感想:NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第13回『地獄の炎 ナパーム』

ナパーム空爆史 (ヒストリカル・スタディーズ16)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
※他の回の内容・感想はこちら
「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ
 

第13回 『Case13 地獄の炎 ナパーム』 (2017年5月25日(木)放送)

 

内容

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「地獄の炎 ナパーム」


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回は、地獄の炎「ナパーム」。太平洋戦争で東京大空襲を始め日本の都市を焼き尽くし、ベトナム戦争ではジャングルもろとも村を壊滅させた。発火しやすく対象に粘りつくために消火が極めて困難になるという特徴を持つ。あまりにも非人道的だとして国際的に禁じられたが、今もなおテロや内戦で使用されているという。この恐るべき兵器を作ったのは、ノーベル賞候補にもなった若き天才化学者だった―。

 今回は非人道的兵器として国際的に使用を禁止されたナパームの物語。


●ナパーム

 「ナパーム弾」という爆弾がある。対象物を燃やすために使用される「焼夷弾」の一種で、ゲル状になったガソリンが詰められており、爆発すると火が付いたゲルが建物や人体に飛び散り、燃え尽きるまで消えることが無い。このナパームが開発されたのは第二次大戦中のアメリカだった。



●ナパームの開発者

 ナパームを開発したのは有機化学者ルイス・フィーザーである。フィーザーは1899年生まれ。1940年当時、ビタミンKの合成などの業績でノーベル賞候補級の高名な化学者だった。

 1940年。アメリカは第二次世界大戦のための兵器開発のため、軍と40を超える大学が共同で研究を始めていた。フィーザーは新型兵器として、ゲル状にしたガソリンを詰めた焼夷弾を思いつく。当時使われていた焼夷弾の「テルミット焼夷弾」は、金属の粉を詰めたもので、爆発と同時に熱せられた金属の粉が周囲に飛び散ることで火災を起こす、という原理だったが、金属はすぐに冷えてしまうので、あまり効果的な兵器ではなかった。

 フィーザーは最初はガソリンに生ゴムを混ぜることを思いつくが、日本軍が東南アジアに侵攻したことで生ゴムが手に入らなくなってしまう。軍はフィーザーに、材料が手に入りやすく、戦場で簡単に製造できる、といった条件を出してきた。

 フィーザーは長鎖脂肪酸のナフテン酸アルミニウムとパルミチン酸アルミニウムを混ぜることで、ガソリンをゲル状にする方法を開発する。フィーザーは「ナフテン+パルミチン」から、この薬剤を「ナパーム」と名付けた。フィーザーは、ナパームをインスタントコーヒーなどと同様に粉末化することで、容易にガソリンに溶けるように仕上げた。



●ナパーム、太平洋戦争に投入される

 ナパームは1943年から量産が開始された。ナパームを混ぜたガソリンを火炎放射器の燃料に使用すると、粘りがあるため炎が棒状になって遠くまで届き、従来の火炎放射器の射程が30メートルだったのに対し、ナパーム燃料ならば70メートルまで届いた。

 またゲル状ガソリンを詰めた爆弾は「ナパーム弾」と呼ばれ、日本に大量に投入された。従来型の爆弾では目標に正確に命中させないと効果が無いのに対し、ナパーム弾は火災を引き起こすので目標に命中しなくても火災により最終的に目標を破壊できる。極めて効果的な兵器だった。

 1945年に戦争が終わると、フィーザーは優れた兵器を開発した功績でトルーマン大統領から感謝状が贈られた。フィーザーは普通の研究者に戻り、優れた教科書を書き、後進を育てた。



●使い続けられるナパーム弾

 その後、朝鮮戦争ベトナム戦争でもアメリカ軍はナパーム弾を使用し続けた。ベトナム戦争では、ガソリンの入ったドラム缶にナパームを混ぜて簡易な爆弾を作る、という事が戦地で行われた。粉末で扱いやすく、戦場で簡単に調合できる、というナパームならではの事だった。

 1967年、アメリカの雑誌がナパームの特集を組み、これによりナパーム弾の非人道ぶりが広く知れ渡り、ナパームを開発したフィーザーは非難を浴びることになった。しかしフィーザーは、「国のためならまた同じことをやる」と言ったという。この年フィーザーはハーバード大学を退官した。

 1972年、戦場カメラマンによって、ナパーム弾により大やけどを負った少女の写真が撮影され、ピューリッツァー賞に輝いた。これが決定打となったのか、1980年、国連は人口密集地でのナパーム使用を禁止した。そして2001年にアメリカは全てのナパーム弾を廃棄したと発表する。

 しかしアメリカ軍は2003年のイラク戦争では、ジェット燃料をゲル化した爆弾を使用し、「これはナパーム弾とは違う」と強弁したが、同盟国のイギリスからも高性能のナパームに過ぎない、と非難されることになった。

 また、とある武装勢力は、ネットで「砂糖や石鹸などの日用品でナパームを作る方法」を公開した。安価に製造できながら効果の高いナパーム弾は、このような武装勢力にとって格好の兵器なのである。ナパームは今でもシリア内戦などで使い続けられている。


 ナパームの開発者、フィーザーは1977年に死去した。享年78歳。


感想

 ハイ来た、「科学界に優れた業績を残した人物が、その一方で非人道的なことに関与していた」的な話。こういう『偉人のダークサイドをさらけ出す』ような内容こそまさしく「闇の事件簿」というタイトルに相応しい。大満足の回でしたよ。
 
 
※他の回の内容・感想はこちら
「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ
 
Napalm: An American Biography