【ゲーム】感想「Ever17 ~the out of infinity~ Premium Edition」(2009年):長すぎくどすぎ詰め込み過ぎ

BEST HIT セレクション EVER17  ~the out of infinity~ Premium Edition - PSP

BEST HIT セレクション Ever17 ~the out of infinity~ Premium Edition | ソフトウェアカタログ | プレイステーション オフィシャルサイト
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西暦2017年5月1日--午後12時51分


水深51mの海中に沈む海洋テーマパーク≪LeMU(レミュウ)≫。
ここに、7人の男女が閉じこめられた。


徐々に失われていく、食料、水、酸素。
深海に棲息する未知のウィルスの驚異。
さらに、苛烈な水圧にさらされたLeMUの隔壁は数日以内に崩壊するという。


分厚いガラス窓の窓の向こう側は、濃紺の深い闇……。
この閉ざされた空間の中で、限られた時間の中で、7人は脱出への道を探し求める。


生への渇望……死の恐怖。


想像を絶する極限状態の果てに待ち続ける結末とは、一体なんなのか?
そこで何を得、何を失い、何を得るというのか----?

【以下ネタバレ】
 
 

概要

 2009年にサイバーフロントから発売されたSFアドベンチャーゲーム。機種はPSP

 元々は2002年にキッドからPS2とDC(ドリームキャスト)向けに発売されたゲームで、翌年キッドからCGを追加した「Premium Edition」が発売されましたが、2006年にキッドが倒産。その後、版権がサイバーフロントに移り、オリジナル版のスタッフがPSPに移植したのが本作品です。


あらすじ

 2017年5月1日。海上の浮島と海中の三階建ての建物からなる海洋テーマパーク「LeMU(レミュウ)」で突発事故が発生し、6人の男女が逃げ遅れて閉じ込められてしまう。外部への脱出手段は無く、さらに何故か外部との一切の通信も遮断され、救援を呼ぶこともままならない。6人は外部から救出がやってくることを信じ待ち続けることを選ぶが……


ゲームジャンル/システムなど

 ゲームジャンルはアドベンチャーゲーム。ただし、「見る」「聞く」「話す」といったコマンドを選択する事も無く、アイテムを入手したりする要素も無く、基本的に文章を読んで、ごくたまに現れる2~5個の選択肢から一つを選んで話の分岐を選ぶだけ、ですので、限りなくノベルに近いです。「アドベンチャーゲーム」と名乗っているのは、メッセージが全画面表示ではなく、画面の下の枠内に表示されるから、ただそれだけのように思われます。

 プロローグが終わると、二人の主人公「武」「少年」のどちらかを選択することになり、以後選んだキャラクターの視点で物語が進展します。二人で合計四人のヒロインとの結末が用意されており、そのすべてを見れば、最終シナリオで完結編でもある「ココ編」の封印が解除され、真の結末へと進むことができます。

 なお、どのヒロインの話も、中盤以降になると、選択肢は表示されなくなり、ただ結末までひたすら文章を読むだけの「電子小説」と化します。


ストーリー

※各ヒロインのストーリーの説明は、極めて長いので、最後にまとめて記載します。<(_ _)>


感想

 評価は△(長すぎ、くどすぎ、詰め込み過ぎ)。プレイ時間は合計37時間25分。

 評価の高い作品ですが、私にはあまりにも合いませんでした……


◆良かったこと

 グラフィックは○。オリジナルは2002年発売で18年も前の作品ですが、滝川悠さんが描くキャラクターは好みでしたし(特に空)、CGのクオリティも粗いと感じるような事も無く、十分満足できるレベルでした。

 操作性も○。後発のPSP版だからか、全てに洗練されており、バックログの呼び出しの簡単さ、バックログでも音声を再生できる、セーブ数の多さ、クイックセーブ機能、未プレイの個所では画面上に「Update」と表示されること、等、細部に渡ってよく考えられており、操作性での不満は一切ありませんでした。



◆良くなかったこと

 前述の通り、基本的にひたすらテキストを読ませるだけの事実上の電子小説ですので、何よりも、テキスト(物語のアイデア・文章のクオリティ、等)が極めて重要なはずなのですが、この作品にはストーリーにも文章にも一々引っかかる事ばかりでした。


(1)文章がくどい

 とにかく無駄に文章がくどい。キャラクターが同じ意味の台詞をむやみと二度繰り返したりする、歌を歌うシーンでは歌詞の一部ではなく一番・二番を通してフルコーラスで歌う、難解な用語の説明をわざわざ複数のキャラクターのかけ合い形式にする、等、とにかく無駄と思える文章が多すぎてくどかった。読んでいてもっと簡潔に済ませられるはず、と思う事が実に多く、読んでも読んでも話が先に進まないのには軽く絶望しました。


