感想:小説「革服の男」(1999年)(エドワード・D・ホック)


 小説「革服の男」(エドワード・D・ホック)の感想です。

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■データ(公式)
http://www.amazon.co.jp/dp/4334761127/
革服の男―英米短編ミステリー名人選集〈5〉 (光文社文庫) [文庫]
エドワード・D. ホック (著), Edward D. Hoch (原著), 中井 京子 (翻訳)
文庫: 407ページ
出版社: 光文社 (1999/11)
ISBN-10: 4334761127
ISBN-13: 978-4334761127
発売日: 1999/11

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■データ(個人的補足)

 「サム・ホーソーン」「怪盗ニック」「サイモン・アーク」「レオポルド警部」等の名探偵で知られるホックの短編集。前述の名探偵たちの作品や「スーザン・ホルト」「ジェフリー・ランド」「ミハイ・ヴラド」たちの作品を収録しています。<収録作品>
01 キルディア物語 (The Killdeer Chronicles)(1995)
02 熱気球殺人事件(An Abundance of Airbags)(1995)
03 五つの棺事件(Interpol: The Case of the Five Coffins)(1978)
04 人狼を撃った男(The Man Who Shot the Werewolf)(1979)
05 七人の露帝(ツアー)(The Spy Who Came Back from the Dead)(1980)
06 不可能夫人(Lady of the Impossible)(1981)
07 バウチャーコン殺人事件(Murder at the Bouchercon)(1983)
08 ジプシーの勝ち目(Odds on a Gypsy)(1985)
09 呪われたティピー(The Problem of the Haunted Tepee)(1990)
10 レオポルド警部のバッジを盗め(The Theft of Leopold's Badge)(1991)
11 刑事の妻(The Detective's Wife)(1990)
12 革服の男(The Problem of the Leather Man)(1992)


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■あらすじ

01 キルディア物語 (The Killdeer Chronicles)(1995)

 単発読みきり。主人公の作家が、物語の中で、自分の創造した「名探偵ジョウナス・キルディア」のショート推理物4本を発表するという入れ子構造の異色作。なんか「名探偵ブラウン」を読んでいるみたいでした。あと、日本人にはラストの謎解きはちょっと辛い。


02 熱気球殺人事件(An Abundance of Airbags)(1995)

 「スーザン・ホルト」物。スーザンは有名デパートのバイヤー・企画担当者。スーザンは仕事のため出会った熱気球愛好者たちから、熱気球からの奇妙な墜死事件について聞き・・・

 「空飛ぶ密室」とでもいうべき状況で、犯人がどんなトリックを仕掛けて乗員を殺したか、が見どころ。


03 五つの棺事件(Interpol: The Case of the Five Coffins)(1978)

 「インターポール」物。豪華客船上での不正賭博行為を追うインターポールの二人は殺人事件に巻き込まれ・・・

 特に凝った推理要素は無く、刑事ドラマ風物語というところ。


04 人狼を撃った男(The Man Who Shot the Werewolf)(1979)

 「サイモン・アーク」物。「サイモン・アークの事件簿I」にも収録されました。「わたし」の知人が狼を撃ったところ、死体は人間で・・・、果たして本当に人狼は存在したのか?

 深い謎はありませんが、何故人狼云々という話が出てきたのか?という理由が面白い。


05 七人の露帝(ツアー)(The Spy Who Came Back from the Dead)(1980)

 「ジェフリー・ランド」物。ランドはイギリスの情報機関に勤務していた暗号の専門家。ある日ランドに敵国のソビエトから奇妙な依頼が届く。かつてランドのライバルで死んだはずの男が蘇り、仲間たちを殺しているので、調査してくれと言うのだが・・・

 ダイイングメッセージ物。ちゃんとヒントが出ているので日本人でも推理可能。昔懐かしい国際謀略物という感じ。


06 不可能夫人(Lady of the Impossible)(1981)

 「サー・ギデオン・パロ」物。ギデオン・パロは「ギデオン・フェル」博士などの古典的名探偵のパロディキャラらしいです。ギデオン・パロと「わたし」は「不可能夫人」のニックネームを持つ女優のパーティーに招かれる。そこで女優は自分の命を狙う相手にチャンスを与えると言って部屋に閉じこもり・・・

 登場人物がやたらと「昔の推理小説では」みたいな事を口にする作品。トリックは結構強引ですがそれもわざとそうしている?


