【推理小説】感想:小説「スイス時計の謎」(有栖川有栖/2003年)

スイス時計の謎 (講談社文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4062753871
スイス時計の謎 (講談社文庫) 文庫 2006/5/16
有栖川 有栖 (著)
文庫: 384ページ
出版社: 講談社 (2006/5/16)
発売日: 2006/5/16

【※以下ネタバレ】
 

被害者の腕時計はなぜ消えたのか。2年に一度開かれていた“同窓会(リユニオン)”の当日、メンバーの1人が殺され、被害者のはめていた腕時計が消失!いったいなぜか……。火村の示した間然するところのない推理に「犯人」が最後に明かした「動機」とは。表題作ほか謎解きの醍醐味が堪能できる超絶の全4篇。ご存じ国名シリーズ第7弾、これぞ本格だ! TVドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」でも話題の傑作シリーズ。

 

あらすじ

 探偵役の大学助教授(犯罪社会学専攻)・火村英生(ひむら・ひでお)と、語り手である火村の友人の推理作家・有栖川有栖がコンビを組んで事件を解決していく中短編集。


・「あるYの悲劇」(短編)

 マンションの一室でギタリストが頭を殴られて殺されていた。被害者は死ぬ直前、犯人の手掛かりとして壁に血文字で「Y」の字を書き残したが、関係者でYに該当する容疑者はいなかった……

 犯人は階下の住民。被害者はアルファベットのYではなく、下向きの矢印「↓」を書こうとしたのだが、こと切れる寸前で上手く矢印を書けなかった。火村は、被害者がわざわざ壁に書いた、という事実から上下の関係がポイントになると見抜いて真相にたどり着いた。



・「女彫刻家の首」(短編)

 女性彫刻家がアトリエで殺害されるが、死体は首を切り取られて頭部が持ち去られており、代わりに彫刻の頭が置いてあった。しかし死体がアトリエの主であることは明白であり、また凶器が落ちていたため被害者が撲殺されたのも確実だった。死体の素性を隠すためでも無く、死因を誤魔化すためでもないのなら、犯人は何のために頭を持ち去ったのか?

 犯人は被害者の夫で、共犯はその愛人。夫は愛人に妻の変装をさせて目立つようにうろつかせ、犯行時間を誤魔化すアリバイ工作を企んだ。ところがいざ殺してみると妻が髪型を以前とは全く変えているのが解り、工作の意味が無くなってしまった。夫は妻の髪型が変わったことがばれないように、頭を切り取って持ち去った。もっとも夫と愛人は警察に捕まる前に交通事故で死んでしまうというオチ。



・「シャイロックの密室」(短編)

 倒叙物。犯人は恨みから強欲な金融業者を射殺し、あるトリックを用いて部屋を密室にする。やがて金融業者の死体が発見されるが、被害者が左利きなのに右手で銃を撃った状態になっていたため、すぐに偽装自殺と判明する。

 火村は犯人のところに乗り込み、密室トリックを説明する。ドアの内側には木のかんぬきがかかっていたが、犯人はドアの外から超強力な磁石で拳銃を吸い付けてドアの内側に張り付かせ、磁石を動かして拳銃でかんぬきを横に動かして密室を作ったのだった。



・「スイス時計の謎」(中編)

 コンサルタント会社の社長の死体が発見され、現場には腕時計のガラスの破片が散らばっており、また本人の腕時計が盗まれていた。金目の物は残っていたので、物取りの仕業とは考えられない。やがて、被害者は学生時代の友人五人と同窓会(リユニオン)を二年おきに開いており、腕時計はリユニオンの仲間が全員持っているおそろいのスイス時計と判明した。以下火村の推理。

1)壊れたのは犯人の腕時計。何故なら被害者の時計が壊れたならそのまま放置すればいいだけ。
2)犯人は被害者とつながりのない誰かではない。何故ならそんな人物なら、自分の時計が壊れたからといって被害者の時計を持ち去る必要はない。
3)つまり犯人はリユニオンの誰かで、自分の時計が壊れて、しかも事件直後のリユニオンに参加するときに時計が無いと目立ってしまうから、仕方なく被害者の時計を盗んで自分の物のように見せかけた。

 といったロジックを辿って火村は犯人を指摘する。

感想

 評価は○(そこそこ)

 有栖川有栖作品はアンソロジーで読んだことはあったものの、一冊丸々読むのは初めて。まあ悪くはないと言えばそうなのですが、特に感心したという程でも無く……、物語の語り手が作者と同名キャラ「有栖川有栖」なのにはウェーッという感じでした。何故日本の作家はこう作者名と同じキャラを自作に出したがるのか、みたいな抵抗感が有りましたね(似た事例:法月綸太郎綾辻行人



・「あるYの悲劇」

 Yの字が実は下向き矢印の書き損ね、というのは結構感心した。


・「女彫刻家の首」

 推理物でよくある「首なし死体」にした理由が髪型だった、というのはなんというか意表を突かれました。もっともオチの「犯人と共犯は警察に捕まる前に勝手に事故で死んでしまいました」というのは何なんだよという感じでしたが。


・「シャイロックの密室」(短編)

 超強力磁石で密室を作る云々というのはちょっと面白いけど、真面目な推理物というより子供向け探偵クイズみたいな内容だったなという印象。


・「スイス時計の謎」

 物凄い理詰めで犯人を突き止める話。もっともここまで行くと、もう推理小説の謎解きというより「頭の体操」に出てくる論理パズルを思わせ、名探偵の謎解きという感じじゃないなぁという気がした。いやまあ、名探偵の推理が論理的な理詰めなのは当然ですが、さすがにこれはやり過ぎというかそんな感じでした。


 ということで、謎解きはきちんとしていて、悪くはないとは思いましたが、なんとなく好みでは無かったなぁとそういう感想です。
 

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