超古い雑誌ですが、1983〜1985年に発行されたウォーゲーム雑誌「シミュレイター」を何冊か入手できたので感想など。
2号「特集:スターリングラード」(1983年1月25日発行)
この雑誌は、創刊号(1982年9月発行)はゲームクラブ「ファースト・ディビジョン」の会報(同人誌)として発行されたものの、何故か第2号から商業誌化され、一般ゲーム店に出回るようになったらしいのです。一体何がどうなってそんな事に?(ちなみにファースト・ディビジョンは1980年代は凄く有名なクラブでした)
□特集
エポック「スターリングラード」の説明と、デザイナーの黒田幸弘氏のデザイナーズノート、しめて4ページなり。これを特集というのもどうかと思う。
□その他
表紙の紙が特製(?)の「つるつるした紙」ではなく、中のページと一緒の普通の紙というのがビックリです。
・クロスレヴュー
複数のゲームクラブ+シミュレイター編集によるケーム批評。意外にもクラブからの評価は普通の内容ですが、シミュレイター編集者の評価はかなり辛辣で、後にこのコーナーの参加者全員がやりたい放題の大荒れ悪口コーナーになる徴候が見て取れます。
・モデルエースの店長インタビュー
・タクテクス編集長インタビュー
1983年の時点で「昔は…」「最近のゲーマーは…」とか語られているのを見るとなんか気が遠くなりそうな感じです。
・フラットトップ バトルレポート
など。
この頃はまだエポックのゲームも6作ほどしか出ていない頃で、全体に古参たちが「日本のメーカーがウォーゲームを手がけるようになったり、それで入ってきた若い連中がゲームを始めたりしているけど、どんなもんですかね」的に見ているような空気が感じ取れます。
でも雑誌自体は意外に面白い。
■5号「特集:海戦ゲーム」(1983年7月25日発行)
□特集
・海戦ゲーム比較「アイアンボトムサウンド」「大日本帝国海軍」「戦艦大和」。ツクダホビーのゲームで「大和」なんて初耳です。
・クラブ「アウトバーン」の「日本機動部隊」リプレイ。アウトバーンは昔から絵入りのこーいうコミカルノリだったんですね。
□その他
・ゲームレビューに変えて
ここは「代えて」の誤字でしょうか。前回までの各サークルの2chスレなみのゲーム貶しコメント群に、さすがに編集部がまずいと思ったのか、掲載中止と次号から別の形で批評するとの宣言。また過去の言われ放題コメントにブチ切れたプロデザイナーたちが、コメントを一々引用しながらバカにする様な感じでこれでもかと反論しています。2ch的な世界が1983年に既にあったのでした。
・OBSERVATION POST
海外ニュース。SPI倒産とその後TSRがSPIの資産を引き継いだ話について。「TSRはデザイナーも居ない抜け殻を買わされた」とバカにしてますが、当時はそういう見方だったんですねぇ、というか今の視点でもそうか。
7号「特集:戦術級ゲームの変遷&マーケットガーデン作戦バトルレポート」(1983年11月25日発行)
□特集
第一特集はパンツァーブリッツから装甲擲弾兵までのゲームの歴史を駆け足で紹介。しかし特集というには物足りないところ。第二特集はただのリプレイなのでやはり喰い足りない。
□その他
・アド・テクノス ゲーム付き書籍発表
例の朝日出版社から出たSGBシリーズ三点のお知らせ。スタッフの集合写真に高梨俊一先生が載っていますが、さすがにお若い。
・読者投稿
8号「特集:電撃!東部戦線」(1984年1月25日発行)
□特集
冒頭は大平英樹氏(今は大学の教授らしい)の電撃戦解説。続いてSPI「パンツァーグルッペ・グデーリアン」がアバロンヒルから復刻発売されるというニュース。そう、この雑誌が出たのはそういう時代だったんですね。あとは「ロシアンキャンペーン」リプレイ、エポック「独ソ電撃戦」の研究。特集というならこれくらいは無いとね。
□その他
裏表紙にあの(?)「奥野かるた店」の広告が載っていますが、「アダルト・ゲーム各種」という文字にビックリします。まあもちろんこれは18禁などという意味ではなく、「大人向け知的遊戯」という意味です。当時はウォーシミュレーションもTRPGもファミリーゲーム的なものも全て「頭を使うゲーム」的に同一線上で扱われていたんだなぁとしみじみ。
