【推理小説】感想:小説「8の殺人」(我孫子武丸/1989年)

新装版 8の殺人 (講談社文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4062760142
新装版 8の殺人 (講談社文庫) 文庫 2008/4/15
我孫子 武丸 (著)
文庫: 360ページ
出版社: 講談社; 新装版 (2008/4/15)
発売日: 2008/4/15

【※以下ネタバレ】
 

大胆なトリックで本格ミステリーファンをうならせた傑作長編。建物の内部にある中庭が渡り廊下で結ばれた、通称“8の字屋敷”で起きたボウガンによる連続殺人。最初の犠牲者は鍵を掛け人が寝ていた部屋から撃たれ、2人目は密室のドアの内側に磔に。速水警部補が推理マニアの弟、妹とともにその難解な謎に挑戦する、デビュー作にして傑作の誉れ高い長編ミステリー。(講談社文庫)

 

あらすじ

 蜂須賀建設社長の邸宅で副社長がボウガンで撃たれて殺害された。邸宅は上から見ると数字の「8」の形をしており、被害者は深夜に真ん中の横棒に当たる渡り廊下を歩いているところを殺害されたのだった。犯行の一部始終は、被害者の娘・雪絵とその知人美津子によって目撃されており、ボウガンを射た部屋も解っていた。

 警察はその部屋の主である、使用人の息子・雄作を犯人と決めつけるが、雪絵は捜査担当の速水恭三警部補に、雄作は絶対無実なので調べ直してほしいと泣きつく。雪絵に一目ぼれした恭三は安請け合いして、地元署の刑事にうるさがられながら、部下の木下と共に捜査を進めるが、どうにもはかばかしい進展が見られない。

 やがて恭三は美津子が犯人の共犯だと睨み脅しをかけるが、直後、美津子は自室でボウガンに撃たれてドアに磔になって死んでいた。状況的に見て犯人は窓の外に浮かんで部屋の中の美津子を撃ったとしか考えられず、警察関係者は途方に暮れる。

 しかし恭三の弟で推理マニアの慎二と、その下の妹・一郎(いちお)現れ、慎二があっさりと謎を解く。美津子が撃たれたのは部屋の外に出ている時で、廊下から撃たれてドアに磔になってしまい、その反動でドアが閉まってオートロックがかかり、結果的に密室になっただけだという。

 さらに第一の副社長殺しは、渡り廊下の真ん中に巨大な鏡を置くことで雪絵を錯覚させ、あたかも雄作の部屋から撃ったかのようにみせかけただけだったのだった。

 そして犯人は、というと、実はやっばり雄作だった。雄作は斬新な鏡のトリックを思いつき、それを現実に実行してみたくなって犯行に及んだのだった。雄作としては、まずわざわざ自分が疑われるような状況で殺人を犯しておいてから、警察にトリックを見破ってもらい、結局自分は犯人では無かった、と言ってもらいたかったのだった。慎二に謎を解いてもらった雄作は、自分が犯人とバレたもののトリックを解明してもらい、満足してあっさり犯行を認める。

 事件解決後。恭三は雪絵をデートに誘おうとするが、死んだ副社長の秘書が雪絵にプロポーズして雪絵も喜んでそれを受けた、という話を聞き、ガックリ来たところで〆。


感想

 評価は○(そこそこ)

 本の紹介で「トリックでミステリーマニアをうならせた」云々と書いてあるので、凄く重厚なクイーン風ミステリーを期待していたら……、実はコントみたいなユーモア小説でした(笑)


 主人公・恭三は頭脳は使わないゴリラっぽいキャラで、その部下の木下は事件の捜査そっちのけでシステム手帳(2019年時点で死語)のページ分類を必死にやっているような頼りないというか使えない男。この二人が読者の代わりとなって事件を捜査していくのですが、事件の真相には全く迫れず、自分たちの目の前で第二の殺人が起きるのを防げなかったりして、もうなんというか頼りない事この上なし。

 しかし、あまりそんなことは気にならないのがこの小説の良い所で、二人が屋敷の中の人間を取り調べていくと、殆どのキャラがエキセントリックな人物ばかりで、恭三との掛け合いは妙にユーモラスで、陰惨な殺人事件の捜査という雰囲気が全然ありません。お手軽なコメディ小説を読んでいるかのごとしです。

 また、ときおり恭三が木下を使って、犯人がとったかもしれない行動を再現させようとするのですが、その度に失敗して木下が酷いことになって怪我をする、というコントを何回も繰り返すので、ベタながらフフッとなりました。という感じで、全然推理小説ぽくないのですが、お気楽ユーモア小説としては割と楽しい内容でした。

 肝心の事件の謎解きは、慎二と一郎がいきなり乗り込んできて、実はこうでした、と色々トリックを暴いてくれるのですが、ここは本格的で確かに唸らされました。第二の殺人の「犯人が窓の外を浮遊して被害者を射殺した」としか思えない状況も、視点を変えることであっさり解決してくれて、これはなかなかに爽快でしたね。また第一の殺人のトリックも言われてみればなるほど、と思えるものでしたしね。作品の妙に軽いノリと裏腹の、トリックの本格ぶりとの落差が物凄かった(笑)

 しかし、気になるところも有りまして……、推理小説マニアの慎二が謎解きの前に、「推理作家のカーは自作品の中で探偵に『密室講義』をやらせているので、自分もそれをやりたい」とか言い出して、密室の種類がどうだこうだとウダウダ言い出すシーンがありまして、これには正直うんざりしちゃいましたねぇ。こんなの作者の単なる自己満足で、読者は求めちゃいないと思うんですけどね……


 とまあ予想外の事が色々有りましたが、ノリが軽くてスッと読めましたし、トリックはなかなか満足できるものだったので、それなりに楽しませていただきました。まあ悪くないってとこですね。
 

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8の殺人 (講談社ノベルス)