感想:海外ドラマ「X-ファイル 2016」第5話「バビロン」

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X-ファイル 2016|FOX|FOX ネットワークス http://tv.foxjapan.com/fox/program/index/prgm_id/20683
放送 FOXチャンネル。全6話。

【※以下ネタバレ】
 
X-ファイル 2016(ニーゼロイチロク)の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら
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第5話 バビロン BABYLON

 

あらすじ

美術館で自爆テロが発生。瀕死の爆破犯から情報を聞き出せれば連続テロを防げると考えた担当捜査官のミラーは、超常現象に詳しいモルダーならその方法を知っているかと、相棒のアインシュタインと共にXファイル課を訪ねる。モルダーとスカリーは、昔の自分たちを彷彿とさせる若いコンビにそれぞれの方法で協力を申し出る。

 お題は「幻覚」。

 テキサスでイスラム教徒の若者による爆破テロが発生し、モルダーは事件の際に空からラッパのような音が聞こえたという報告に興味を持つ。直後、FBI捜査官のミラーとアインシュタインがモルダーたちを訪問し、捜査への協力を求めてきた。

 ミラーは超常現象を信じており、植物状態でまだ生きているテロの実行犯の一人から情報を聞き出すため、霊能者に犯人とコンタクトしてもらいたいと言う。モルダーは信頼できる霊能力者はいないと返事をしたためミラーたちは引き上げるが、直後スカリーはミラーに脳波計を利用して瀕死のしゃべれない相手と意思疎通する最新の手法があることを連絡し、テキサスに向かった。

 一方モルダーはこっそりアインシュタインを呼び戻し、幻覚を見せるキノコ・マジックマッシュルームを使い犯人から情報を聞き出すアイデアを説明する。マジックマッシュルームを使ってトリップした人間は、死者と会話したり時空を超えたりしたと証言しているため、モルダーは自分も同様にトリップし犯人の精神とコンタクトするつもりだった。モルダーは医師の資格があるアインシュタインの監督下で実験したいと提案するが、現実主義者のアインシュタインは、モルダーの考えをバカにした挙句、一人でテキサスへと行ってしまう。

 ところがアインシュタインは、テキサスでは既にミラーとスカリーが二人で何かを始めているのを見て、対抗心でモルダーのアイデアに乗る。モルダーはアインシュタインが手に入れた幻覚成分のカプセルを飲んでトリップし、犯人が出て来る幻覚を見るが、相手が何を言っているのかわからないまま終わる。しかもアインシュタインが用意したカプセルはただのビタミン剤だった。

 しかしモルダーは幻覚の中で犯人の側にいた女性が、実在する犯人の母親だと知る。モルダーが幻覚の中で聞いた犯人の言葉はアラビア語で「バビロンホテル」という意味だった。FBIがバビロンホテルに乗り込むとテロリストグループが潜伏しており、犯人たちは一網打尽となり、事件は解決した。


監督 クリス・カーター
脚本 クリス・カーター


感想

 評価は△。

 第1話「闘争 Part1」と同様、制作総指揮のクリス・カーターが監督と脚本を担当したエピソード。しかしクオリティは低く、失望に値する回だった。事前に「ローン・ガンメン」の再登場が大きな話題として宣伝されていたが、確かにそこくらいしか語ることのない話だった。


 クリス・カーターは「闘争 Part1」では、昨今のテロや「愛国者法」といった生臭い話題を前面に押し出しており、X-ファイルらしからぬ暗さが鼻についたが、今回も全く同じ方向性でウンザリした。イスラム教徒の爆破テロ、移民に対する偏見丸出しの市民やFBI捜査官、最後にモルダーとスカリーが愛と憎しみについて語るオチ、など、X-ファイルにこんな要素はいらない、と思う部分が満載だった。クリス・カーターは放送前特番で「新作は今風の話題を取り扱っている」云々と語っていたが、その「今」がテロだの移民排斥だのという話題だとしたら勘違いも甚だしいと思われる。X-ファイルファンが見たいのはそのような要素でないのは、ほぼ確実である。


 今回は、生臭いテーマが前面に押し出されている一方で、超常現象要素の占める割合は小さく、モルダーがマジックマッシュルームのせいで幻覚を見て不思議体験をする、という程度である。しかもモルダーが飲んだのは本物ではなくただのビタミン剤だった、という真相が情けない。テレビ番組の中で主人公が堂々怪しい薬物でハイになる、という展開はまずかったのかもしれないが、それではビタミン剤を本物の幻覚成分だと思い込んで陽気になってしまったモルダーはただの道化である。

 今回は、かつてのモルダーの「陰謀論」仲間のローン・ガンメンの再登場が大きく宣伝されていたが、実際のところはモルダーの幻覚の中でちらりと姿を見せた、という程度で、台詞すら無く、がっかり感が物凄かった。しかし、これには裏事情があるようで、長髪眼鏡のラングリー役のディーン・ハグランドは、今はオーストラリアのシドニーに住んでいるらしく、最初制作スタッフが見つけることができなかったので、そのせいでローン・ガンメン再登場は没になる予定だったらしい。しかし最終的に長身髭のバイヤーズ役のブルース・ハーウッドが見つけてきてくれたので、なんとか三人そろっての再登場にこぎつけた様である。だが結局時間が無かったのか、再登場はカメオ出演並みのほんの少しの時間で、目を凝らさないと三人がいたかどうかも良くわからないくらい。これは残念極まりなかった。


 さて今回のゲストキャラで目立ったのは、FBI捜査官のミラー&アインシュタインのコンビである。真面目好青年のミラー(ローレン・アンブローズ)は、超常現象をナチュラルに信じており、かつイラクに従軍したことがあるという軍隊経験者で、つまりモルダーと元海兵隊員のドゲットの二人の要素を併せ持つキャラである。一方の女性の相棒アインシュタイン(ロビー・アメル)は、相対性理論アインシュタインの血縁者であり、医者の資格を持ち、超常現象は基本的に全く信じないが、不思議な事実を認めるだけの柔軟さを持つ、という、これまたスカリーのコピーのような設定である。

 しかも、二人はモルダー&スカリーの付け合わせというような従属的立場ではなく、個性を持ってモルダー&スカリーと渡り合っており、事実上半分主役を担当していた。こうなると、視聴者としては当然「クリス・カーターはこの二人を主役にしたスピンオフシリーズを狙っているのでは?」と勘繰らずにはいられない。アメリカのドラマでは、人気作品の一エピソードが別のスピンオフドラマのパイロット版も兼ねている、という事がままあるようで、今回のエピソードはまさにそれだったのではないだろうか。

 まあ、X-ファイルは確かにモルダーとスカリーのキャラが重要ではあるものの、オリジナルのシーズン8・9辺りを見ていると「とりあえず面白い超常現象話であれば、主役が交代してもそれなりに楽しめる」という事が分かったので、スピンオフ企画もそれはそれでありである。もっとも、当然見ごたえのあるシナリオの供給が必要条件で、今回のようなテロリスト相手の話ばかりだとしたら、速攻打ち切りは確実であろう。


 それにしても、思わせぶりなサブタイトル「バピロン」の意味が、「テロリストの潜んでいるのはバビロンホテル」というオチから来ていると知らされた時には腰が砕けそうになった。いくらなんでも、あまりにもあんまりとしか言いようがない。



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