12号「特集:パネルディスカッション ゲームデザインにおける創造性」(1984年9月25日発行)
□特集
1984年8月5日に開催されたイベント「TAC-CON東京」におけるディスカッションの再録。司会:鈴木銀一郎、パネリストが黒田幸弘&高梨俊一という豪華な顔ぶれ。データ至上主義とゲーム性とみたいな事を難しく述べてました。
□その他
鈴木大佐が「今年は猛暑だった」「17年勤めた会社を辞めて翔企画を作りました」「シミュレーション業界は昨年と比べ低迷している」などと書いています。こういう時事ネタを30年後に読む感覚はなんとも表現しがたいですね。
・デザイナーからの寄稿
高梨俊一先生がアドテクノスのSGB「壬申の乱」を如何にしてテーマを見つけゲーム化したか、というお話。日本版「ローマ軍団の戦い」みたいなのが作りたかったのですって。
13号「特集:戦国時代のゲーム(?)」(1984年11月25日発行)
□特集
冒頭にしてメインが「戦国大名」のリプレイで、その次が「信長の野望」初代(!)の紹介なので、多分「戦国ゲーム特集」だと思われますがどこにも書いていないのだった…、「戦国大名」は超有名な割にリプレイとかは見ないので貴重かもしれません。あと「信長の野望」についてはシミュレーション性については厳しい評価ですが、「天下統一というテーマは面白いのでそういうゲームの先駆けになるかもしれません」云々とあります。まさにそうなりましたね。
□その他
・ゲームマスターが学ぶ事/深見耕一
TRPG関係の記事。ゲームマスターの参考になる小説(コナンとか永遠のチャンピオン物とか)の紹介。
・日本のRPGは面白いか?
ローズ・トゥ・ロード、トラベラー、スタークエスト、の分析。「今後RPGが広がるかどうかは関係者次第」云々とあります。いかにも黎明期らしい記事でした。
・ゲーム放談 1985年ゲーム界はどうなるか?
鈴木銀一郎氏や故・大貫昌幸氏などが今後の流れを分析。大貫氏が「トラベラーは成長ルールが無いのでキャラを作っただけで終わりになっている。D&Dが翻訳されたら流行るだろう」的な発言。ずばりではないものの、成長ルールのあるTRPGはその後大流行しましたね。
14号(最終号)「特集:なし」(1985年3月25日発行)
第一期最終号。理由は不明ですがこの号を持ってシミュレイターは「編集のプロ」に引き継がれる事になったそうです。ああ、そのプロというのが「翔企画」の事だったのか!
・エポック「バルジ大作戦」作戦研究
ガッチガチの硬さ。
・パワーベースボールリプレイ
選手名が初代ガンダムとかダーティーペアとかうる星やつらとかから来ており、時代が解ります。しかし内容はちっとも面白くないや。
・アップフロント(HJ/AH)紹介
詳しく紹介して最後は「ダメじゃん」と辛口評価。
・[新連載]近代海戦史/
・[新連載]シミュレーションゲームの批判は可能か?/高梨俊一
翔企画版シミュレイターの名物連載がこの中途半端な時期に登場。
・「司政官」論争
少し前の号で、ツクダホビーから出たSF小説原作のゲーム「司政官」について、シミュレイターが辛口レビュー。すると次号でデザイナーの有坂純先生(懐かしい)が「お前わかってねーよ」とばかり反論。それに対して今回またシミュレイター側があからさまにバカにする内容で有坂純氏を猛攻撃。ゲームの内容ではなく、もはや個人の誹謗中傷になっています。
いやー、編集者、ライター、投稿者、の全てがどぎつい文章を叩きつけ、それをセーブせずにそのまま載せて炎上をこれでもかと煽る編集方針。このギスギスぶりが第一期シミュレイターが潰れた理由じゃないかと思えるほどです。翔企画版シミュレイターがこんな陰惨な雰囲気でなくて本当に良かった…
これで第一期シミュレイターは終わり。編集長が突然交替を命じられた様で、編集後記で不満たらたらの最終号となりました。
これで2〜14号までは全て入手しました。創刊号は会報(同人誌)でどうやら店頭には出回らなかったらしいので、入手はもう無理かもしれません。