感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第20回『モンスター・スタディー 史上最悪の心理学スキャンダル』

People in Quandaries

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第20回 『Case20 モンスター・スタディー 史上最悪の心理学スキャンダル』 (2018年1月25日(木)放送)

 

内容

1月25日木曜

NHKBSプレミアム 午後10時00分~ 午後11時00分
フランケンシュタインの誘惑▽モンスター・スタディー史上最悪の心理学スキャンダル


科学史に埋もれた闇の事件に光を当てる知的エンターテインメント。今回は、子供たちに生涯にわたるトラウマを刻みつけた残酷きわまりない心理学実験を巡るスキャンダル!


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回は子供たちに生涯にわたるトラウマを刻みつけた残酷きわまりない心理学実験の闇!後に「モンスター・スタディー」と呼ばれるその実験は吃(きつ)音の原因についてのある仮説を実証するために行われた。指揮したのは「吃音治療の父」と呼ばれた心理学者。しかし、結果が彼の意に沿うものではなかったこと、そして実験の非人道性からこの実験は62年間も隠蔽される…。衝撃のスキャンダルに迫る!


【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司,【出演】池内了,川合紀宗,【司会】武内陶子

 
 今回は孤児をモルモット同然に扱った心理学実験の闇に迫る。


●吃音治療の父

 心理学者ウェンデル・ジョンソン(1906~1965)は、「吃音治療の父」と呼ばれた大物学者だった。彼は自分自身が吃音だったことから吃音の研究者となった。1930年代、吃音は脳の問題で治療は不可能だと思われていたが、ジョンソンは「診断起因説」という新説を唱えた。これは、子供が吃音気味になったとき、親がいちいちその事を指摘して直させようとすることで、吃音がよりひどくなる、という考え方である。



●孤児をモルモット代わりに

 ジョンソンはこの説を立証するため、大学院生のメアリー・チューダーに指示して、孤児院の孤児たちを相手にある実験を行わせた。実験は1939年1月から半年行われた。

 ジョンソンたちは実験の目的を明らかにしないまま、子供を吃音ありと無しのグループに分類し、

1Aグループ 吃音ありの子供たちに、ポジティブ評価(気にしなくて良いと言う)
1Bグループ 吃音ありの子供たちに、ネガティブ評価
2Aグループ 吃音無しの子供たちに、ネガティブ評価
2Bグループ 吃音無しの子供たちに、ポジティブ評価


 この実験の目玉は2Aグループの子供で、吃音の無い子供に吃音が有ると暗示を与え、吃音を引き起こさせようとするものだった。これで吃音が発生すれば診断起因説が証明されることになる。

 チューダーは、2Aの子供たちにいちいち吃音気味だと指摘し、それを直すためにいったん言葉を止めろとか歯の裏に舌を当てろとか指示して、子供が吃音に意識を向けるように仕向けた。また施設の職員にも、同じように子供たちに吃音を指摘しろと指示した。



●封印された実験結果

 実験は五か月に及び、最後には子供たちに異常行動が発生した。喋るたびに指を鳴らす、体を揺らす、目をぱちぱちさせる、頭を壁にぶつけるなど。精神的な抑圧の結果だった。

 そしてチューダーは実験結果を論文にまとめるが、2Aグループで吃音を発症したものは一人もいなかった。ジョンソンはこの結果が自分の説の証明に役立たなかったので、そのまま隠してしまった。

 やがて第二次大戦がはじまり、ナチスドイツがユダヤ人を対象に人体実験を行ったというニュースが飛び込んだ。ジョンソンは上司の勧めで、自分が行わせた実験の事を闇に葬り、大学関係者も口をつぐんだ。

 その後、1946年にジョンソンは吃音に関する本を書いてこれがベストセラーとなり、以後医学会の大物としてのし上がり、名誉に包まれて1965年に死んだ。享年59歳。



●暴かれたモンスター・スタディー

 2001年になって新聞社が、このジョンソンの実験の事を記事にし、この実験を「モンスター・スタディー」と名付けた。当時の子供たちだった被験者は、ようやくこの時になって自分が何をされたのかを知った。被験者たちや遺族たちは、ジョンソンが所属していたアイオワ大学を訴え、2007年に大学は慰謝料として一億円を支払った。当時の被験者である女性は、この実験によって吃音になってしまい、未だに苦しめられている。

 ちなみに今では「診断起因説」はほぼ否定されている。



ニュージーランドのモンスター・スタディー

 アメリカ心理学協会は1972年に人体実験を禁止した。しかし2014年にニュージーランドで恐るべき実験が行われようとしていたことが判明した。

 「幼いころから暴力を振るわれていた人間はどのくらいの確率で犯罪者になるのか?」を調べるため、子供の虐待の報告が有っても無視してただ観察する、という実験だった。しかし調査対象6万人が決まり、実験を開始する直前になって大臣がその計画を知り実施を中止させた。

 このような非人道的実験を国がやろうとしていたということは、社会的な雰囲気が有るのかもしれない。私たちはこんな悲劇が繰り返されないように、常に反省し続けなければならない。


感想

 うわぉ……、ナチス優生学による断種テーマとか、ロボトミーとかに匹敵するキツイ回でした……
 
 

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