【科学】感想:NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 2021」『精神改造 恐怖の洗脳計画』(2022年3月24日(木))

CIA洗脳実験室~父は人体実験の犠牲になった~

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 https://www.nhk.jp/p/ts/11Q1LRN1R3/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 
※他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ
perry-r.hatenablog.com
 

科学は、人間に夢を見せる一方で、ときに残酷な結果をつきつける。
理想の人間を作ろうとした青年フランケンシュタインが、怪物を生み出してしまったように―
輝かしい科学の歴史の陰には、残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズ。


ナビゲーター/ナレーション 吉川晃司 (ミュージシャン)

 

精神改造 恐怖の洗脳計画 (2022年3月24日(木)放送)

 

内容

フランケンシュタインの誘惑「精神改造 恐怖の洗脳計画」
[BS4K] 2022年03月24日 午後9:00 ~ 午後9:45 (45分)


アメリカCIAの極秘プロジェクトMKウルトラ。東西冷戦のさなか洗脳技術の確立を目指し危険な人体実験が行われていた。科学は人の思考や行動をコントロールできるのか?


科学は、人の思考や行動を、どこまで意のままにコントロールできるのか? 1953年からアメリカCIAが極秘で推し進めた洗脳実験プロジェクト「MKウルトラ」。幻覚剤や電気ショックなど数々の危険な人体実験を行い、死者・廃人を多数生み出した恐るべきものだった。そのひとつ、カナダでの実験を指揮した精神科医ユーウェン・キャメロンの闇に迫る。よりよい社会を作るために精神疾患を治療しようと始まった研究の結末は―



【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司

 
 今回のテーマは「精神科医ユーウェン・キャメロン」。


●「精神の操縦」誕生

 精神科医ユーウェン・キャメロン(1901~1967)は、1901年スコットランド生まれ。ロンドンで博士号を取り、北米に渡ると、1928年・27歳の時に精神疾患の病院の責任者に任命された。

 当時、精神疾患は原因不明で、患者は鍵のかかった部屋に監禁され、ほぼ退院できないため、絶望の施設と呼ばれていた。治療としては、わざとマラリアに感染させたり(マラリア感染症法)、インスリンを過剰に投与したり(インスリン・ショック症法)、電気ショックを与えたり(電気ショック症法)、という乱暴な事をしているだけだった。キャメロンは、治療の手掛かりとして、患者の行動を写真に取ったり言葉を録音したりして正確に記録することを提唱した。

 1942年、41歳のとき、キャメロンはモントリオールマギル大学に招かれ、精神病院・アラン研究所の初代所長となった。キャメロンは、病院に鍵をかけて閉じ込めることを止め、入院ではなくデイサービス(通院)で治療を受けられるようにした。この画期的な試みで、キャメロンと研究所の名は世界的に有名になった。

 1950年、キャメロンはある論文で、薬物で昏睡状態を引き起こし性格を作り直す、という研究を知る。キャメロンは精神疾患はトラウマで脳にダメージを受けて発症すると考えており、脳を攻撃して昏睡状態を作り出せばトラウマは消え病は治る、と考えた。キャメロンはこれを「人間の白紙化」を名付けた。

 キャメロンは、まず幻覚剤LSDを試してみたが効果なし。次に電気ショックで、当時確立されていた方法の40倍、さらに二日に一回が限度のものを二十日間連続で試してみたがこれも効果なし。

 1953年、キャメロンは偶然から、統合失調症の患者にある言葉を繰り返し聞かせると患者が最終的に素直になる、という事を発見した。1956年、キャメロンは「サイキック・ドライビング/精神の操縦」という論文を発表した。

 キャメロンは、電気ショックで患者を昏睡状態にした後、患者をベッドに寝かせて外部からの刺激を遮断し、テープで「私はダメな人間だ」といったネガティブな言葉を繰り返して一日15時間・7日間聞かせ続ける。そのあと「あなたは紙きれを拾う」といった言葉を一日15時間・3日間聞かせると、患者は言われた通りに紙を拾うような行動を見せた。

 マイナスの言葉で脳を白紙化し、そのあと望ましい行動を書き込む。キャメロンは、精神疾患の新しい治療法を見つけたと考えた。マスコミはこれを賞賛し「役に立つ洗脳」と呼んだ。



●極秘「洗脳」計画

 1957年、キャメロンにCIAが接触してきた。朝鮮戦争では、北朝鮮側の捕虜になったアメリカ兵が共産主義を賞賛するようになった映像が流され、アメリカ側にショックを与えていた。これは共産主義側の洗脳によるものと考えられ、CIAはそれに対抗するため自分たちも洗脳の研究プロジェクト「MKウルトラ」を立ち上げた。これには80もの大学・研究機関が関わり、二百人の研究者が参加した。

 プロジェクトを仕切ったのは「CIAの毒殺部長」とあだ名されたシドニー・ゴッドリープ。ゴッドリープはカストロなどの毒殺を計画し、また諜報員に自殺用に毒薬を持たせるなどとしていた。

 CIAハはキャメロンのサイキック・ドライビングが洗脳に応用できると見て、七万ドル(一億円)の資金援助を行った。キャメロンの病院がカナダにあり、実験台にされるのがアメリカ人ではなくカナダ人だというのも好都合だった。

 キャメロンは、病院の患者たちに、同意も得ずに勝手に洗脳実験を開始。最初は統合失調症の患者だけだったが、そのうち症状に関係なく手当たり次第に洗脳の対象にした。

 その一方で、1961年に世界精神医学会議の会長となり、まさしく世界一の精神科医として認められていた。



●「洗脳」計画の失敗

 1961年。ケネディが大統領になると、金ばかりかかって成果の上がらないMKウルトラの見直しを命じた。CIAがキャメロンの病院を視察すると、諜報活動に使えそうな洗脳どころか、まともな成果は何一つ上がってい無いことが判明した。そのためCIAは資金を打ち切り、やがてMKウルトラ自体が中止されてしまった。

 キャメロンは定年前の1964年に大学を辞め、後任の所長には副所長だったロバート・クレグホーンが就任した。クレグホーンは前任者のサイキック・ドライビングについて調査し、記憶喪失を起こすだけで、治療法としては何の効果も無いと結論付けた。

 1967年、キャメロンは死去した。享年65歳。



●暴かれた罪

 1974年、ニューヨークタイムズは、スクープでCIAの洗脳計画「MKウルトラ」をすっぱ抜いた。キャメロンによって実験台にされていたと知った被害者たちは、アメリカ政府とCIAを訴えたがどちらもまともに対応せず、被害者たち1988年に和解に応じるしか無かった。支払われた金額は75万ドルだったか、裁判にかかった費用を差し引くと殆ど残らなかった。



●洗脳実験 恐怖の「成果」

 キャメロンが開発したサイキック・ドライビングは、その後洗脳ではなく別の分野で応用された。CIAによる拷問マニュアルでは、痛みによる尋問は真実を引き出す効果は薄いとして、感覚を遮断して精神を弱らせて真実を聞き出す手法が記載されている。また悪名高いグアンタナモ収容所で捕虜に対して行っていたのが、まさしく外界からの刺激を遮断して苦しめる手法だった。結局のところ、キャメロンが開発したのは、新しい精神病への治療法などではなく、新しい拷問方法に過ぎなかった。


感想

 暗い話題が目白押しのこの番組でも、特にロボトミーとか心理学実験とかの医療系の話題は見ていて憂鬱になりますが、そのラインナップにまた一つ気分が悪くなるエピソードが追加されました……、イヤー、見ていてキツイよねこういうの。

 父親が治療を受けに行ったら、別人になって帰って来た、とか、ロボトミーの時とそっくりの悲劇でウっとなりましたよ……
 
 
 

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