【ゲームブック】感想:ゲームブック「ウィップアーウィルの啼き声」(くしまちみなと/2013年)【クリア済】

ダンウィッチの末裔 (The Cthulhu Mythos Files 5)

http://www.amazon.co.jp/dp/4798830054
ダンウィッチの末裔 (The Cthulhu Mythos Files 5) (日本語) 単行本(ソフトカバー) 2013/4/26
菊地 秀行 (著), 牧野 修 (著), くしまち みなと (著), 小島 文美 (イラスト), 小澤 麻実 (イラスト)
単行本(ソフトカバー): 396ページ
出版社: 創土社; 1版 (2013/4/26)
発売日: 2013/4/26

【※以下ネタバレ】
 

1つのクトゥルー作品をテーマに3人の作家が小説、ゲームブック、漫画などの様々な形で競作するオマージュ・アンソロジー・シリーズ。
第一弾は『ダンウィッチの怪』。菊地秀行牧野修、くしまちみなと(ゲームブック)が、それぞれの視点と恐るべき描写で邪神が紡ぐ闇を切り裂く。


《ウィップアーウィルの啼き声 (ゲームブック)・くしまちみなと著》 あなたが勤めるアメリカのTV番組製作会社に、日本から奇妙な依頼が来る。
それは廃墟となったダンウィッチ村を取材することだった。あなたは生きて村から出ることができるのか?
それは全てあなたの「選択」次第である。

 

概要

 創土社クトゥルー神話小説シリーズ「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」の第5巻「ダンウィッチの末裔」に収録されている短編ゲームブック

 テレビ番組ディレクターの主人公たちが、取材のため廃村となったダンウィッチ村に向かうものの、そこで恐怖体験をすることに……、というホラー。


あらすじ

 アメリカのとあるテレビ番組制作会社のディレクターである「あなた」の次の仕事は、日本のテレビ番組用の取材だった。その内容は、半世紀以上前に住民がいなくなったという「ダンウィッチ村」で埋蔵金探しをする、というもので、そのためあなたは、スタッフ三名、日本から来たリポーター、の計五名でマサチューセッツ州の人里離れた森林地帯に向かったが……


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は75。「パラメーター」「サイコロ振り」「アイテム使用」といった概念は無し。

 ごくシンプルな、選択肢を辿って話を読み進めていくだけの分岐小説型ゲームブック。ただしフラグという概念があり、「もし、ここまでに○○を体験しているならXX番へ、そうでないならばXX番へ」という分岐が数か所に存在する。


感想

 評価は○。プレイ時間:約2時間。

 クトゥルー小説本の中に収録されている短編ゲームブックで、ラヴクラフトの有名な作品「ダンウィッチの怪」の後日談という設定ですが、特に元となった作品を知らなくても単独で楽しめます。適度に歯ごたえがありながらも無駄に停滞するような事も無く、テンポ良くプレイできる好作品でした。


 導入部は、マスコミ関係者が取材のため、普通の人間は近寄らない、いかにも怪しげな場所に乗り込むものの……、というホラーやパニック物の王道的な展開になっており、もう最初からかなりワクワクさせられます。そして、そのあと主人公たちは廃村の中で、人外の存在を復活させようとする邪教の信奉者や、あるいは亡霊の大群に遭遇するなど、やはり期待を裏切らない「いかにも」の展開が待ち構えており、面白さにページをめくる手が止められませんでした。


 このゲームブックには七つの結末が用意されており、「生き残って謎も完全に解けるハッピーエンド」「謎は残るがとりあえず助かるエンド」「主人公が恐ろしい最期を遂げるバッドエンド×5」という構成となっています。

 面白いのは、最高のハッピーエンドに至る道が一番簡単なこと。普通のゲームブックは、大抵プレイヤーが試行錯誤しないとハッピーエンドにはたどり着け無いように工夫されていますが、この作品の場合は、危険な行動などを避けシンプルに進めると、すぐに最高の結末に到達します。やはり想定しているプレイヤーが、ゲームブックをプレイしたくてウズウズしているマニアではなく、普通のクトゥルー小説ファンという事だから難易度を低めに設定した、ということかもしれません。

 そしてその後のプレイは、「主人公がどんな酷い目に会うか」というバリエーションを探していくことが主眼となり、クリアできずにイライラするという事も無く、ゆったりとした気持ちで楽しくプレイできました。ちなみに待っている結末は、「邪神が復活して世界滅亡エンド」「召喚のいけにえにされる悲惨エンド」「理由も解らないまま亡霊に殺される恐怖エンド」等々趣味が悪い物が揃っております。とくにウィッカーマンに閉じ込められて生きたまま焼かれて殺されるエンドが、一番悲惨で印象に残りました。

 オーソドックスな構成、プレイヤーを引き込む展開、飽きてしまう前に消化できる適度なボリューム、等、どこを取っても良く出来ており、クトゥルーマニアのみならず、ゲームブックファンにも十分お勧めできる一作でした。


おまけ

 タイトルの「ウィップアーウィル」とは「夜鷹」という鳥の事で、別にクトゥルー的なモンスターや邪神の事ではありません……
 
 
ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)