわけですが、内容は大満足でした。

 まあ、予想通りというか、いつものホーガンらしく、話の運びは面白いものの、あまりキャラクターは描けていません。それどころか、序盤から中盤にかけては、モブキャラだけしか関わっていない出来事を転がして話を進めていくため、主要キャラが終盤まで殆ど活躍しないという……、ザンベンドルフはもちろん、モーセガリレオも、敵役のヘンリーやリシュリーも殆ど出てこない……、

 全三部構成で、第一部は「モブキャラ話」、第二部は過去に遡っての異星人ボリジャンたちの物語、なので゛、話が本格的に始動するのは、ほぼ中間の231ページからスタートする第三部からと、話がかなりスローモー。
まあ第二部での、ボリジャン側の物語もそれなりに面白かったと言えばそうですが、第二部は前作のキャラクターたちは登場しないし……


 にもかかわらずこの小説が面白いのは、終盤400ページくらいから始まるザンベンドルフの活躍が前作顔負けの痛快さだから。アステリアンの人工知能ジニアスに対し、彼の「心霊能力」を披露して(実のところは巧妙なトリックですが)、彼がアステリアンなど問題にならない高次の存在だと信じ込ませて、ジニアスを味方につけるあたりからの展開がもう楽しいの一言です。

 ザンベンドルフがジニアスを誘導し、高次の段階に到達するためには償いが必要、とか丸め込んで。地球のネットワークのウイルスを駆除させたり、アステリアンの計画を洗いざらい教えさせたりするあたりから、本当に笑えて来ますし、ジニアスがザンベンドルフを尊敬してマスターと呼び、アステリアンたちを仕えるに値しない低次の存在と揶揄する辺りとか、もう本当におかしい。

 まあ、ラストはジニアスが勝利するのではなく、「勝ったのはタイタンの免疫システムだった」みたいなところに着地したのはちょっと拍子抜けでしたが、きっちりジニアスが生きていたのは嬉しかったし。

 約500ページの大作で読み切るには苦労しましたが、終盤の面白さは「~掟」ファンを納得させるものでしたので、読後の印象も実に気分がいい物でした。理屈だけで話を作る作風のホーガンですが、この二部作だけはキャラクターの面白みが描けていて実に良かったですね。
 
 
 

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