(2)緊迫感がまるで無い

 物語は、六人の男女が突発事態で海中の施設内に閉じ込められ脱出も連絡も不可能、という緊迫したシチュエーションで始まりますが、にもかかわらず、以後の展開では緊張感という物がまるでありません。

 何故閉じ込められたのか不明、助けが来るかどうかも不明、次の瞬間浸水で死ぬかもしれない、といった状況にもかかわらず、登場人物たちはかなりのんびり構えており、シチュエーションとキャラクターたちの行動のギャップは最後まで違和感しか感じませんでした。

 まあ一応、時折浸水が起こったりして、状況的にはだんだんキャラクターは追い詰められているのですが、浸水イベントの後にのんきなBGMと共に日常会話を始めるような展開ばかりで、とても死と隣り合わせの状況とは思えない展開ばかりでした。遭難状態にある人間が、暇つぶしに缶蹴りをして遊ぶとか、普通あり得ないでしょう。


(3)笑いのセンスがない

 時たま笑いを取るような文章が出てくるのですが、とにかく全て笑えない。ココ編のひよこの真似をする辺りなど、あまりの笑えなさに心が無になりそうでした……



(4)ペース配分がおかしい

 ストーリーは5月1日の昼から5月7日までの7日間の出来事を描いていますが、ペース配分がおかしい。緊迫したシチュエーションなのですから、きびきびとイベントを起こし、もし何も起こらないのなら「この48時間は何も起こらなかった」といった感じで飛ばして、必要なところだけ必要なことを描けば良いと思うのですが、この作品はそうなっていない。

 例えば、重要なイベントが無い場合は、代わりに「朝起床して顔を洗った、朝食の用意をした、皆で食事をした、食後の休憩をした、昼食の用意をした、皆で食事をした、食後の休憩をした……」といったどうでも良いような事を延々と繰り返して時間稼ぎ(あるいは文字数稼ぎ)をしています。おかげでとにかく全体にダラダラとした話だという印象しか残りませんでした。

 プレイヤーに手に汗握らせたいなのなら、食事シーンなどカットして、生き死にや謎解きに関係するような事だけを描写しつつ、テンポよく進めるべきなのでは? この作品は何処を切っても「無駄なイベント」と思わせるものばかりで、終盤に向かって徐々に話を盛り上げていくような工夫は殆ど見られませんでした。


(5)構成が不満

 この作品は、「空編」「つぐみ編」「優編」「沙羅編」の四本のシナリオで大きな謎を提示し、封印されている五番目のシナリオ「ココ編」で全ての謎が解き明かされる、という構成ですが、「問題編」にあたる4人の話と、「解決編」のココの話のシナリオのボリュームがどうにも不満でした。

 ココ編をメインと考えるなら他の四人の話はコンパクトにまとめてさっと終わらせて欲しかったし、逆に四人の話がメインならココ編は謎解き重視でポイントだけを押さえた話にしてほしかった。

 五人のどの話も欲張ってしまったおかげで、ココ編では「他の四人のシナリオで読まされた展開をそっくりもう一度読まされる」ような事になっており、苦痛でしかたありませんでした。いくらループ物でも、同じ内容を二度三度と読ませる事に何も思わなかったのかと言いたいです。


(6)真相が不満

 このゲームの最大のトリック、すなわち『武視点と少年視点は同時の話と誤解させておいて、実は別の時間帯の話』という叙述トリックは、優編でのティーフブラウについての記述や、注射器の描写(武視点では普通の注射器を使うが、少年視点では進化した装置で注射している)でおおよそ見当がついていましたので、あとはその時間のズレについて、どううまく説明してくれるか、に期待していたのですが、これが酷い。

 まあ、二人の主人公の視点を入れ替えることで「武視点の武・少年」と「少年視点の武・少年」が別人であることを気が付かせない、という点はうまいとは思いましたが、その他のキャラクターの

・優→そっくりのクローン人間だから別人と解らない
・つぐみ→ウイルスに侵されて不老不死で見た目が変わらない

 というのはちょっと……、特に二人の優が別人であることを隠すため「優美清<春>香奈」と「優美清<秋>香奈」という、普通ではあり得ないような名前を付けておいて、普段は「優」とだけ呼ばせて別人であることを誤魔化す、という点などは実に姑息に感じました。

