【映画】感想:映画「帰ってきたヒトラー」(2015年:ドイツ)

帰ってきたヒトラー [Blu-ray]

BS朝日 http://www.bs-asahi.co.jp/movie/
放送 BS朝日 2018年9月29日(土)

【※以下ネタバレ】
 

世界中を沸かせた“超問題アリ”ベストセラー、恐れを知らぬ映画化!


現代に戻ったヒトラーが、モノマネ芸人としてブレイク。やがて再び、大衆の心を捉え始める―。


ヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?「不謹慎なコスプレ男?」顔が似ていれば、「モノマネ芸人?」。リストラされたテレビマンに発掘され、復帰の足がかりにテレビ出演させられた男は、長い沈黙の後、とんでもない演説を繰り出し、視聴者のドギモを抜く。自信に満ちた演説は、かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸と認識され、過激な毒演は、ユーモラスで真理をついていると話題になり、大衆の心を掴み始める。しかし、皆気づいていなかった。彼がタイムスリップしてきた<ホンモノ>で、70年前と全く変わっていないことを。そして、天才扇動者である彼にとって、現代のネット社会は願ってもない環境であることを―。

 

あらすじ

 アドルフ・ヒトラーは突然空き地で目覚めるが、戦争中にも関わらず敵の姿が見えず、また周囲の建物が全く破壊されていないことを不思議がる。やがてヒトラーは新聞の日付から今が2014年であることを知り、自分が時間を飛び越えたことに気が付く。そして新聞を熟読し、ドイツの現在の状況を把握する。

 一方、テレビ局社員のザヴァツキは、いきなり局を首にされて困っていたところ、偶然ヒトラーの存在を知る。そしてヒトラーを「本物そっくりにふるまうコメディアン」と誤解し、ドイツ各地を連れまわして面白動画を撮影してネットにアップしようと考える。しかしヒトラーはすぐに主導権を握り、市民に政治の不満を聞いて回る企画に変え、市民は面白がって「ヒトラー」のインタビューに答える。やがて、その動画はネットでかなりの再生数を稼ぐようになっていった。

 ザヴァツキは満を持してテレビ局にヒトラーを売り込みに行くが、ヒトラーは単身局長のベリーニの元に乗り込んでしまう。ベリーニはヒトラーのキャラクターを気に入り、試しにヒトラーを政治風刺番組に出演させてみる。そこでヒトラーは現代ドイツの政治をこき下ろすが、視聴者は毒舌系のコメディアンが出演したと思い込み大歓迎する。そしてヒトラーは瞬く間に有名人となる。

 しかし副局長ゼンゼンブリンクはベリーニの追い落としを画策しており、ヒトラーがザヴァツキと旅していた時に犬を撃ち殺した時の映像を入手し、それをテレビで放送する。これが問題となり、ヒトラーはテレビから降ろされ、ベリーニは責任を取らされてクビとなり、ゼンゼンブリンクは局長に昇格した。

 ヒトラーはザヴァツキの家に転がり込み、新しい本を執筆した。ザヴァツキはその原稿をベリーニに持ち込み、出版させる代わりに、本が映画化される暁には自分を監督にするという条件を飲ませる。出版された「帰ってきたヒトラー」は大ヒットとなり、ヒトラーは再び大人気となる。ヒトラーフェイスブックを利用して、自分に心酔する男たちを集め、親衛隊を組織し始める。

 一方、ゼンゼンブリンクの局はヒトラーがいなくなった後視聴率が低迷し、末期症状を呈していた。ゼンゼンブリンクは、局の復活のためヒトラーを呼び戻すことを決意し、ザヴァツキに対し映画の資金提供を申し出て関係修復を図る。

 そんなある日、ユダヤ人の老婦人がヒトラーに出会い、これは本物のヒトラーだと叫ぶ。ザヴァツキはヒトラーが現れたという場所が「総統地下壕跡地」だったことを知り、ヒトラーはそっくりに扮したコメディアンなどではなく「ヒトラー総統」その人だと確信する。そしてベリーニにその事を伝えるが、狂人扱いされ、看護人に追い回される。

 ザヴァツキはなんとかその場を逃れ、ヒトラーを脅してビルの屋上に連れて行き、銃で撃って転落させる。しかし何故か下にヒトラーの死体は無く、しかもザヴァツキの後ろに現れ、「国民が自分を選んだ」「あの時代も悪いばかりでは無かった」と言う。実は屋上の一幕は全てが撮影中の映画のワンシーンだった。現実では、ザヴァツキは心を病んだとみなされて、精神病棟に入院させられていた。

 ドイツでは移民排斥の動きが顕著になっていた。その状況にヒトラーは「機は熟した」とつぶやく。完。

感想

 評価は○。

 めっちゃくちゃ面白くて、視聴していて時間も忘れて見入ってしまいました。

 映画内容の紹介では「コメディ」と書かれていますが、笑うような要素は無いので正直言ってこの分類は間違っていると思います。まあ、ヒトラーが大真面目でドイツの現状をこき下ろしているのに、それを聞いている周囲の人々は「ヒトラー総統の真似をしているだけ」と思って適当に聞き流している様がコメディだと言っているのかもしれませんけど…… 私が分類するならこれは「寓話」ですね。「もし現代ドイツにあのヒトラーが蘇ったら、国民はどう反応するのか?」というIFを描いたファンタジーです。

 さて、アドルフ・ヒトラーと言えば、私のイメージでは絶叫調で景気の良い事を演説している姿しか思い浮かばないのですが、この映画のヒトラーは、一見穏やかですが、確固たる意志を持ち、他人に強い影響力を与える有能な人物として描かれています。

 ヒトラーを利用しようとするテレビ局の人間たちは、彼を面白おかしいコメディアンとしか見ていないのですが、逆にヒトラーの方はザヴァツキ・ベリーニ・ゼンゼンブリンクたちについて的確に分析しているなど、随所で切れる人間であることが強調されています。

 そして最後は、単なるコメディアンの筈のヒトラーが、屈強な黒ずくめの男たちを従え、自分を「ボス」と呼ばせ、圧倒的な存在感を見せている。あくまでファンタジーではあるものの、最近のドイツの、というか世界中の右傾化の様子を見ると、本当にヒトラーが帰ってきたらドイツ人は大喜びで迎え入れるのでは、とか考えさせられました。まあ、そのあたりを批判する意図も含めた作品なのでしょうけどね。

 エンターテインメントとして面白く、同時に世界情勢について考えさせられる、良く出来た映画という感想です。


おまけ

 ヒトラーが現代ドイツの状況を知り、各政党を全て切って捨てるのですが、特に面白かったのが「SPDドイツ社会民主党)」に対する批判。

SPDドイツ社会民主党の現状には涙を禁じ得ない。パウル・レーベ! フリードリヒ・エーベルト! オットー・ヴェルス! かつてのルンペンどもは骨の有るルンペンだった!』、って、それ褒めてんのかけなしているのか解らん(笑)
 
 

2018年
9月29日(土)よる9:00~10:59
帰ってきたヒトラー
【公開】2015年
【監督】デヴィッド・ヴェンド
【出演】オリヴァー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト


原題/Er ist wieder da
制作年/2015
制作国/ドイツ
内容時間(字幕版)/116分
ジャンル/コメディ


アドルフ・ヒトラー オリヴァー・マスッチ(飛田展男
ファビアン・ザヴァツキ ファビアン・ブッシュ(増元拓也
カッチャ・ベリーニ カッチャ・リーマン(勝生真沙子
クリストフ・ゼンゼンブリンク クリストフ・マリア・ヘルプスト(板取政明)
フランツィスカ・クレマイヤー フランツィスカ・ウルフ(小若和郁那)


スタッフ
監督
ダーヴィト・ヴネント
製作
クリストフ・ムーラー
製作
ラース・ディトリッヒ
脚本
ダーヴィト・ヴネント
脚本
ミッツィ・マイヤーほか
撮影
ハンノ・レンツ
音楽
エニス・ロトホフ

 
 

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