【ゲームブック】感想:ゲームブック「モンスター誕生」(スティーブ・ジャクソン/2021年)【クリア】

Fighting Fantasy 24 Creature Of Havoc (Puffin Adventure Gamebooks)
Fighting Fantasy 24 Creature Of Havoc

http://www.amazon.co.jp/dp/4815606951
ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび 単行本(ソフトカバー) 2021/7/16
安田均グループSNE (著)
出版社:SBクリエイティブ (2021/7/16)
発売日:2021/7/16
単行本(ソフトカバー):1416ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

モンスター誕生
既存作品と視点を変え「モンスター」側を描いた異色作。たんに立場が逆転しているのみならず、読み進めていくことで「自分が何者であるのか」が徐々に把握できるようになる演出が秀逸。

 
 昨年2021年7月に発売されたゲームブック5冊詰め合わせセット「ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび~」

ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび~ | SBクリエイティブ
https://www.sbcr.jp/product/4815606954/

www.sbcr.jp
 
 の中の一冊「モンスター誕生」(スティーブ・ジャクソン/本国イギリスでは1986年発売)をクリアしたので感想をば。

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」24作目。「アランシア」を舞台とするファンタジー作品。


あらすじ

 君は、知性を持たず本能だけで生きる凶暴な怪物だ。迷宮の片隅で目覚めた君には、自分が何者なのか、どこからやって来たのか、何故ここにいるのか、これからどうすべきなのか、何一つ解っていない。君が自分の運命を見いだせるかどうかは、君の怪物としての選択にかかっている。


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は460。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールとしては、戦闘時に受けるダメージは(通常ルールの2点ではなく半分の)1点。また攻撃時にゾロ目を出した場合、「即死」というルールで一撃で相手を倒すことが出来る。


感想

 評価は◎(やりごたえのある大作)。

 FFシリーズ24作目。スティーブ・ジャクソンがFFシリーズの総決算として執筆した的な作品で、ボリューム、背景設定の充実度、随所に用意された仕掛け、等、全てが豪華な、やりがいのある大作ゲームブックでした。


 この作品の最大の特徴は、主人公がFFシリーズの過去に類を見ない「過去の記憶を一切持たない」「モンスター」という、二重に異色なキャラクターであることでしょう。


 まず「モンスター」という点について語ると、フィクションには「主人公が人外の存在で、人間は敵側」という作品はままありますが、本作でのスティーブ・ジャクソンの巧妙なところは「ただ敵と味方の立場を入れ替えてみた」にとどまらず、随所で「主人公が知能のないモンスター」であることを表現しているところです。

 主人公は、序盤は、目覚めたばかりの本能だけで生きる生物のため、分身である読者ですら肉体のコントロールが出来ません。例えば「XXを調べるか? それとも、すぐにその場を離れるか?」といった選択肢が提示された場合、「離れる」を選んだとしても、結果は「君はその場を離れようとしたが、肉体はいう事を聞かず、その場でXXを調べ始めた」という様に、読者の意図を無視するような状態になることがしばしば。

 また、進行方向で道が左右に分かれていた場合、どちらに進むかは自分の意志では決められず、「サイコロを振って、1~3が出れば右へ、4~6が出れば左へ それぞれ進む」といった具合に、あらゆることが思うにまかせません。

 さすがに、このような行動の制限は序盤だけで、やがて主人公に知能らしきものが芽生え、意図した行動をとらせることが可能になります。しかし「選択させることが命のゲームブックで、読者の選択したことを無視して話を進める」というやり方で、主人公が知能のないモンスターであることを表現したのは、実に巧みです。


 またモンスターらしさはそれだけにとどまらず、例え肉体のコントロールは出来るようになっても、言葉は一切理解することが出来ません。そのため、他のキャラに遭遇して話しかけられても、また何かの文章を目にしても、全て「!#%&=○▽×」のように意味不明な音・記号としてしか受け取ることは出来ないので、意思疎通も情報収集もできません。他のキャラクターと遭遇しようが、手掛かりらしき資料を発見しようが、戦うか放置するか、くらいしかできない。しかも、そのままの状態では結局デッドエンドの袋小路から絶対に抜け出せません。というように、そのままでは自分が知能の低い獣であることを痛感させられて終わりです。