07 バウチャーコン殺人事件(Murder at the Bouchercon)(1983)

 「パーニー・ハメット」物。バーニーは元私立探偵の推理作家。バーニーは、ミステリー作家とファンのイベント「バウチャーコン」(実在します)で殺人事件に遭遇し・・・

 ダイイングメッセージ物。この謎解きはちょっと日本人には辛いですね。


08 ジプシーの勝ち目(Odds on a Gypsy)(1985)

 「ミハイ・ヴラド」物。ミハイは1980年代頃のルーマニアの田舎に定住しているジプシーたちの事実上のリーダー。共産圏が舞台という異色作。ミハイは、知人の勧めで、村の若者をモスクワの競馬に出場させることにしたが、モスクワで事件に巻き込まれ・・・

 背景は異色ですが内容はいつものホック風推理パズル。ヴラドがジプシー云々という話を初めて聞いた時には中世の話だと思っていましたが、まさか20世紀の共産圏の物語だったとは・・・


09 呪われたティピー(The Problem of the Haunted Tepee)(1990)

 「サム・ホーソーン」物。この後「サム・ホーソーンの事件簿IV」にも収録されました。サムは、ベン・スノウという老人から、半世紀前のネイティブ・アメリカンの呪われたティピー(テント小屋)の謎解きを依頼され・・・

 西部探偵ベン・スノウとの共演。半世紀前の事件を現代に解決するというシチュエーションが面白い。


10 レオポルド警部のバッジを盗め(The Theft of Leopold's Badge)(1991)

 「怪盗ニック」物。この後「怪盗ニック対女怪盗サンドラ」にも収録されました。ニックのライバルの怪盗サンドラ・パリスが殺人容疑で逮捕された。ニックは彼女から助けを求められるが、彼女を逮捕したのはレオポルド警部で・・・

 ニックとレオポルド警部の共演という豪華作品。ニックが探偵となって殺人と盗難の二つの謎を解き明かします。


11 刑事の妻(The Detective's Wife)(1990)

 単発読みきり。刑事の妻ジェニーは、昔は夫のロジャーと推理遊びなどをして楽しんでいた。しかし時が経ち、ロジャーは、仕事の愚痴ばかりこぼし、妻の浮気を疑ってばかりのつまらない男となり果て、夫婦仲は冷え切っていた。それでもジェニーは夫との関係を良くしようと、夫が取り組んでいる連続殺人事件について尋ねるが・・・

 文芸誌に掲載された作品で、正当派の推理物ではないので、推理パズルを期待するとガッカリします。というか、結末の暗さに嫌な気持ちになりました・・・、ホックのダークサイド全開の話。


12 革服の男(The Problem of the Leather Man)(1992)

 「サム・ホーソーン」物。この後「サム・ホーソーンの事件簿IV」にも収録されました。サムはノースモントを旅行で訪れた革服の男と出会いますが、男はいつのまにか消え、さらに周りの人たちはそんな人物は見なかったと言い出し・・・

 人間消失物。怪談じみた展開に論理的な答えが出されていく展開が小気良いです。


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■感想

 「刑事の妻」の暗さに落ち込みましたが、他の作品はどれも名探偵たちが謎を解き明かす、正当派推理小説で読み応えがあります。ホック風味の作品を堪能したい人は是非手にとって欲しいです。

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■評価

(5段階評価の)5点。

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革服の男―英米短編ミステリー名人選集〈5〉 (光文社文庫)

革服の男―英米短編ミステリー名人選集〈5〉 (光文社文庫)

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