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スーパー・ブラックオニキス (創元推理文庫) 文庫 1987/12/1
B.P.S. (著), 鈴木 直人 (著)
出版社:東京創元社 (1987/12/1)
発売日:1987/12/1
文庫:460ページ
★★【以下ネタバレ】★★
いつの日か「ロトの勇者」や「ギル」のような英雄になりたいという夢を心に秘めて旅をするあなた、その名はテンペスト。いましも呪われた街ウツロに冒険を求めてやってきた。この街の地下深くに、莫大な富と永遠の若さをもたらすという秘宝、ブラックオニキスが眠っているという噂を聞きつけたのだ。日本製RPGの元祖、〈ブラックオニキス〉登場。小説がすごろく式のゲームとドッキングしたスーパーアドベンチャーゲーム。
概要
1984年に発売されたBPS社の国産コンピューターRPG「ザ・ブラックオニキス」を原作とするゲームブック。「ドルアーガの塔」三部作(1986年)の作者・鈴木直人氏がドルアーガの次回作として発表した作品。
あらすじ
あなたこと戦士テンペストは、放浪の末に呪われた街ウツロにたどり着いた。この街のどこかに、莫大な富と永遠の若さをもたらすという秘宝「ブラックオニキス」が隠されているが、誰一人としてオニキスにたどり着いたものはいなかった。あなたは困難を乗り越え、ブラックオニキスを手に入れることが出来るか!?
ゲームシステムなど
パラグラフ数600。主人公のパラメーター(戦力・防御力・体力)有り、サイコロ振り有り、戦闘あり、持ち物管理あり、のオーソドックスなシステム。
主人公テンペスト以外に、途中から行動を共にする仲間三人のパラメーターも管理する必要あり。イベント発生毎にチェックリストにチェックを付け、どのチェックが入っているかで分岐が発生する。
感想
評価は◎(面白かった!)
「ドルアーガの塔」三部作で名声を確立したゲームブック作家・鈴木直人氏が、ドルアーガの一年後に発表した作品。この作品はドルアーガ三部作と比較すると知名度が段違いに低いので(※あくまで個人の感想です)、プレイ前はあまり期待していなかったのですが……
ところがどっこい! ゲームブックとしての面白さはドルアーガ三部作よりもまだ上でした! いやー、もうメッチャクチャ面白かった! (^_^)b
●システム
本作のゲームシステムは、ドルアーガ三部作をベースにさらに発展させたもので、以下の要素で構成されています。
・双方向移動マップ
ドルアーガと同じでマップ内を自由に移動可能。冒険の拠点となるウツロの街は特に何度も同じ場所に足を運ぶことになります。
・パーティーシステム
ゲームブックの主人公は単独で移動することが一般的ですが、本作では冒険をするうちに次々と仲間が加わり、最大4人で行動することになります。そのためキャラクターのパラメーター管理を四人分必要で、さらに戦闘システムもパーティー人数に応じてルールがどんどん追加されていくことになります。
・カレンダー
「カレンダー」として10月1日から20日までの日付毎の20個のチェックボックスが用意されています。本作は9月30日からスタートし、宿屋に一泊したり特定のイベントに遭遇したりする度に一日経過したことになるので、その度にカレンダーにチェックしていきます。ちなみにカレンダーは10月20日までしか無く、つまりその日までに冒険を終えられない場合はバッドエンドが待ち構えています。
・チェックリスト
「A-1」から「J-7」までの合計70個のチェックボックスがあり、イベント(誰かに出合う、何かを手に入れる、等)毎にどれかにチェックを入れていきます。そしてチェックは特定の場所で「もしA-1にチェックが入っているなら~、入っていないなら~」という様に分岐に使用されます。
●面白さを生み出す絶妙な組み合わせ
そして、本作は「双方向移動マップ」と「チェックリスト」の組み合わせで、他のゲームブックに無い素晴らしい面白さを生み出すことに成功しています。
ウツロの街の各所には「酒場」「武器屋」「宿屋」「寺院」等があり、それらは自由に何度でも訪ねることが出来ます。そしてそれらの場所には
・「A-1にチェックが入っているなら**番へ」
・「B-4にチェックが入っているなら**番へ」
・「C-7にチェックが入っているなら**番へ」
・「どれにもチェックが入っていないなら**番へ」
といった選択肢が存在します。
ゲーム開始直後はどのチェックも入っていないので、どの場所を訪ねても「チェックがはいっていない」しか選べず、結果として当たり障りのないイベントしか発生しません。ところが色々なイベントを体験しチェックリストが埋まっていくと、同じ場所を訪ねても発生するイベントが次々と変化していきます。
仮のプレイ例ですが、
1)最初のダンジョンをクリアすると、チェックA-1が埋まった
2)街に戻って酒場に行きA-1用の選択を選ぶと、次のダンジョンに関する重要情報が入手できた
3)次のダンジョンに探検に行き、クリアするとチェックB-4が埋まった
4)街に戻って酒場に行きB-4用の選択を選ぶと、新しい仲間が参加してくれた
という様に「イベントでチェックが埋まる→新しいイベントが発生する→新しいイベントでチェックが埋まる→…」という感じで数珠つなぎ的にストーリーが進んでいきます。
序盤はテンペストは一人でウツロの街を探索するくらいしかできませんが、チェックリストが埋まってくると、それに連動して酒場や寺院や宿屋やその他の場所で新しいイベントが発生して新展開に突入します。この流れが本当に面白くて、例えば今までは門前払いされていた場所で新しいイベントで中に入れるようになった時などは心の中でガッツポーズ状態になったりしました。
まあ、この「フラグを立てると次のイベントが発生」というのは、コンピューターゲームのAVGやRPGが内部でやっている事をそのままゲームブックで再現しただけではあります。コンピューターが自動で処理している作業を、わざわざ人間にやらせて手間をとらせている、という見方もできるわけですが、しかし本作はその面倒さを考慮しても面白いと思うことが出来たので、本作のシステムは成功だと思っています。
●鈴木直人風味
本作は基本的にはシリアスなストーリーで、秘宝を求めて命がけでダンジョン探索を繰り返すという展開はとてつもなく面白いです。しかし同時に各所に登場する「鈴木直人風味」のユーモアもまた楽しくてたまりませんでした。
テンペストと仲間のキャラとの掛け合いには妙に面白い台詞がありますし、とある場所では(ドルアーガに登場した)作者の分身パオトがシレッと再登場したりします。またパラグラフで唐突に作者自身のコメント(ボヤキみたいな内容)が現れたりするし。しかし、なんといっても最高傑作だと思うのは「悪の十字架」イベントでしょう(笑) これは読んでもう笑った笑った(笑)
●複雑型ゲームブックの最高峰
本作は、プレイするためにマッピング・チェックリスト・カレンダー管理・パーティー管理、ととにかくすることが多く、決して気楽にプレイできる作品ではありません。しかしその大変さを乗り越えてもプレイする価値がある作品だと断言できます。
「ドルアーガ」ではゲームブックのボリュームから考えてイベント数が少なすぎるという印象があったのですが、本作ではダンジョン攻略とイベントのバランスが絶妙で、途中でダレることなくひたすら作品世界に没頭しながらプレイすることが出来ました。
ゲームブックの完成度としてはあの有名なドルアーガすら上回っており、ゲームブック史上に残る一大傑作だと言えましょう。ただ誤字が大変に多く、あらかじめネットで正誤表を確認しておかないといけなかったのがちょっと残念でしたが、それを差し引いても素晴らしい内容でした。
ちなみに、最終パラグラフではいかにも次回作があるような描写がされているのですが、結局のところ続きが出なかったのが返す返すも残念です。とある箇所で語られていたように、「ファイヤークリスタル」や「ムーンストーン」といった冒険が読みたかったですね。