感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第14話「偶像のレクイエム」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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perry-r.hatenablog.com
 

第14話 偶像のレクイエム REQUIEM FOR A FALLING STAR (第2シーズン(1972~1973)・第5話)

 

あらすじ

往年の名女優ノーラ・チャンドラーは、過去に出演した作品の損失を会社に押し付けていた。その事実を記者のパークスにかぎつけられ、口止め料を要求される。彼を殺そうと決意したノーラはパークス邸のガレージにガソリンをまき、車を爆発炎上させる。しかし乗っていたのはパークスではなく、彼の婚約者でノーラの秘書のジーンだった。

●序盤

 往年の大女優ノーラ・チャンドラーは、今ではすっかり落ち目になり、テレビドラマの仕事が中心になっていた。ある日ノーラは、ゴシップ記事専門の記者で裏では恐喝を働いているジェリー・パークスの訪問を受ける。

 実はノーラは、かつてある映画の製作で200万ドルの大赤字を出したものの、それを全て撮影所に押し付けた過去があり、パークスはその事実を撮影所の株主たちが知ったらどうなるかと脅し、これをネタに大金を要求してきた。しかも、ノーラの長年の秘書ジーンはパークスに篭絡されており、パークスと結婚する予定だと舞い上がっていた。

 ノーラはパークスの邸宅のガレージにガソリンをまき、パークスの車が戻ってきたところでガソリンに火をつけ、車を炎上させる。しかし、犯行後何食わぬ顔をしていたノーラは、パークスの車に乗っていたジーンが事故で死んだと知らされる。


●中盤

 コロンボは、ノーラに、事故当夜、ジーンはパークスとデートをしており、自分の車のタイヤがパンクしていたので、パークスの車を借りてパークスの家に行ったと説明する。コロンボは、この事情を放火犯は知っているはずはないので、犯人は本当はパークスを殺すつもりで、人違いでジーンを殺したはずだという。

 コロンボはパークスを訪問し、何者かがパークスの命を狙ったと説明するが、パークスは犯人の心当たりは無いという。そしてノーラに関しては、彼女と夫アールは実は不仲だったこと、そしてアールは13年前マリブビーチで行方不明になった、という話をする。

 撮影所を訪問したコロンボは、所長から、撮影所の経営が左前にも拘らず、ジーンは撮影所内にある自身の屋敷も土地も売ろうとしないと愚痴を聞かされる。そんな中、ノーラは突然コロンボに、自分はパークスに秘密を握られていると訴え、令状を取ってパークスに秘密を提出させるように頼む。

 コロンボ、ノーラ、撮影所のオーナーのシモンズ、の三人はパークスの家に行き、かつてノーラが撮影所に損害を押し付けた証拠の帳簿を提出させる。ところがシモンズは既に10日前にその件をノーラ自身から聞いていて、不問にすることにしたという。つまりノーラにとってパークスの脅しは意味がなく、パークスを殺そうとする理由も無かったことが判明してしまう。

 コロンボはノーラに、ジーンの車はパンクしていたのではなく、空気が抜かれていただけと解ったと伝える。しかもわざわざ空気を抜いた後バルブを付け直しているので、単純なイタズラでも無い事になり、コロンボはノーラに、彼女がジーンを狙って殺しただろうと推理したことを遠回しに伝える。


●終盤

 夜。パークスは何者かの車にひき逃げされるが、かすり傷で助かる。コロンボは、ノーラの夫が参加していたティークラブの指輪を用意するとノーラを訪ね、パークスがひき逃げされて瀕死の状態だと嘘を言い、さらにパークスが指輪を持っていたと言ってノーラに見せる。ノーラは慌てて自宅の屋敷に飛んでいき庭をチェックするが、その瞬間コロンボが現れ、ジーン殺しで逮捕すると告げる。

 コロンボは、屋敷の庭に置いてある噴水から水が出ていないこと、ノーラが屋敷を売ることを断固拒否している事、噴水が設置されたのが13年前の1960年9月16日であること、ノーラの夫が失踪したのがその前日9月15日であること、を指摘する。

 観念したノーラは、13年前夫婦喧嘩の末に夫を殺してしまい、庭に埋めて噴水でごまかしたこと、マリブで目撃されたのは自分の変装だったこと、ジーンは全ての秘密を知っていたこと、を告白し、コロンボと共に屋敷を後にした。



監督 リチャード・クワイン
脚本 ジャクソン・ギリス


感想

 評価は○(そこそこ)。

 正直言って「コロンボ物」としては異色すぎて面白くはないが、単なる「ミステリードラマ」としてならまずまず、という、微妙な評価の作品だった。


 本作は、冒頭にノーラの犯行シーンが描かれ、犯人が誰かは解っているので、いつもの倒叙型ストーリーに見えるのだが、実は背景も含めた事件の真相は視聴者には終盤まで伏せられたまま、というトリッキーな構成となっている。そのため、最後の最後に明かされた意外な事実にはあっと驚かされた。

 このエピソードは、コロンボ物におなじみの、些細な矛盾点から犯人をしつこく追及していく、という展開が無いため、コロンボファンにはまったくもって物足りない。ところが、中盤にノーラが自分からコロンボに200万ドルの横領の話を明かし、しかもそれがパークスの命を狙う理由にならないことを示した時点で、冒頭のノーラの行動の意味が解らなくなり、視聴者は頭が混乱してくる。

 そして終盤、パークスがひき逃げ未遂に逢ったあと、コロンボが「ティークラブ」の指輪を求め、それをノーラに見せ、ノーラが慌てて帰宅し、という一連の流れはもう意味不明のまま視聴することになるのだが、そのあとコロンボがそれまでに提示されていた伏線を一気につなぎ合わせて事件の真相を示すあたりは、まさに仰天させられた。

 改めて見直してみると、「ノーラの亡くなった夫はティークラブの会員だった」、「ノーラと夫の体格はほとんど同じ」、「古い映画の中でノーラが男装するシーンがある」、「ノーラの夫はマリブビーチで行方不明になった」、等々、事件の真相にたどり着くための手掛かりは何気ない会話の中にしっかりと隠されており、推理物としてフェアな作りだったと解る。

 ということで、本作は『コロンボ作品』としては全く面白いとは思わないのだが、視聴者に巧みなトリックを仕掛けた単発ミステリードラマとしてとらえれば、なかなかに面白かった。初期の第1~第2シーズンの頃は色々と試行錯誤をしていた、という事が良く解る一作だった。


 さて、事件の解決に重要な役割を果たした「ティークラブ」の指輪だが、視聴者的には「ティークラブ」とは一体何なのか全く分からず困惑するところである。実は、劇中では「ティークラブ」と言っているが、英語版では「shriners」と言っており、「フリーメーソン」に関連する組織とのこと。もっともフリーメーソンは都市伝説で語られるような陰謀組織ではなく、このシュライナーズも、パレードに参加したりする友愛クラブの様なものらしい。確かにコロンボも「叔父はクラブでバンドをやっていた」云々と語っている。


 劇中でノーラの友人として衣装担当の「イーディス・ヘッド」なる人物が登場し、コロンボにネクタイを見立ててくれていた。実はこの人物は架空のキャラクターではなく、リアルにハリウッドの伝説的衣装デザイナーで、その大物が本人役で登場してくれたとのこと。ノーラ役のアン・バクスターとは現実にも親しかったため、その縁で出演してくれたそうである。1897年生まれ、1981年没、アカデミー賞には35回ノミネートされ、内8回受賞した伝説のデザイナー、とのこと。
 
参考

伝説の衣装デザイナー イーディス・ヘッド ー 20世紀・シネマ・パラダイス
http://cinepara.iinaa.net/Edith_Head.html

cinepara.iinaa.net

 
 本作のサブタイトルは、原題は「REQUIEM FOR A FALLING STAR」で、意味は「堕ちたスターへのレクイエム(葬送曲)」くらいになり、解りやすいがあまりにも直球すぎるきらいがある。かといって、日本語版サブタイトルは、英語版を元にしつつも何か意味がぼけてしまっており、やはりピンとこない。


備考

 放送時間:1時間14分。
 
 

#14 偶像のレクイエム REQUIEM FOR A FALLING STAR
日本初回放送:1973年


1940年代から活躍し、アカデミー賞も受賞した女優のアン・バクスターが、犯人役を熱演!撮影所の舞台裏をうかがい知ることができるストーリー展開となっている。彼女と親交が深かったハリウッドを代表する衣装デザイナー、イディス・ヘッドも本人役で登場。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ノーラ・チャンドラー・・・アン・バクスター(藤波京子)
パークス・・・メル・ファーラー(小山田宗徳
ファロン・・・フランク・コンバース(西山連)
ジーン・・・ピッパ・スコット(牧野和子)
シモンズ・・・ケビン・マッカーシー家弓家正


演出
リチャード・クワイン


脚本
ジャクソン・ギリス

 

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