 ところが、あるイベントを経験して知能が上昇し、結果として言語が理解(解読)出来るようになった途端、モンスター(読者)にとって見える世界がガラリと変わります。今まで謎の音・記号でしかなかったものから意味を読み取れるようになり、その中で「これこれの条件の場合は、パラグラフXXXへ飛べ」と書いてあるのを見つけた時には、心底感激しましたね。

 ゲームブックでは「パラグラフジャンプをしなければ真のルートにたどり着けない」という手法は珍しくありませんが、そこに暗号解読を組み合わせたことで、「モンスターの知能が向上したことで、デッドエンドを乗り越え、真の道へと進むことが出来るようになった」ということを実に見事に表現しています。このやり方を思いついたジャクソンは本当にすごいとしか言いようがありません。



 また「主人公は、怪物であるだけでなく、過去の記憶をすっかり失っている」という設定がまた上手い。ゲームブック本編の前には「背景」として17ページにわたり世界設定が語られており、死霊術師ザラダン・マーの生い立ち、関連人物名、アランシアの現状、等が綿密に説明されています。それでいて、その直後に読者は記憶喪失のキャラクターとして、どこともわからない場所に放り出されるわけですから、読者としては「このモンスターは、直前に説明された物語とどうつながっているのか?」と一刻も早く知りたくてたまらなくなるわけで、実際、夢中になってプレイをすることになりました。

 さらに、地下帝国を脱出し、第二部とでもいうべき地上での冒険に突入すると、『背景』で語られていた人物や場所と次々と出会うことになるので、何かイベントが発生するたびに「これが背景で説明されていた、あのXXか!」と、プレイしていて盛り上がりました。



 本作には先に触れた「パラグラフジャンプ」が、その後にも何か所も仕込まれており、漫然とプレイしていると必ず行き詰るように作られていたのが実に印象的でした。なにせ、プレイしていて何度も何度もジャクソンが仕掛けた罠(袋小路や無限ループ)に引っかかってしまい、その度にやり直しプレイを強いられたからです(笑) いやはや、これほど全ての罠に引っかかったら、作ったジャクソンとしても本望でしょう(多分)

 ちなみに、大抵の場合は、ジャンプすると一旦気づけば、どこが起点になるかは迷いませんでしたが、最終盤のザラダン・マーの隠れ家を見つけるジャンプだけは、起点について本当に悩みました。手掛かりがあいまいだったこともあり、文字通り「ドア」からジャンプしようとしては不正解になるという事を繰り返してしまい……、まさかあんな場所が起点だったとは…… まあ解ってしまえばそれなりに納得はしましたけど……



 本作は、終わってみれば、主人公が「ガレーキープに乗り込んで来たザラダン・マーに敗北し、記憶を消され怪物にされ、迷宮に閉じ込められ」たあと、「怪物として迷宮から脱出し、ガレーキープまで戻り、ザラダン・マーを倒して記憶と元の姿を取り戻す」という、対称というか、合わせ鏡というか、巻き戻しというか、の物語になっていたわけで、そういう構造になっていると気が付いた時に結構感激しましたね。


 ということで、本作は、パラグラフ数460と通常のFFシリーズ(パラグラフ数400)より15パーセントもボリュームがある上に、内容も実に凝りまくっていて、クリアしてみれば長大な小説を一冊読み終わったような感覚で、満足感もひとしおでした。さすがジャクソンが「最後のFF作品」という意気込みで作っただけの作品でありました。

 まあ、一つ二つ不満を言うなら、ガレーキープに乗り込んだ後、いきなり最終決戦に突入して拍子抜けでしたので、そこに至る前にもう一つ二つイベントが有れば良かった、というところでしょうか。あと、最後の最後で「ペチャクチャ獣の部屋のエルフの粉を浴びていないとデッドエンド」というのは、いくらなんでもあんまりだと思いました(笑)
 
 
 

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