【ミステリー】感想:歴史ミステリー番組「ダークサイドミステリー」(2020年版)『感染症パニック! “見えない恐怖” なぜ人類は間違えるのか?』(2020年7月23日(木)放送)

感染症の世界史 (角川ソフィア文庫)

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇
背筋がザワザワ、心がドキドキ、怖いからこそ…見たくなる!
世界はそんなミステリーに満ちている。
未解決の事件、自然の脅威、不思議な伝説、怪しい歴史など、謎と恐怖の正体に迫ります!

 

感染症パニック! “見えない恐怖” なぜ人類は間違えるのか? (2020年7月23日(木)放送)

 

内容

感染症パニック!“見えない恐怖”なぜ人類は間違えるのか?
[BSプレミアム]2020年7月23日(木) 午後9:00~午後10:00(60分)


人類やらかし病気秘話が数々。感染予防の手洗いに医学界が猛反対?病の原因は井戸への毒?感染封じに大虐殺?疫病退散の神頼みで動物絶滅?病気の闇に潜む知られざる悪夢。


マスク着用か?経済優先か?100年前、ある都市が“見えない恐怖”で大混乱に!あなたを襲う感染症。不安を悪化させるのが、原因がわからないことによる社会のパニックだ。「あいつらが毒を井戸に投げ込んだ!」間違った思い込みが、デマや差別を生み、民族虐殺の悲劇を招いた。権威ある医者たちの誤りによる、女性患者の大量病死。疫病退散の神頼みが招いた、ある動物の滅亡。科学が進歩した現代でも続く人間と社会の弱点とは?


【ナビゲーター】栗山千明,【ゲスト】山本太郎,岡本亮輔,【司会】青井実,【語り】中田譲治

 
 今回のテーマは「感染症


●幕末のコレラ流行

 昔の日本では「虎狼狸」(コロリ)と呼ばれる疫病に何度も襲われ、特に安政五年(1858年)には江戸でコロリが大流行した。コロリの症状は、極度の嘔吐と下痢、脱水症状、そして突然死。民衆はパニックに陥り、迷信の薬「煎じた黒豆」「桑の葉」「ミョウガの根」などに飛びつき、また疫病退散を願う「コロリ祭り」も行われた。

 コロリとは現代でいうコレラのこと。水の中に住むコレラ菌が飲食物から体内に入ると、腸の中で増殖し、排せつ物と共に再度水の中に広がる。

 意外にも当時の日本人は、コロリの原因は目に見えない小さな生き物のせいだと考えていた。その一つが「管狐(くだぎつね)」という日本古来の妖怪。

 その他にも「千年モグラ/雷獣」(顔は馬、足は赤子、サイズは猫、の妖怪)という日本古来の妖怪も原因と考えられたが、別の資料では千年モグラは「アメリカ狐」というアメリカ産の妖怪とも記されていた。当時はペリーが鎖国を解かせてから四年ほどで、日本人は外国人を警戒していた。

 また安政五年(1858年)5月に長崎に入港したアメリカ船の船員にコレラ患者が発生してこれが日本全国に流行していた。そのためアメリカからきた狐が病気を運んだと考えたのである。さらにイギリス船が「イギリス疫兎(-えきと)」を放ったという噂も流れていた。

 疫病の原因がキツネやウサギなら、ニホンオオカミがそれを退治してくれる、という発想で、ニホンオオカミの頭蓋骨を削って飲むという治療法が考えられた。秩父地方の三峰神社には神の眷属のオオカミのお札を求めて人々が殺到したという。もっとも頭蓋骨を求めてニホンオオカミが乱獲され、絶滅の原因になったという。



●細菌とウイルスの違いとは?

・細菌は単細胞生物。サイズは1/1000ミリ~1/100ミリ。光学顕微鏡で来ることができる大きさ。水と栄養と適切な環境が有れば分裂して増殖する。

・ウイルスはサイズは細菌のさらに1/10~1/100のため、電子顕微鏡でないと見えない。たんぱく質の殻の中に遺伝情報を伝える物質が入っているだけなので、分裂・増殖は不可能。他の生物の細胞に寄生し、自分のコピーを増やす。



●中世のペストの大流行と虐殺

 17世紀のヨーロッパの医者は鳥のくちばしのようなマスクをつけていた。くちばしの部分には薬草が入っており、目の部分はガラス。当時は疫病の原因は悪い空気だと考えられており、その空気に触れないようにするための物だった。

 14世紀から18世紀にかけてヨーロッパを襲った感染症がペスト。突然の発熱から嘔吐・下痢・リンパ節の腫れをおこし、体が黒く変色して発病から五日ほどで死ぬ。そのためペストは「黒死病」とも呼ばれた。

 1346年~52年の大流行は、中央アジアからイタリアを経由して広がり、当時のヨーロッパ人口の60%、5000万人が死んだともいわれる。裕福な人々は感染を逃れるため郊外の屋敷に閉じこもった。当時のステイホームである。

 当時の人も病気が人から人への接触で移ることは知っていたが、原因が目に見えないペスト菌だとは知る由も無かった。そのため病気の原因は神の罰だと考えていた。しかし学者たちは、もっと科学的に原因を追究し、1348年、当時ヨーロッパ最高峰の医学機関フランス・パリ大学医学部は、「火星や木星などの惑星の不吉な配置、地震などの異常気象、動物たち大量の死骸、によって発生する腐敗した空気「瘴気」のせいである」とした。