 また2034年のレミュウの状況は、優美清<春>香奈が全部用意して仕切ったことになっていますが、ただのライプリヒの一研究員に過ぎない優美清<春>香奈がどうやってそのような大仕掛けを行えたのか。そもそもレミュウの再建など優美清<春>香奈がどうこうできる話ではないし、また2034年のレミュウに上手くつぐみと沙羅と少年だけが取り残されるよう仕組めたなど、都合が良すぎます。つまり二度目の閉じ込めというシチュエーションに無理があり過ぎで、とても実現不可能としか思えません。

 そもそも、2017年に優が姿の見えない「四次元人」から「口頭」で説明された複雑怪奇な計画をすべて理解できていた、というところからしてあり得ない気がしました。

 そして一番重要なことは、ココ編の結末は一見ハッピーエンドですが、武も優美清<春>香奈もつぐみも不老不死なのですから、何時まで経っても若いままで、社会に受け入れられるとは思えないし、また自分の子供が死ぬのを見送らなければならないわけで、全然幸せな結末に思えません。この状況では、無邪気にああ良かったね、等とは感慨に浸れませんでした。


(7)詰め込み過ぎが不満

 本作品は、一つの物語に多数の要素を詰め込み過ぎで胸焼けのような感覚を覚えました。武とココを助けるための時間ループ物にしたいのならタイムパラドックスネタをメインに勝負すべきでしょうに、さらに悪の製薬会社の陰謀、クローン人間、不老不死、超能力(第三視点)、挙句に四次元人まで持ち出してくるなど、もう要素を盛り込み過ぎです。足し算ではなく引き算で話を作るべきだったのでは?



◆結論として

 最後までプレイして感じたのは、このケームのスタッフは読者/プレイヤーを楽しませるという考えがほぼ無かったらしい、という事でした。スタッフの「こんな凄いどんでん返しの話を思い付いた! さあ見て驚いてくれ! 多少長くても我慢してくれ!」という一方的な押し付けの姿勢ばかりを感じました。

 確かに極めて込み入った話で、こういう事を思いつけた事自体は大したものだとは思いましたが、ゲームとして娯楽として楽しかったかと言えば「否」でした。37時間超かけて、スタッフのアイデア自慢を一方的に語られただけ、そんな作品だったような気がします。



(おまけ)各ヒロインのストーリー

●空編(武視点)

 レミュウのシステムエンジニアだと名乗っていた茜ヶ崎空は、実は施設のコンピューターのAIによって映し出されていた精巧な映像だった。しかし空の正体を知っても武は空を人間同様に扱う。

 やがて八神ココが伝染病「ティーフブラウ」に感染していることが明らかとなり、武たちはレミュウのさらに下(水深120メートル)に存在する製薬会社の研究施設IBF(イー・ベー・エフ)と乗り込む。武たちもティーフブラウに感染していることが明らかになるが、海上に助けを呼ぶことに成功する。

 しかし武はレミュウに保存されている空のデータ、つまり「記憶」をメディアにコピーして持ち出そうとして脱出に失敗し、レミュウに取り残される。そしてついにレミュウは崩壊し、武も空も海水に飲み込まれる。



●つぐみ編(武視点)

 取り残された六人のうち、小町つぐみだけは他者と距離を置き、少しも打ち解けようとはしなかった。実はつぐみは12年前の2005年、12歳の時にウイルス「キュレイ」に感染し、その結果遺伝子が書き換えられ、驚異的な治癒力を持ち、さらに老化しない体になっていた。つぐみは17歳の時から老化していなかったが実は23歳だった。

 やがて八神ココが伝染病「ティーフブラウ」に感染していることが明らかとなり、武たちはレミュウのさらに下(水深120メートル)に存在する製薬会社の研究施設IBF(イー・ベー・エフ)と乗り込む。武たちもティーフブラウに感染していることが明らかになり、生き残るためにつぐみの体からティーフブラウの抗体を抽出し、それを各自に注射した。その後、海上に助けを呼ぶことに成功する。

 最後、武とつぐみはIBFに残っていた潜水艇で脱出するが、動力切れで海中で停止してしまう。武は船を軽くして浮上させるため、死を選びハッチから外に泳ぎ出ていった。



●沙羅編(少年視点)

 六人のうちの一人の少年は、トラブル直前より前の記憶が無く名前も何も分からないため、とりあえず『少年』と呼ばれることになった。

 「少年」は松永沙羅と打ち解けていき、沙羅が早くに両親を亡くした上、兄とも生き別れになっていること、今でも彼女の優れた能力を狙う組織に監視されていること、を知る。やがて「少年」は自分こそ沙羅の兄であることを思い出す。

