感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン5」第18話「アンダーカバー」

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 ドラマ「X-ファイル シーズン5」(全20話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン5
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s5/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。

第18話 アンダーカバー THE PINE BLUFF VARIANT

■あらすじ

 お題は「殺人バクテリア、政府の陰謀」。


 FBIとCIAの合同チームは、テロ組織ニュースパルタンズの幹部ヘイリー逮捕のため、彼が武器商人と接触する場に張り込むが取り逃がす。しかも武器商人の方は、ヘイリーが使用した未知の生物兵器によって体が溶けて死んでしまう。スカリーは、モルダーがヘイリーをわざと逃がしたと疑い、後を付けまわすが、何者かに捕まり、スキナーのところに連れて行かれる。実はモルダーはスキナーたちの密命を受け、潜入捜査官としてテロリストたちに協力していた。


 テロリストたちは小さな映画館で再度生物兵器を使用し、観客たちを殺す。スカリーは兵器の正体が、人工的に作られた殺人バクテリアだとつきとめる。しかも、作られた技術の高度さから考えて、バクテリアはアメリカ国内で作られたとしか考えられなかった。


 やがてヘイリーたちは銀行に押し入り、銀行強盗に偽装して紙幣にバクテリアを付着させて逃走する。直後、モルダーは正体がばれテロリストたちに殺されそうになるが、何故か組織のボスのブレマーがモルダーをこっそり逃がす。


 モルダーは銀行に駆けつけ、紙幣を使わないようにさせようとするが、既にスカリーの指示で銀行は封鎖されており、バクテリアの拡散は防がれた。モルダーはブレマーが実は政府のスパイであり、政府がテロ組織の犯行に見せかけて、国民を対象に密かに開発していた生物兵器をテストしたと確信していた。しかし、政府の役人は紙幣にバクテリアなど付着してなかったと主張し、紙幣の検査も拒否する。モルダーやスカリーの抗議も虚しく全ては隠蔽されて終わる。


監督 : ロブ・ボウマン
脚本 : ジョン・シバン


■感想

 評価は△。


 X-ファイルには珍しい、モルダーがテロ組織相手に体を張るサスペンス編。シナリオライターのジョン・シバンは、ジョン・ル・カレのスパイ小説「寒い国から帰ってきたスパイ」に影響されてこの話を書いたとのことだが、おかげでX-ファイルらしさの乏しい、何か別のスパイアクションドラマになってしまっていてイマイチである。


 今回の唯一X-ファイルらしい要素は、人間を一瞬にして殺害する殺人バクテリアだが、要するに「ただの生物兵器」であり、超常という存在でも無い。


 序盤は、モルダーがFBIを裏切ってテロリストに加担しているのか?と疑わせる展開でちょっと興味を惹かれるが、すぐに真相が明かされてしまい、途端に面白さも半減してしまう。以後、モルダーが単身テロリストの中に入り込み、命の危険にさらされながらスパイ活動を行なうストーリーはそれなりにハラハラさせられるが、これがX-ファイルでやるべき話なのか、という点で疑問符が付く。マンネリを防ごうと、新要素に挑むのはかまわないが、「超常現象を解明するミステリードラマ」という本分を見失ってしまっては元も子もない。


 また、最後に明かされた真相にも無理がありすぎる。実は紙幣にバクテリアを付着させ大規模テロを行なおうとしてたのはアメリカ政府自身だった、というオチとなるが、そんなことをすればテストどころか、国内がバクテリアによる死で大パニックになるだろう。例えば、大規模交通機関の運転手や、あるいは、危険な施設の作業員などが、バクテリアで死亡すれば本人が死ぬだけではすまない。アメリカ政府がアメリカ自身に攻撃を仕掛けてどうするのか。


 この手の「政府が国民をモルモット扱いにして新技術を試す」話は、シーズン2・第3話「血液」や、シーズン3・第23話「電波」が有ったが、いずれも小規模な実験でいつでも手を引けるようにしていた。それらと比べて、今回のエピソードは設定がずさんすぎて、モルダーたちが陰謀を止めてくれなければアメリカは壊滅していたかもしれない。


 いつもとは違うモルダー潜入捜査の話に意外なオチをつけようとして、前後のつじつまが合わなくなってしまい、結局首をかしげる結末になってしまった失敗作だった。シナリオライターは、自分の書いた作品をしっかり見直してから提出して欲しいものである。


■一言メモ

 サブタイトルの邦題「アンダーカバー」とは、は『潜入捜査、おとり捜査』の事。

 原題の「THE PINE BLUFF VARIANT」の内、「PINE BLUFF」は生物兵器を研究していた軍の施設「パインブラフ」のこと。「VARIANT」は「変異体」程度の意味。つまりパインブラフで開発された殺人バクテリアの事を表している。ちなみにパインブラフは現実に存在するアメリカ軍の施設。