 この考えは、紀元前5世紀の古代ギリシャの世界観から来ていた。世界を構成する天体・空気・大地・水が正確に動いている時には問題はないが、バランスが崩れると汚染物質が発生し、病気の元になる、と考えられていた。

 しかし当時の庶民にしてみれば「宇宙のバランス」が原因と言われてもピンとないし、「神の罰」説では自分たちが悪いことになってしまう。そこで「ユダヤ人が井戸や泉に瘴気を発生させる毒を入れた」と考え、当時迫害されていたユダヤ人を犯人にして、ユダヤ人を虐殺してまわった。

 例えば、1349年2月にはフランス・ストラスブールで感染が始まってもいないのに、ユダヤ人の虐殺が行われた。最終的にはユダヤ人10000人が虐殺されたとされる。



●手洗い誕生秘話

 17世紀、ようやく人類は発明されたばかりの顕微鏡でしか見えない小さな生き物が体に付着していることを認識した。そしてこれらの微生物が病気の原因ではないか、とする説も生まれ始めていたが、医学関係者は19世紀半ばまで「病気の原因は瘴気」だと信じ続けていた。

 19世紀、オーストリア・ウィーンの産科で働く医師「イグナック・ゼンメルワイス」は、出産直後の母親が高熱で死ぬ謎の病「産褥熱(さんじょくねつ)」について奇妙な事実を知る。ウィーン大学の産科は二つあり、医師・医学生が担当する第一産科と、助産婦が働く第二産科が有ったが、産褥熱の死亡率は第一産科が18.2%なのに、第二産科は2.8%と遥かに低かった。

 ゼンメルワイスは二つの産科を徹底比較したが、ほとんど差は見られず、瘴気説ではこの違いを説明できなかった。そして、異なっているのは第一産科の医師だけが死亡した患者を解剖していることだと突き止め、ゼンメルワイスは死んだ母親から「死体粒子」とでもいうべきものが医師の手に付着し、その粒子が他の母親に付着して産褥熱を引き起こしている、と推測した。

 その対策として、ゼンメルワイスは医師たちに手洗いを指示し、水で洗うだけではなく塩素系の薬品も使用し、さらに爪もブラシで洗うようにさせた。その結果、第一産科の産褥熱の死亡率は3.0%まで低下したのである。

 ゼンメルワイス1861年に論文で産褥熱の原因は瘴気ではなく感染であり、それは予防可能と訴えた。ところが他の医者たちは「医者が病気を蔓延させていた」という説を一切認めずゼンメルワイスを猛攻撃したため、ゼンメルワイスは精神を病み、1865年に46歳で亡くなった。


 しかし1876年に、ロベルト・コッホは「コッホの三原則」を打ち立て、「病気の原因とおぼしき細菌を採取し、それを培養し、そして別の動物に接種して同じ病気になれば原因はその細菌」という考えで、次々と病気の原因は細菌だと判明していったのである。そして手洗いの重要性も科学的に認められるようになっていった。



●インフルエンザの流行

 1918年、第一次世界大戦中に「スペイン風邪」と呼ばれたインフルエンザが世界的に大流行した。医学者たちは患者たちから原因と思われる細菌を見つけ、それを元にワクチンを作ったものの、全く効果が無く感染は拡大し続けた。何故ならインフルエンザの原因は細菌ではなく、より小さなウイルスだったからである。

 1918年9月、アメリカ・サンフランシスコにもインフルエンザが上陸した。市の保健委員会委員長ウイリアムハスラーは流行を防ぐため、ワクチン接種を進める一方、人が集まる施設を閉鎖し、市民のマスク義務化を実施した。さらに新聞広告で「マスク着用は自分だけではなく子供や隣人の命を守ることになる」と訴えた。

 市民は、マスクをつけることは社会を守ることになり、ひいてはヨーロッパで戦っている兵士たちの命を守ることになる、と考え、使命感と愛国心から自主的にマスクを着用し、義務化される前に市民の99%はマスクをつけていたという。

 そのおかげで11月には流行は収まり、マスク義務化は解除された。ところが11月11日に第一次世界大戦が終わったことで人々の気が緩み、マスク義務化が解除された21日の前から人々はマスクを付けないようになっていた。そして12月に入ると再度インフルエンザの流行が始まり、ハスラーは再度のマスク義務化を訴えたものの、既にクリスマスシーズンに突入していたため、人々はインエルエンザに感染する危険よりクリスマスを楽しむことを優先し、この案は市議会に却下されてしまった。

 その結果、サンフランシスコでのインフルエンザでの死者は3500人に登り、そのうち1400人はマスク義務化解除後の死者だったという。



●現在の状況

 それから100年経っても人類は未だ感染症と戦い続けている。そしてエイズハンセン病患者に対する偏見や誤解が患者やその家族に対する不当な差別となり、人権侵害を引き起こしている。


感想

 新型コロナウイルスが蔓延する中でのまさに旬のテーマ。

 中世のペスト、幕末のコロリ、100年前のインフルエンザ、という有名な流行の事例をとり上げていましたが、人類は昔から何一つ変わっていないんだな、と痛感させられる内容でした。中世のユダヤ人への迫害と、今のコロナ発症者への陰湿な嫌がらせ・差別は何も変わってない。

 また100年前にもマスク着用義務化とかステイホームとか実施していた、という事実には目を見張らされました。もっとも結局うまくいかなかったという史実は、将来の展望に絶望しか感じられませんでしたが……

 これ、地上波でも放送して愚かな国民を教育すべきなんじゃないでしょうか……
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
MC 青井実 (アナウンサー)
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
ペスト (新潮文庫)
ペスト (新潮文庫)