 やがてレミュウの圧壊が始まるが、同じ頃外部との連絡が付き、非常階段から脱出できることになった。しかし沙羅はまた監視のついた生活に戻ることを拒否し、レミュウに残ったため、連れ出しに来た「少年」と共に閉じ込められる。「少年」と沙羅は決死の脱出を敢行し、なんとか海面まで泳ぎ着く。「少年」はレミュウの事故で二人は死んだと思われているだろうと予測し、沙羅と二人でどこかへ逃げようという。



●優編(少年視点)

 六人のうちの一人の少年は、トラブル直前より前の記憶が無く名前も何も分からないため、とりあえず『少年』と呼ばれることになった。

 「少年」はアルバイトである田中優と打ち解け、優が17年前に行方不明となった父親の手掛かりを探しに来た事を知る。そしてやがて優はコンピューターから肉親に関する情報を見つけ出すが、それは父親は34年前に死亡ており、母親もまた15年前に死んでいた、という驚愕の事実だった。

 やがて優の「母親」から連絡が入り、外部への通路を排水するので脱出するようにと指示してきた。そして少年や優たちは浮島に脱出し、優の「母親」と会うのだった。



●ココ編

 六人のうちの一人の少年は、トラブル直前より前の記憶が無く名前も何も分からないため、とりあえず『少年』と呼ばれることになった。

 やがて「少年」は、今が2017年ではなく、その17年後の2034年であること、つぐみが自分と沙羅の母親であるという事実を知る。今から17年前の2017年にもレミュウで今回と同様の事態が発生し、その際閉じ込められたつぐみは倉成武と結ばれた。そして脱出後、2018年に武の子供の双子を出産するものの、自分を実験体と見なすライプリヒ製薬からの逃亡生活の末に、二人を施設に預けたのだった。少年は、死んだ父・倉成武を名乗る偽物を追及すると、相手は本名「桑古木涼権(かぶらぎ・りょうご)」だと名乗る。

 少年はまた謎の少女「八神ココ」に会い、彼女が時空を超えて物事を知覚できる「第三視点」の能力を持つこと、少年も似たような能力を持つこと、を教えられる。

 少年は、自らの能力で17年前の2017年に起こったことを見る。倉成武は空のデータをコピーし、つぐみと脱出しようとするものの、潜水艇の動力切れでつぐみを助けるため、自分は潜水艇の外に出て死んだのだった。

 2034年の世界では、突然レミュウの外への脱出路が用意され、閉じ込められていた全員が浮島に脱出した。17年前の事故をそっくり再現していた黒幕は、優美清<秋>香奈の母親「優美清<春>香奈」だった。少年は優美清<春>香奈に詰め寄るが、彼女は全ては少年に指示されたと言い出す。

 そして少年は自分が時空間を超越した四次元人「プリックヴィンケル」であり、ホクトの意識の中に入り込んでいただけだと思い出す。ホクトが記憶喪失だったのは、その意識が「ホクト」ではなく「プリックヴィンケル」だったからで、顔に違和感があるのも、名前に聞き覚えが無いのもそのせいだった。そして今回の一連の出来事を仕組んだのも、実はプリックヴィンケル自身だった。

 ブリックヴィンケルは17年前に戻り、ココは救出されずIBFに置き去りにされており、海底に沈んだ武も、IBFに帰り着いて蘇生していた事を知る。しかし二人は脱出する方法が無く、プリックヴィンケル/ホクトのアイデアで、冷凍睡眠に入り助けを待つことになった。

 しかし、もし17年前の優たちにそれを知らせて救出させれば、2034年に自分が四次元人として覚醒することはなく、武が蘇生してココとIBFで冷凍睡眠に入る事も無く、タイムパラドックスが発生して結局武もココも助からない。プリックヴィンケルは、2017年に救出された優美清<春>香奈に、2034年まで待って今回と全く同じ出来事を起こして自分を騙すように頼んだのだった。

 2034年。プリックヴィンケル/ホクトはIBFに行き、冷凍睡眠状態だった武・ココを救出した。優美清<春>香奈によって、諸悪の根源のライプリヒ製薬に司法のメスが入ることになり、もうつぐみたちが追われることも無くなった。最後にプリックヴィンケルが立ち去っていくシーンで〆。
 

参考:2020年のゲームの感想一覧

perry-r.hatenablog.com
 
 
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