感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第19回『麻酔 欲望の医療革命』

エーテル・デイ―麻酔法発明の日 (文春文庫)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第19回 『Case19 麻酔 欲望の医療革命』 (2017年11月30日(木)放送)

 

内容

11月30日木曜

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「麻酔 欲望の医療革命」


科学史に埋もれた闇の事件に光を当てる知的エンターテインメント。今回は医療に革命をもたらした「麻酔法」誕生を巡るスキャンダル!医療とカネ、そして特許。欲望の物語!


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回は、現代の医療に欠くことのできない「麻酔法」誕生をめぐる一大スキャンダル! 19世紀に開発された吸入麻酔法は、それまで地獄絵図だった手術現場から患者の苦痛を取り除き、外科手術に革命をもたらした。だが、第一発見者の功を得ようと医師たちは国家をも巻き込んだ金と名誉の壮絶な争奪戦を展開する。その結末は? 医療とカネ、そして特許。麻酔法開発にまつわる、知られざる欲望の物語!


【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司,【出演】菊地博達,谷口英樹,【司会】武内陶子

 
 今回は、医学における大発明「麻酔」にまつわる物語。


●麻酔発明以前

 麻酔が開発されるより前、外科手術は患者に恐るべき痛みをもたらす最悪の治療法だった。患者は縄で縛りあげられて身動きできないようにされて苦痛に耐えながら手術されるしかなく、痛みを和らげるため酒やアヘンが投与されることもあった。

 患者の中には、手術の痛みに絶望し、手術の前に自殺するものすらいた。



●ウェルズの大発見

 19世紀アメリカ。当時流行の見世物に「笑気ガス(亜酸化窒素)」を吸って酩酊状態になってバカ騒ぎする、という物が有った。歯科医のホレス・ウェルズは、笑気ガスを吸った人間が大怪我をしているのにまるで痛みを感じていないことにヒントを得て、これを手術の痛みの緩和に使えないかと思いつく。

 1844年。ウェルズは自ら亜酸化窒素を吸って失神した後、他の歯科医に歯を抜いてもらうが、目覚めたとき全く痛みを感じなかったことを確認した。ウェルズは手術の大革命だと大喜びして、同じ町に住む歯科医たちに、この方法を伝授して周った。

 1845年。ウェルズは医療の先進地ボストンに行き、医師たちの前で公開実験を行うことになった。しかし高名な医師たちは最初からウェルズをバカにして麻酔について信じておらず、それに動揺したウェルズは亜酸化窒素の投与量を間違えたため、上手く麻酔が効かなかった。ウェルズは嘲笑の中詐欺師呼ばわりされ、絶望で歯科医を辞めてしまう。



モートン登場

 失意のウェルズを、かつての弟子で、ボストンの実験でも助手を務めたウィリアム・モートンが訪問した。モートンは麻酔法について知りたがり、ウェルズは詳しく伝授してやった。

 実はモートンは歯科医になる前は詐欺師で、子供のころから金を借りては踏み倒して逃げたすことを繰り返していたお尋ね者だった。モートンは詐欺師の嗅覚で、麻酔が金になると見抜いていた。

 モートンは、ウェルズのアイデアを頂きつつ、使用する薬はジエチルエーテルに変えた。ウェルズからアイデアを盗んだと言われないためである。そしてウェルズ同様に公開実験を行うことにしたが、失敗を避けるため、自分は麻酔をかけるだけにして、手術は他の外科医に任せることにした。

 1846年、モートンの公開実験が行われ、麻酔を使った無痛での腫瘍の摘出手術が行われ、大成功を収めた。



●特許の取得

 モートンの成功を知り、ウェルズは自分こそ麻酔の発明者だと名乗り出た。ところが世界中からも「我こそは麻酔の発明者である」という人物が次々と現れたのである。その内の一人、アメリカ人医師・科学者のチャールズ・ジャクソンは、当時の大物で、しかもモートンエーテルを使うことを指南した人物だった。

 モートンは、ジャクソンに連名で特許を取ることを持ち掛けて懐柔し、1848年麻酔の特許を取った。モートンはこれで大金持ちになると皮算用していた。

 当時、医療の分野で特許を取るというのは暗黙のルールでご法度だった。50年前ジェンナーが種痘法を発明した時も、種痘法を普及させるため特許を取っておらず、以後医学の分野で特許で金儲けをしようというのはルール違反という空気だった。しかしモートンはそんなことはお構いなしだった。



モートンの誤算

 モートンはさらにエーテルにオレンジの香料を混ぜた「リーセオン」という麻酔を作り出した。モートンは1846年に始まったメキシコとの戦争で麻酔が大量に必要になると踏んでいたのである。ところが戦場では律義に特許の事を考えるものなどおらず、勝手にエーテルが使用された。しかも国内でも医師たちが特許を無視してエーテル麻酔を使い始めた。

 特許侵害を訴えるには、いちいち現場に出かけて証拠を押さえるしかないが、そんなことは事実上不可能だった。モートンの特許は有名無実となり、金儲けのプランは崩壊してしまったのである。



●ウェルズ復活、しかし……

 やがてウェルズの名誉が回復される日が来た。かつて彼が麻酔法を教えた歯科医が「麻酔の真の発明者はウェルズ」と医学誌に投書したのである。

 1848年。名誉が回復され気力を取り戻したウェルズは、今度は新しい麻酔薬としてクロロホルムを使うことを考えた。しかしクロロホルムには依存性があり、実験で自分に麻酔をかけていたウェルズは中毒になっていた。ある日ウェルズは中毒で酩酊状態のまま、歩いている女性に硫酸をかけて逮捕された。ウェルズは牢の中で隠し持っていたクロロホルムを飲んだ後、血管を斬って自殺した。享年33歳。



モートンの末路

 モートンは国を相手に、特許が事実上機能していないなら、報奨金を払えと要求したが、受け入れられなかった。さらに裁判で「そもそもエーテルはそれまでによく知られていた薬だから、麻酔の特許は成立しない」として、取得した特許を無効にされた。結局モートンも目論んでいた金儲けが失敗したまま1868年に48歳で死亡した。



モートンがもたらした負の遺産

 モートンがもたらしたものは、「医療分野であっても特許を取って良いんだ」という発想の転換だった。現代は薬や医療機械のさまざまな特許により、最先端の治療はとてつもない高額となり、個人や、医療保険を支払う国に負担を強いている。これはモートンのもたらした負の遺産と言える。

 しかし特許による儲けが無ければ、製薬会社などは新薬の開発が不可能になり、新しい薬がもう出てこないことになりかねない。難しい問題である。


感想

 「闇の事件簿」に相応しい、金と名誉の争いの物語で、めっちゃ面白かったです。しかし当事者が二人ともろくでもない末路を辿るというのが……、話が出来すぎですなぁ。
 
 

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