感想:NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第3回『汚れた金メダル 国家ドーピング計画』

Doping in Sports: Winning at Any Cost?

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 21:00〜22:00 放送)。

【※以下ネタバレ】


※他の回の内容・感想はこちら→ 「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

第3回 『Case03 汚れた金メダル 国家ドーピング計画』 (2016年6月30日(木)放送)

内容

人類に功も罪ももたらす「科学」。その知られざる姿とは…。発覚のたびに大きな話題となるスポーツ選手のドーピング。今回は、旧東ドイツが国家ぐるみで行なった史上最大規模のドーピング事件に光を当てる。人体への深刻な影響を知りながら計画を実行した科学者が編み出した、驚くべきテクニックの数々。薬物を投与されていることさえ知らなかった元選手たちの苦しみ。残された極秘文書から恐るべき実態が明らかになる。


【出演】仲野徹,渡部厚一,【ナビゲーター】吉川晃司,【司会】武内陶子


●国家ぐるみのドーピング

 2000年、ドイツである裁判が行なわれた。旧東ドイツ時代にスポーツ選手たちにドーピングを行い健康を損なった罪で、一人のスポーツ医が裁かれたのだった。その男の名前はマンフレッド・ヒョップナー。


 人口1600万人の小国旧東ドイツが国の力を示すため、スポーツはうってつけだった。そして1968年のメキシコシティオリンピックから、それまで東西統一ドイツチームでオリンピックに参加していたものが単独参加となった。ヒョップナーたちは1968年からドーピング実験を開始。選手に「経口トリナボール」という男性ホルモンを投与することでパフォーマンスを上げることに成功。旧東ドイツ選手は、1964年の東京オリンピックでは金メダル3個だったが、1968年メキシコシティオリンピックでは金メダル9個、さらに1972年のミュンヘンオリンピックでは金メダル20個、を獲得した。



●国家計画14.25

 1974年にIOC国際オリンピック委員会)は経口トリナボールを禁止薬物に指定した。困った東ドイツは、国家ぐるみでドーピングを行なう「国家計画14.25」をスタートさせた。スポーツ医たちが、選手の人選や新薬の開発などを一手に行なう計画である。この計画のリーダーがヒョップナーだった。

 ヒョップナーは、検査の目を潜り抜けて経口トリナボールを使うため「マスキング」という手法を開発した。経口トリナボールは使用をやめても二週間は体内に残って検査に引っかかるため、まず検査二週間前に経口トリナボールの使用を中止する。しかしそれでは急激に筋肉が落ちるため、代わって人体内で生成されるホルモン「テストストロン」を投与する。すると筋肉の落ちが緩やかになるため、検査にひっかからず、それでいてハイパフォーマンスが出せる、という訳である。この手で、1976年モントリオールオリンピックでは金メダル40個を獲得。

 しかしこの頃から選手のドーピング疑惑は強く疑われるようになっていた。女子の水泳選手が男の様な低い声でしゃべっていたからである。ヒョップナーは政府に対し、マスコミに女子選手にインタビューさせないようにすべき、と依頼していた。旧東ドイツは、1980年モスクワオリンピックでは、西側諸国のボイコットもあり金メダル47個を獲得した。



●さらなる検査逃れ

 1983年、IOCはドーピング検査方法を一新した。人体はテストステロンを使用するとその結果として「エピテストステロン」という物質が作られる。検査して両方の比率が6:1以上ならばドーピングと見なす、というものだった。ヒョップナーはその検査をバスするため、ドーピング効果には直接関係しないエピテストステロンも一緒に投与する、という手を編み出した。



●真実の露見

 1989年、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツは統一された。旧東ドイツ政府はドーピングに関する資料を破棄したが、僅かな資料が残り、これによって旧東ドイツの国家ぐるみのドーピングが暴露された。国家計画14.25の犠牲者は選手たちだった。選手たちは、自分たちがドーピングを行なわれていることを知らないまま競技していたのである。彼らが獲得したメダルは全てが実力では無くドーピングの成果でしかなかった。しかも、競技をやめた後もドーピングの副作用に襲われた。うつ症状、腎臓や肝臓の病、ホルモン分泌の異常、等。ある女性選手にいたっては男性ホルモンを投与されすぎたため、体が男性化してしまい、性別を転換する羽目になった。

 犠牲となった選手たちによりヒョップナーは訴えられ2000年に裁判となった。しかしヒョップナーは執行猶予2年の罪に問われただけだった。そしてその後ヒョップナーは姿を消し、今でもドイツのどこかに住んでいるはずである。



●その後

 スポーツ界のドーピング問題は依然無くなってはいない。2003年にはアメリカのスポーツ選手が新種の筋肉増強剤「デザイナーズステロイド」を使っていたことで大騒ぎとなった。ロシアのスポーツ選手がドーピング疑惑でオリンピックから締め出されたことも記憶に新しい。最近では薬物では無く、選手本人の血を細工する「血液ドーピング」という手法も生まれている。さらに究極的には遺伝子をいじり、運動能力に優れた人間を生み出すことも、理論的には不可能ではない。

 ドーピングをするかしないかは、結局のところ、倫理観・人としての有り方を問われているのである。


感想

 テーマが重い……、元選手が知らない間に薬を飲まされていて「自分だけの力で記録を出すチャンスを奪われた」と訴えるのもきついのですが、もっと酷いのが女子選手だった人が男性ホルモンを盛られすぎて今はどうみても中年男性になっている事例です……、ひどすぎ。

 まあ、ロシアは現時点でも旧東ドイツと同じことをやっているんでしょうけどねぇ……