【特撮】感想:特撮「ウルトラQ 4Kリマスター版」第28話(最終回)「あけてくれ!」

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ウルトラQ 4Kリマスター版 NHK https://www4.nhk.or.jp/P5138/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

第28話(最終回) あけてくれ!

 

あらすじ

ウルトラQ 4Kリマスター版 [終](28)あけてくれ!
[BS4K] 2021年10月04日 午後11:15 ~ 午後11:41 (26分)


35mmフィルム原版から4Kリマスター。「現実からの逃避」。この世から逃げ出し理想郷へ行けるのなら。沢村は、空を走る電車に乗っていた。そこにはSF作家の男が。


誰でも一度は考えたことがあるだろう「現実からの逃避」。もし、この世の嫌なことから逃げ出して理想郷へ行くことができるのなら……。会社員の沢村は、気づくと空を走る電車に乗っていた。そこにはSF作家の友野という男が……。もともと35ミリフィルムで制作されていた1966年放送の特撮ドラマを4Kリマスター。だれも見たことがなかった「ウルトラQ」。


【出演】佐原健二,西條康彦,桜井浩子

 
登場 … 異次元列車

 夜、万城目と由利子は一平を置き去りにしてドライブとしゃれこむ。置いて行かれた一平は、夜の空に列車が走っているという摩訶不思議な光景を目撃する。

 やがて万城目は道路に中年男が倒れているのを見て、ひき逃げだと思い助けようとするが、由利子は男が酔って寝ているだけだと気が付き立腹する。それでも二人は男を車に乗せて出発するが、男は踏み切りで停車した途端、突然「あけてくれー!」とわめきながら列車に飛び込もうとする。


(場面転換)


 中年男(沢村)は、酔って知らないうちに列車に乗り「あけてくれー!」と叫んでいた。そこに車掌が現れ切符の提示を求めるが、沢村は切符を持っていなかった。さらに彼はその列車が貸し切りらしいことに気が付く。

 列車の乗客の一人はSF作家の友野健二で、彼の説明によれば、この列車はわずらわしい現実世界を離れた別世界へのジャンプ台のような物で、沢村のように現実に疲れ異世界に生きたがっている人を運んでいるのだと言う。沢村は列車の外に自分の過去や家族の姿が映し出されるのを見て「あけてくれー!」と叫ぶ。


(場面転換)


 一ノ谷博士は沢村に催眠術をかけて、彼の体験を聞き出していたが、万城目や由利子は本当の事とは信じられず困惑する。研究所には、やはり沢村と同じように騒ぐ女性が連れてこられており、新幹線のトンネルで発見されたとのことだった。万城目と由利子は友野の家を訪ねるが、友野は一年半前から旅行に出ており、たまに原稿が何処からか届いたり、電話があるだけで、本人は行方不明だという。

 一方、沢村は研究所に迎えに来た妻と娘と共に帰っていくが、妻からは「酔って他人に迷惑をかけて恥ずかしい、目を見て話さないのが気に入らない」などとひたすら小言を言われ、娘はその様子を見て冷え切った夫婦仲を嘆いて泣き出す。いたたまれなくなった沢村は午後四時なのに会社に向かうが、上司からも罵倒され、「お世話になりました」と言って出ていく。

 万城目と百合子は一ノ谷博士のお供で警視庁についていき、過去、電車が突然空に浮かんで消えてしまうという怪事件が二回も発生している事を知らされる。その後、二人は当てもなく車を運転していると、突然故障でストップする。そして後部座席には、いつの間にか友野の原稿を入れた封筒が置かれていた。

 その原稿には、友野自身の体験が書かれており、ある日現実世界に疲れた友野が地下に向かうエレベータに乗ると、全くの別世界にたどり着いた、という内容が記されていた。二人は、友野は今はその異世界に暮らしており、そこから原稿を送ったり電話をしていると推測する。

 夜。沢村はうつろな目で町を歩き回りながら、空を飛びまわる列車を見上げ、「俺も連れてってくれー!」と叫び続けていた。<完>。


脚本:小山内美江子 監督:円谷 一 特技監督:川上景司


感想

 評価は◎(傑作)。

 ウルトラQでは数少ない「怪獣・宇宙人」が登場しないエピソード。他の作品とムードがかなり異なるものの、内容的にはウルトラQ屈指の傑作。


 「異世界への失踪」という都市伝説のようなテーマを扱う異色回で、さらに他の回とはまるでムードが違うエピソード。怪獣・宇宙人も、「1/8計画」の人体縮小装置、あるいは「悪魔っ子」の幽体離脱現象、のようなSF・ホラーめいた設定も無く、万城目と百合子が、有るかどうかも定かではない別世界について調べていく、という、なんとも不思議な雰囲気の回ですが、凄く面白い回でした。

 内容は、SF作家の友野が、日常に疲れたままエレベーターに乗って降下したら、理想の異世界に到着していた、とか、普通に使われていた列車が突然宙に舞い上がり、そのあとこの世界と異世界とを結んで運航している、とか、完全に理屈を超越した、とりとめのない、「幻想物」とでもいうべき展開となっています。しかしテーマが「疲れた人間の別の世界への逃避」という普遍の物を扱っているだけに、放送から50年以上経っているのに、今見ても面白い。

 人間誰しも日常が嫌になって、面倒のない理想の生活を夢見ることもありますが、そういう気持ちを題材にして、絶妙の上手さで30分のエピソードにコンパクトにまとめています。友野の台詞「最近勤め先で上手くいっていませんね。疲れすぎて何もかも煩わしく、奥さんやお嬢さんたちからも逃げ出したい。誰もいないところに、どこか遠いところにいってしまいたい。そうでしたね」は実に身に沁みました。そんな理想世界があるなら、連れて行ってもらいたいと心底思いましたよ。

 こういう理想郷テーマの話の場合、「実際には案内人が言うような素晴らしい世界では無かった」パターンが多いのですが、この話はそこをひねっているのが感心させられます。理想の世界はちゃんとあり、そこに行く絶好の機会もあったのに棒に振ってしまい、二度といけなくなってしまった、という展開にしてあり、実に残酷。

 最後に沢村が、この嫌でたまらない世界に取り残され、疲れきった虚ろな顔で叫びながらよたよた歩いていくシーンで「終」となるという突き放したようなオチが悪夢過ぎました…… 最終回がこれでは後味の悪さが凄い……、まあ、そういう方向を目指した番組だったと思うので、そんな風に受け取られたら大成功なのでしょうけどね。


 事実上の主役・沢村を演じたのは柳谷寛氏で、第19話「2020年の挑戦」では宇田川刑事を演じた方。ウルトラQの傑作にこの人あり、という感じです。また不思議な雰囲気のSF作家・友野を演じたのは、特撮ファンにはお馴染みの天本英世氏でした。


 ところで友野の回想で車掌に「むさつじょうしゃですね」と言われるシーンがあり、何のことやらと思っていたのですが、切符を買わずに乗る無賃乗車の事を「無札乗車」というんですね。初めて知りました。



 
異次元列車
ウルトラQ怪獣あけてくれ 異次元列車カラーソフビフィギュアエクスプラスX-PLUS
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
Vol.2
ウルトラQ Vol.2 [DVD]
Vol.3
ウルトラQ Vol.3 [DVD]
Vol.4
ウルトラQ Vol.4 [DVD]
Vol.5
ウルトラQ Vol.5 [DVD]
Vol.6
ウルトラQ Vol.6 [DVD]
Vol.7
ウルトラQ Vol.7 [DVD]