感想:小説「密室への招待」(1981年)(エドワード・D・ホック)


 小説「密室への招待」(エドワード・D・ホック)の感想です。

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■データ(公式)
http://www.amazon.co.jp/dp/4150013780
密室への招待―ホック密室ミステリ自選集 (ハヤカワ・ミステリ 1378) [新書]
エドワード D.ホック (著), 木村 二郎 (翻訳)
新書: 275ページ
出版社: 早川書房 (1981/09)
ISBN-10: 4150013780
ISBN-13: 978-4150013783
発売日: 1981/09

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■データ(個人的補足)

 「サム・ホーソーン」「怪盗ニック」「サイモン・アーク」「レオポルド警部」等の名探偵で知られるホックの短編集。ホックが創造した名探偵たちの作品のうち「密室」物をピックアップした作品集です。ただし、文字通りの密室だけではなく、「密封した箱の中から物が消えた」とか「誰も近づけない状況で人が殺された」という「広い意味で言えば密室、かな?」的な作品も含まれています。<収録作品>
01 不可能な“不可能犯罪”(The Impossible "Impossible Crime")(1978)
02 レオポルド警部の密室(The Leopold Locked Room)(1971)
03 人間消失(Captain Leopold and the Vanishing Men)(1979)
04 壁を通り抜けたスパイ(The Spy Who Walked Through Walls)(1966)
05 過去のない男(The Man from Nowhere)(1956)
06 魔法使いの日(Day of the Wizard)(1963)
07 メデューサ殺し(The Case of the Modern Medusa)(1973)
08 魔法の弾丸(The Magic Bullet)(1969)
09 水車小屋の謎(The Problem of the Old Gristmill)(1975)
10 乗務員車の謎(The Problem of the Locked Caboose)(1976)
11 投票ブースの謎(The Problem of the Voting Booth)(1977)
12 古いかしの木の謎(The Problem of the Old Oak Tree)(1978)

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■あらすじ

01 不可能な“不可能犯罪”(The Impossible "Impossible Crime")(1978)

 単発読みきり。二人の研究者が極北近くの小屋で暮らしていたが、閉鎖環境のため、やがて互いに相手を憎み始めた。そして、ある朝一人が目覚めてみると、もう一人が頭を撃ち抜かれて死んでいた。近くに人が近づいた気配は無いし、自殺でもない。そして自分が殺したわけでも無い・・・、では誰がどうやって殺したのか?

 短い作品ですが、推理パズルの醍醐味を堪能できました。


02 レオポルド警部の密室(The Leopold Locked Room)(1971)

 「レオポルド警部」物。レオポルドは架空の地方都市の警察に勤務している警官。この話は「サム・ホーソーンの事件簿V」にも収録されています。ある日、レオポルドの別れた妻が現われ、彼への憎しみをあらわにしたあと銃で撃たれて死亡した。状況から見て、同じ部屋にいたレオポルドが犯人でしか有りえない・・・

 細かいトリックをつなぎ合わせることで、一見不可能な密室殺人を作り出してます。ちなみに作風が異様に暗いです。


03 人間消失(Captain Leopold and the Vanishing Men)(1979)

 「レオポルド警部」物。ある日レオポルドを知人の弁護士が訪ねてくるが、彼によれば担当している事件の証人が不可思議な状況で次々と消えてしまっているという。レオポルドは最初は半信半疑だったが・・・

 密室というより人間消失物。あたかも超常現象物の様なストーリーですが、最後はしっかりとした論理的なオチがつきます。トリックは解ってしまうと「なーんだ」という些細なものですが、話の運び方が上手いです。


04 壁を通り抜けたスパイ(The Spy Who Walked Through Walls)(1966)

 「ジェフリー・ランド」物。ランドはイギリス情報部の秘密伝達局(通称:ダブルC)の局長。ランドは建物の中から資料が次々と消えるという事件の捜査を任される。驚くべき事に、誰もドアから資料を持ち出していないのに書類は消えてしまっていたのだ。犯人のスパイは壁を通り抜けられるのか?

