感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第7話「もう一つの鍵」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 

第7話 もう一つの鍵(かぎ) LADY IN WAITING (第1シーズン(1971~1972)・第5話)

 

あらすじ

べスは兄のブライスが社長を務める会社の幹部、ピーターと交際中。だが交際をやめないと彼を解雇すると宣告され、何かにつけて支配的な兄の殺害を決意。ブライスのキーホルダーから家の鍵を抜き取り、ブライスが窓の方にやってきたところを、巧みに誘導し、ブライスを射殺。警察も強盗と間違えて撃ったとみるに違いない。だがその計画にはある誤算があった。

●序盤
 
 ベス・チャドウィックは、兄・ブライスが社長を務める広告会社の幹部ピーター・ハミルトンと交際していた。しかし、ベスの生活を厳しく縛るブライスは、ピーターとの交際にも口を出し、別れなければピーターを解雇すると脅す。生活を兄に干渉されるのに辟易していたベスは、プライス殺害のため、ブライスのキーホルダーから家の鍵を抜き取り、また玄関の電球を切れた物に取り換えておく。

 ベスの計画では、夜帰宅したブライスは、玄関の鍵が無い事に気が付き、家に入れてもらおうとベスの部屋の窓まで近づいてくるはずなので、ブライスを招き入れてから射殺し、不審者と間違えて撃ってしまったと言い訳するつもりだった。

 夜、出張から戻って来たピーターは、ブライスから届いた解雇をほのめかす手紙を見て、文句を言うためにチャドウィック邸へ向かう。

 同じころ、帰宅したブライスは、玄関前の鉢植えに隠してあったスペアキーでドアを開けて入ってきてしまい、動転したベスは慌ててブライスを射殺する。ベスはすぐさま現場を偽装するが、そこに銃声を聞いたピーターが駆け付けてきたので、ベスはなんとか用意していた言い訳をする。


●中盤

 裁判ではベスは過失と見なされ無罪となった。兄から解放されて浮かれるベスは、すぐさま自分が亡き兄の後を継いで社長になると宣言し、ピーターを副社長に引き上げると、同時に婚約を発表する。また衣服や髪型も派手な物に変えていく。ピーターは、ベスが自分に何も相談せず全てを一人で決めてしまうことに不満を漏らすが、それを聞いたベスはピーターを見限る。

 コロンボは、チャドウィック邸の玄関に誰かが持ち込んだ夕刊があったこと、被害者の靴に当日刈ったばかりの芝生の芝が付いていなかったこと、玄関の植木鉢にスペアキーを置いていた痕があった事、ベスがブライスの死の一か月以上前に派手な新車を注文していたこと、等から、ベスの証言は嘘でブライスの死はベスの故殺だと確信するが、決定的な手掛かりは一つも無かった。コロンボはピーターに協力を求め、犯行当時の事を思い出すように頼む。


●終盤

 夜。ベスの部屋の窓を誰かがノックし、ベスはコロンボが来たのだと思って銃を構えて窓に近づくが、部屋のドアからコロンボが現れて驚く。コロンボはピーターの証言で、ブライスの死んだ夜は、まず銃声がしてから、次に非常ベルが鳴ったと指摘する。それはベスが窓から入って来たブライスを誤って撃ったという証言が嘘であることを示していた。ベスはコロンボに銃を向けるが、警官が部屋を囲んでいると諭され、諦めて着替えのために出ていく。


感想

 評価は○(ぎりぎり)。

 犯人の緻密に立てたはずの犯行計画が予定通り展開しない、という珍しいエピソード。全体的には手堅い作りだが、犯行を指摘するクライマックスが弱いため、評価としては今一つというところ。


 このエピソードで面白いのは、「犯人は(犯行時点では)社会的な地位を持ったセレブではない」というところ。他作品の犯人たちは、ビジネス・芸術・研究等々で成功をおさめ、自分自身について絶対的な自信を持っていて、コロンボとも自信満々に渡り合うのが作品の基本的な流れとなっている。

 ところが本作の犯人ベスは、少なくとも犯行時点では「大金持ちの家の娘」に過ぎず、過去に自分では何も成し遂げていない。そもそも、兄が自分の人生を束縛しているので殺す、という犯行の動機も実に思慮が浅いし、自分では完璧に用意したはずの犯行計画が何一つ予定通りに行かず、慌ててバタバタしてしまうあたりも、人間的な未熟さを感じさせる。

 またコロンボにしつこく付きまとわれて、怒りで電球を叩きつけ、癇癪を起こしながらピーターに文句を言うシーンも、大企業の社長を務められる器にはとても見えない。ベスは自信満々で会社の改革をぶち上げていたが、実務経験のなベスが社長では早晩行き詰ってしまうだろうことは想像に難くない。

 兄を殺して縛るものが無くなったため、浮かれて全能感に浸っているものの、例えコロンボに計画殺人を暴かれなくても、いずれビジネスで行き詰ってしまい、どっちにしろ破滅が待っていただろうと思えた。とにかく犯人の人間的な未熟さが際立つ作品だった。


 本作では、コロンボが犯人の犯行の決定的な証拠をつかむのは、自力ではなく、ピーターによる証言(銃声が先で非常ベルが後)なので、どうにもコロンボが活躍した感が薄い。もちろんそこまでに、コロンボはあちこちを調べて回り、ベスの証言と矛盾する状況証拠をいくつも見つけているので仕事をしていないわけではないのだが、決定打が他人任せというかそういう形になってしまっているのがいただけない。物語の締め方として実に弱く、どうにも満足感が低かった。このエピソードがイマイチ印象に残らないのは、この〆め方の弱さが原因だろう。


 被害者ブライス・チャドウィックを演じたのはリチャード・アンダーソン。SFドラマシリーズ「600万ドルの男」「バイオニック・ジェミー」のゴールドマン役が有名。また、ピーター役レスリー・ニールセンは、映画「フライング・ハイ」や「裸の銃を持つ男」シリーズ等でのボケまくりの演技が有名になり過ぎて、普通のキャラクターを演じていると、どうにも違和感が凄い。元々はコメディ俳優ではないのだから、普通の演技をしていて当たり前ではあるのだが…… 


 サブタイトルの原題「LADY IN WAITING」は意味は「待っている女」というところ。ベスが兄を射殺するために自室のベッドで待ち構えているシーンを意味しているのだろうが、ひねりも何も無いそのままという気がする。


備考

 放送時間:1時間16分。
 
 

#7 もう一つの鍵(かぎ) LADY IN WAITING
日本初回放送:1972年


「犯人側のドラマに重きを置いた」異色のエピソード。演出のノーマン・ロイドは『ヒッチコック劇場』のプロデューサー兼監督を務めた人物。映画『裸の銃を持つ男』主演のレスリー・ニールセンがピーター役で出演。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ベス・チャドウィック・・・スーザン・クラーク(小沢紗季子)
ピーター・・・レスリー・ニールセン(柴田昌宏)
チャドウィック夫人・・・ジェシー・ロイス・ランディス鈴木光枝
ブライス・・・リチャード・アンダーソン(小林恭治


演出
ノーマン・ロイド


脚本
ティーブン・ボッコ

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック