感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン8」第9話「救済」


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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン8 http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/
放送 Dlife。全21話。

【※以下ネタバレ】


※シーズン8の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン8」あらすじ・感想まとめ

第9話 救済 SALVAGE

あらすじ

http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s8/episode.html
EP9 救済
"サウスサイド廃品"の従業員レイ・ピアスが、原因不明の奇病で亡くなる。その葬式の夜、同僚のカートが何者かに頭を潰されて殺される事件が発生。カートの車には・・・。

 お題は「金属人間」。


 自動車が何かに衝突して左右に引き裂かれた姿で見つかり、乗っていた男も別の場所で死体となっていた。車は鉄の4300倍の密度がある何かに衝突した形跡があり、また死体は頭部に人間に掴まれたような指のあとが残っていた。そして車から、男の同僚レイ・ピアスの指紋が出てくるが、ピアスは数日前に病気で死んでいた。

 ピアスを調べると火葬されたはずがその形跡がなく、実は生きている可能性が出てくる。その直後、ピアスの勤務先の廃棄物処理業者の社長が殺され、現場からチェンバー・テクノロジーという会社との取引記録が見つかる。ドゲットはチェンバー社を調べ、この会社が自己再生する金属「スマート金属」を研究していることを知る。やがて、ピアスは細胞が金属化する奇病で死んだこと、ピアスの勤務先がチェンバー社から廃棄物処理を請け負っていたこと、などが判明、さらにドラム缶から金属化した人間の死体が見つかる。

 実はチェンバー社は自己再生する金属を研究していたが、それが人間を汚染して金属化させてしまうことが解り、研究は中止された。金属に汚染され死んだ研究員の死体は特別な業者に処理されるはずだったが、何かの手違いでピアスの会社に引き渡されてしまい、その結果ピアスが金属に感染したのだった。

 ピアスは復讐のため、勤め先の人間を殺した後、ドラム缶を勤め先に処理させたチェンバー社の責任者を襲撃するが、その相手の子供が見ているのを知り、殺すのを止める。その後ピアスは行方不明になり、スカリーはピアスが最後の瞬間に人間らしさを一瞬取り戻したのかもと思う。最後、ピアスが廃車処理場で廃車にもぐりこみ、車と一緒にプレス機に押しつぶされるシーンで〆。


監督 ロッド・ハーディ
脚本 ジェフリー・ベル



感想

 評価は○。

 SF的考証はいい加減だが、細かいところに目をつぶり、「何の罪も無い男が、全身が金属化する病気に見舞われる悲劇的な話」としてみれば、なかなかの出来栄えのエピソードだった。


 事件の元凶はチェンバー・テクノロジー社が開発していた「スマート金属」という自己修復機能を持つ金属の試作品。金属に遺伝子を組み込んだもので、電気エネルギーで自己再生する、という代物で、金属に遺伝子云々という時点でもう設定が適当なのは解るが、人間に感染して人体も金属化してしまう、というあたり、言いたいことはまあ伝わってくる。

 問題はこの金属に感染したピアスのほうで、序盤に車にぶつかった物体は鉄の4300倍の密度を持っていると説明されていた。鉄の密度は7.86g/立法センチなので、問題の金属の密度は33798g/立法センチとなる。元の体重が80Kg、そのうち50Kg分が金属に置換され、とか色々考えると、ピアスの体重は1500トンくらいあることになる。別に150トンでも良いが、もう頑丈な体どころではなく、道を歩けば道路が足あとの形にめり込み、建物に入れば床が抜けること必至である。またそんな重い体をどうやって元人間の力で動かすのか、という点も説明が無い。まあ、今回はSFというより一種の寓話と捉えて、細かい設定は突っ込まないのが正解なのだろう。

 序盤、火葬にされたはずのピアスの死体が火葬場で処理されておらず、にもかかわらずお骨が妻の家に届けられていた、という展開に、何か政府の陰謀ではと考えたのだが、実は事件は単なる不幸の連鎖に過ぎなかったことが判明する。この部分も矛盾と言えば矛盾だが、やはり気にしてはいけないのかもしれない。この話は結局、細部は気にせず、最後にほぼ怪物化していたピアスが子供を見て僅かに人間の心を取り戻し、プレス機に入って自殺するというあたりにちょっと涙しておくべきエピソード、ということなのかもしれない。


 ところで劇中で、ドゲットがスカリーに「ピアスはメタルマンになったというのか? そんなのは映画の中だけだ」と言い返すシーンが有るが、これはスタッフのお遊びで、映画「ターミネーター2」に引っ掛けた台詞である。「ターミネーター2」では、液体金属製で自由に人に化けるロボットが登場するが、これを演じたのがドゲット役のエドワード・パトリックその人。ドゲットに「映画の中」「メタルマン」云々といわせて視聴者をニヤリとさせる仕掛けというわけである。


 さて、本エピソードの日本語サブタイトル「救済」は、実のところ話の内容を全く反映していない。原題「SALVAGE」は「人命救助」といった意味も有るのでそこから来ているのだろうが、「SALVAGE」には「廃品回収」という意味も有るので、そちらの方が正しいように思える。つまり劇中でピアスが勤めていたのが廃棄物処理業者だった、という事を表すタイトルだと解釈するほうが正解だろう。意図的な誤訳という気がしないでも無い。

一言メモ

 このエピソードは、シナリオライターが、日本のホラー映画「鉄男」(1989年)にヒントを得て書いたとのこと。「鉄男」は、主人公の体が徐々に鉄になっていくという内容。