 伏線の張り方が巧み。ただし犯人は「まーこの人しかいないでしょ」というところに着地しました。


05 過去のない男(The Man from Nowhere)(1956)

 「サイモン・アーク」物。サイモン・アークは不老不死とも噂される謎の老人。アークたちは19世紀の謎の人物「カスパー・ハウザー」に酷似する人生を生きる男に会いに出かけるが、男はアークたちの目の前で、突然見えない相手に刺されて・・・

 多分推理物に詳しい人なら事件発生の瞬間謎が解けてしまうかも? わりと一発ネタです。


06 魔法使いの日(Day of the Wizard)(1963)

 「サイモン・アーク」物。「わたし」は政府に頼まれ、サイモン・アークを求めてカイロに向かうが・・・

 推理物というより奇談です。密室というか閉ざされた箱の中身が入れ替わることの謎解き。長い割にイマイチ。


07 メデューサ殺し(The Case of the Modern Medusa)(1973)

 「インターポル」物。セバスチャン・ブルーとローラ・シャルムのコンビの冒険物。セパスチャンとローラは密輸組織の捜査でスイスに向かうが、事件の関係者が密室で刺殺され・・・

 トリックは解ってしまえば唖然とするほど簡単ですが、一発ネタを上手く使って一つのお話に仕立てています。


08 魔法の弾丸(The Magic Bullet)(1969)

 「秘密諜報員ハリー・ポンダー」物。ハリーはアメリカのスパイ。某国では政府側と反政府勢力の緊張が高まっていた。そんな最中、アメリカ大使館の人間が防弾装備を施した車の中で射殺された。弾丸は全ての障害物をすり抜ける「魔法の弾丸」だったのか?

 これも上手い。トリック自体は言われてしまえばなんということは無いのですが、「魔法の弾丸」というキーワードに幻惑されてしまいました。


09 水車小屋の謎(The Problem of the Old Gristmill)(1975)

 「サム・ホーソーン」物。サムは架空の田舎町ノースモントに暮らす医者。この話は「サム・ホーソーンの事件簿I」にも収録されています。密閉した箱の中に納められていた資料が、誰も触れないうちに消滅し?

 話は途中までサムだけが一人でわかっていて、読者は置いて行かれて大混乱状態ですが、最後に見事に謎が解き明かされます。伏線もキッチリ。


10 乗務員車の謎(The Problem of the Locked Caboose)(1976)

 「サム・ホーソーン」物。この話は「サム・ホーソーンの事件簿I」にも収録されています。鍵のかかった列車「乗務員車」の中で人が死に、宝石が盗まれていた。犯人はどこからどうやって出入りしたのか?

 サム自身が語っていますが、視点を変えればかなり簡単に解決できます。逆に言うと、途中までは恐るべき怪事件となって悩ませてくれました。


11 投票ブースの謎(The Problem of the Voting Booth)(1977)

 「サム・ホーソーン」物。この話は「サム・ホーソーンの事件簿I」にも収録されています。衆人環視の「投票ブース」の中に入っていた男が刃物の傷で死んだ。刃物は見付からないため自殺では有りえない。しかし殺人だとすれば犯人はどうやって刺したというのか?

 秀逸の一言。物語のパーツの何から何までが巧みに配置されています。


12 古いかしの木の謎(The Problem of the Old Oak Tree)(1978)

 「サム・ホーソーン」物。この話は「サム・ホーソーンの事件簿I」にも収録されています。映画のスタントでパラシュートで降下した男が、着地した時には首を締められて死んでいた。被害者は空中で見えない相手に絞め殺されたのか?

 わりとトリックは簡単でした。誰が犯人?は解らなかったけど・・・


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■感想

 全てが「密室」あるいはそれに準ずるもので、全てのストーリーで「推理パズル」を堪能させてくれました。これは大当たり!

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■評価

(5段階評価の)5点。

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